飯田橋駅周辺の都市基盤の再整備計画が本格化。駅と街はどうつながり、いつ変わる?
再編される都市基盤。今、飯田橋駅で何が起きようとしているのか
飯田橋駅に初めて訪れた方の中には、「乗り換え動線が少しわかりにくい」と感じた方がいるかもしれない。
飯田橋駅は、千代田区、新宿区および文京区にまたがって位置している。鉄道5路線が乗り入れているほか、駅東側エリアでは幹線道路3路線が交差する要衝ありながら、駅構造の複雑さや地形の影響から歩行空間が「歩きにくい」や「わかりにくい」といった課題を抱えている。
そうした中、千代田区をはじめとした3区やJR東日本、東京メトロ等で構成される「飯田橋駅周辺基盤整備推進会議(座長:東京都都市整備局都市基盤部長)」は、「JR飯田橋駅東口周辺」や「駅前立体広場(A2出入り口付近)」、「歩行者デッキ等(第1期区間:文京区〜JR飯田橋駅周辺)」の具体的な整備計画の取りまとめ案(「飯田橋駅周辺基盤整備計画(案)」)を2025年5月に公表した。
これまで、飯田橋駅周辺の都市基盤の再整備については、都を中心とする会議体が2020年9月に「飯田橋駅周辺基盤整備構想」を策定、続いて、2023年4月には「飯田橋駅周辺基盤整備方針」を策定し、駅周辺で行われる都市再開発と連動した“駅まち一体開発(鉄道駅や駅周辺の都市基盤の再整備や、地下鉄駅の顔づくりを進め、便利でにぎわいのある空間を創出する取り組み)”を推進してきた。
▶︎整備構想および整備方針の詳細
今回の「飯田橋駅周辺基盤整備計画(案)」は、整備構想の一部を具体化した内容をとりまとめたものとなる。そこで本稿では、同整備計画(案)において、具体的にどのような再整備が予定されているのか、また、どのように駅周辺は変化していくのか、周辺で予定されている市街地再開発を含めて周辺の動向を解説していく。
飯田橋駅の“わかりにくさ”と構造的課題
はじめに、JR飯田橋駅だが同駅は東西に2つの改札があり、東西に長い特徴を持つ。現在、駅ホームは直線区間に位置しているが、元は急曲線区間にホームが位置し、そのため、列車とホームとの間の隙間が大きく、たびたび転落事故が発生していた経緯がある。
JR東日本では2014年から改良を行うための検討等に着手し、2020年7月に西口側(新宿より)に約200m移動した。このことで、JR駅の主要口は西口に移るとともに、ホームから東口までの距離が長くなった。
また、東側ホーム階段・エスカレータの一つが閉鎖されたことで朝夕では地下鉄への乗り換え者で混雑している現状がある。加えて、将来的な予測として、駅周辺での市街地再開発が進むことでJR駅東口の利用者が増加しホーム階段が混雑することも想定されている。
次に 東京メトロと都営地下鉄とを結ぶ乗り換動線が複雑という課題がある。飯田橋駅は、鉄道5路線(JR総武線各駅停車、東京メトロ東西線・南北線・有楽町線、都営地下鉄大江戸線)が乗り入れており、1日当たり40万人以上が乗降する乗換駅となっている。約40万人となれば、JR山手線の主要駅に匹敵するが、地下鉄の出入り口や地下通路の空間が狭い上に乗り換動線がわかりにくい。
特にJR飯田橋駅の東口に各方面からの動線が集中していることが挙げられ、通路幅が狭いこともあり、混雑を招いている。そのほか、利用者数に対して歩行者が滞留するための空間の不足や、飯田橋交差点の上部に架かっている連絡歩道橋の機能不足、バリアフリーへの対応が課題とされている。また、駅近くには神田川が流れており、洪水浸水も想定されているものの、駅周辺には一時滞在施設が少なく帰宅困難者への対応も求められている現状がある。
駅とまちのつながりを再構築する5つの目標
前述した課題を受け、整備計画(案)では、目標を5つ設定している。いずれの目標も課題を解決していくうえでは重要と考えられるが、そのなかでも私が注目しているのは、目標1に当たる「道路・歩行者ネットワークの改善・強化」だ。理由は、飯田橋駅が抱えている本質的な課題の解決につながると考えられるためだ。
【目標】
目標1 道路・歩行者ネットワークの改善・強化
(1)「駅と駅」のつながりを強化する
(2)「駅とまち」のつながりを強化する
(3)歩行者優先を原則としながら、スムーズで便利な車両交通を確保する
具体的には、A4出入り口の改良整備や地下鉄乗り換え機能強化、目白通り沿いJR高架下の歩行空間の整備、歩行者デッキ等の整備などを整備項目として掲げている。
目標2 まちの機能の強化
(1)「まちとまち」のつながりを強化する
(2)まちの顔となる、ゆとりとにぎわいのある広場空間を創出する
目標3 災害への対応力の強化
(1)災害時にも安心して避難・滞在できる環境を整備する
目標4 魅力的な景観・環境づくり
(1)既存のみどりを生かした、目に見えるみどりのネットワークを形成する
(2)人々が憩うみどりの空間として、立体的なみどりを充実させる
(3)環境に優しい資源やグリーンインフラを活用する
(4)視認性の高い広場や地下鉄出入り口の再整備などを周辺の景観に配慮しながら実施する
目標5 地域の価値の持続的な向上
(1)質の高い都市基盤施設の整備と維持管理により、地域の安全性・快適性を向上させる
(2)公共空間の活用により、地域の交流や利便性を向上させる
(3)多様な主体が連携したマネジメント体制を構築する
都市基盤の再整備内容
では、どのように改善されるのか。焦点とされるのは、JR飯田橋駅の東口エリアとなる。地下鉄の出入り口改良や歩行者デッキの整備、滞留空間、立体広場の整備が行われる。文字のみではイメージしにくいと思われるので、整備計画(案)で明らかにされたイメージ(下図)を基に解説していく。
駅周辺の再整備については、周辺のまちづくり・再開発事業と連動しながら段階的に整備が進められる予定となっており、今回の整備計画(案)では、主に次の3つについて、具体的に事業が進められることが示された。注意したいのは今回の整備計画(案)で示された内容は、全体構想の一部にすぎず、今後、検討が進めば整備計画に順次追加されていく。
1つ目の都市基盤施設としては、「JR飯田橋駅東口周辺の整備」となる。具体的な都市基盤としては「JR飯田橋駅東口高架下」となる。規模については、現時点においては「JR飯田橋駅東口高架下」への“滞留空間を含む、ゆとりある歩行者通路の確保が可能な規模”とされており、明確な規模感は示されていない。加えて、同駅東口周辺の整備として「南広場」も計画されており、具体的な規模としては、地上および地下において面積約1,900m2の駅前立体広場が予定されている。
2つ目の都市基盤施設としては、A2出入り口の改良整備を含む「駅前立体広場の整備」となる。飯田橋駅A2出口へ地上および地下において面積約1,560m2の駅前立体広場が計画されている。併せて、混雑時や発災時にスムーズな移動が可能な幅員を有する階段、ならびにバリアフリーに配慮した昇降機能が設置される予定となっている。
3つ目の都市基盤施設としては、「歩行者デッキ等の整備(第1期区間:文京区〜JR飯田橋駅周辺)」となる。具体的な都市基盤としては、下図のように、飯田橋東口の北側(千代田区)から文京区へ至る歩行者デッキ等の整備となる。現状は、歩道橋が架かっているが、この歩道橋を“ゆとりのある歩行空間を確保する幅員”を有したデッキ等に整備される。ただし、具体的な規模感は示されていない。
市街地再開発との連動関係
今回、具体的な計画が示された3つの計画については、駅周辺で進められている市街地再開発が関係している。駅周辺では、再開発計画や今後まちづくりが想定されるエリアとして、8つのエリアが整備計画(案)中でも示されている。このなかでも、現在、具体的な再開発として実施に必要な都市計画決定等が行われているのが、3地区(飯田橋駅東地区、飯田橋駅中央地区、富士見二丁目3番地区)となる。
さらに、具体的な都市基盤の再整備が示されたものと関連するのが、飯田橋東地区および飯田橋駅中央地区の市街地再開発事業となる。東地区については、2021年6月に都市計画決定、2022年に10月は再開発組合が設立されており、高さ130m、地上26階の複合施設(事務所、店舗、公益施設、住宅等)が計画されている。
続いて、中央地区については、準備組合が2015年に設立、2024年3月に都市計画決定が行われている。今回示された整備計画(案)については、これらの再開発エリアを含む範囲で行われる計画となっている。
▶︎飯田橋駅南側で進行している市街地再開発事業についてはこちらの記事を参照
事業スケジュールと整備の進め方
整備計画(案)では、おおむねのスケジュール感が示されている。
具体的な案が示された、
・「①JR飯田橋駅東口周辺の整備」
・「②駅前立体広場の整備(A2出入り口の改良整備を含む)」
・「③-1歩行者デッキ等の整備(第1期区間:文京区〜JR飯田橋駅周辺)」
については、整備完了時期として2029〜2033年度であることが示されている。その他の整備項目については、“開発の実情に応じて整備時期検討”とされる。
また、整備計画(案)では、“整備の計画が具体化かつ深度化したものを順次追加し、段階的に策定することとする”という文言が記述されており、上記の3項目以外については、今後、具体的な検討が行われた後に詳細計画が明らかにされていくものと考えられる。
なお、整備計画(案)については、2025年5月12日から同年6月10日までパブリックコメントが実施されており、今後、集まった意見等を踏まえて整備計画が策定・公表される。
飯田橋駅の都市基盤の再整備がもたらす新しい日常
2025年5月に公表された「飯田橋駅周辺基盤整備計画(案)」では、駅が抱える構造的課題を踏まえ、まちづくりと連動した都市基盤の再整備が段階的に進められる計画が示された。
今回の計画では、JR飯田橋駅東口エリアを中心に、地上および地下の双方で歩行者動線の確保、駅出入り口の改良、立体広場の整備、そして文京区側との接続を担う歩行者デッキ等の整備が主な整備対象とされた。また、整備の完了時期としては2029〜2033年度ごろを目指しており、そのほかの整備項目についても、今後の開発事業の進捗や社会的要請を踏まえて段階的に具体化される見通しである。
同駅は、駅施設に加え、幹線道路や高速道路、神田川、江戸城外堀を有しており、改良にあたっては構造上緻密な検討・設計が求められる。そのような中、整備計画が示されたことで5路線乗り入れのターミナル駅への利便性改善に向け前進していると思われる。
一方で、普段はインフラ・都市基盤の再整備に関心の少ない市民感情とすれば、同整備計画(案)は、現時点では整備計画と再開発との関係が限定的に示されているのみのため、将来イメージを想像しにくいかもしれない。
今後、各再開発事業の進展に伴い、組合の設立や事業計画の認可が進むことで、今回の整備計画も具体的な設計へと移行していくことでより明確にイメージできるはず。その過程において、駅機能や街並みの変化に関して、今後も本メディアで丁寧に紹介していきたい。