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働けない、眠れない…発達障害育児で限界に。「自分が休むことも子育てのうち」安心感につながったのは

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働けない、眠れない…発達障害育児で限界に。「自分が休むことも子育てのうち」安心感につながったのは

監修:新美妙美

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教

子育てと仕事の両立の難しさを痛感する日々

発達障害のある子どもを育てながら仕事を続けるのは、想像以上に難しいと感じてきました。特に大変だったのは、タクの特性からくる「予想外の予定変更」が日常茶飯事だったことです。

たとえば、職場に着いてパソコンを立ち上げた直後に小学校から電話がかかってきて「機嫌が悪いのですぐに迎えに来てください」と言われることもありました。ようやく業務を始めようとした瞬間に抜けざるを得ない状況は、職場の人に申し訳なく、自分も何度も心が折れそうになりました。タクは小学校で体調不良や気だるさを訴えることも多く、正直「仮病なんじゃないか」と疑ってしまったこともあります。そんな自分にあとで罪悪感を抱くのですが、それくらい頻度が多かったのです。

さらに先生から「落ち着かない様子だけど服薬していますか?忘れているなら持ってきてほしい」と連絡があった時には、「薬がないと学校にも居られないのか……」とマイナス思考が止まらなくなり、泣きながら職場を抜けて学校に向かったこともありました。通院や発達相談も平日の日中にしか受けられないことが多く、どうしても有休を使わざるを得ません。気づけばカレンダーには病院や相談窓口の予定ばかり。

職場の理解を得ているつもりでも「また休むのか」と思われているのではないかと、後ろめたさが消えることはありませんでした。「周りの“普通の親”のように働けない」という気持ちが、私をより苦しめました(以前は定型発達の子育てをしている人が羨ましくてたまらなくて普通という括りに憧れていました)。

同年代の友人が正社員としてキャリアを積んでいる姿を見ると、自分だけ取り残されているように思えて、どうしても焦りや悲しさが募ります。生活のために働いているはずなのに、子育ても仕事も中途半端にしかできていない……そんな自己嫌悪を抱える日々が続きました。

体が動かない……身体が発していた限界サインを無視した結果

そんな日々を続けるうちに、私は少しずつ自分の限界に近づいていきました。最初に現れたのは体のサインでした。寝つきが悪くて入眠まで2、3時間かかり……そして深夜の覚醒。寝ても疲れが取れず、休日も起き上がるのがつらい。頭では「やらなきゃ」と分かっているのに、体が動かないことが増えていきました。

週末はスポ少で野球をしていたので、平日の疲れを週末に癒すこともままならない日々が続きました。同時に心にも余裕がなくなっていきます。気力が湧かず、何をしても楽しめない。小さなことにイライラして、家族に強くあたってしまう自分に自己嫌悪を繰り返しました。

特に怖かったのは「やらなきゃ」が「やれない」に変わっていった時です。食事の支度や洗濯といった日常の家事すら後回しになり、どんどん積み上がっていく。節約したいのに惣菜や外食が増えてしまって自責の念に押しつぶされそうになりました。

そして余裕を失ったツケは、子育てに大きく影響しました。冷静でいたいのにイライラが止められず、タクの小さな問題行動に必要以上に怒鳴ってしまうことも……。さらに追い込まれた時期には、手を上げてしまったことさえあります。最終的には児童相談所にお世話になるほどでした。

たくさん泣いて苦しんで何も手につかないほど悩んだ期間でしたが、あの出来事があったから「この子育ては私一人じゃ抱えきれない、周りに頼らないと駄目なんだ……!」と身をもって理解することができました。

親が休むことも子育てのうち……そう思えてから前向きになれた

限界を経験してからは「自分が休むことも子育てのうちだ」と考え直すようになりました。たくさんの支援機関での面談や私自身のカウンセリングを通して、今までの子育ては無理があったと認められるようになりました。

といっても、いきなり長い休暇を取ることは難しい。だからまずは、日常の中で“無理をしない時間”をつくることから始めました。たとえば家事や仕事をすべて完璧にこなそうとしない。具体的には、洗濯物を何日も溜めてしまっても無駄に自分を責めない。夕飯をお惣菜や外食に頼っても、節約よりも自分のメンタルを保つための必要経費だと割り切るようにしました。

また、夫や家族に協力をお願いすることも意識しました。最初は頼ることに罪悪感がありましたが、「これ以上無理をしたら続かない」と正直に伝えることで、少しずつ家事や送迎を分担できるようになりました。

それに加えて、ほんの数分の“ミニ休息”も大切にしました。5分だけ目を閉じて深呼吸する(イヤホンで瞑想音楽を聴くのがおすすめです)自分のためにドリップコーヒーを淹れてゆっくり飲む。仕事帰りにコンビニでスイーツを買ってすぐ食べる。そんなささやかな工夫が、驚くほど気持ちを軽くしてくれました。

休息することへの罪悪感を手放そう

また、タクが小学5年生の頃、周りの強い勧めもあり、放課後等デイサービスだけでなく「入所受給者証」を取得しショートステイ(短期入所)を行っている福祉型障害児入所施設に申し込みました。

入所支援を受けるために必要な「入所受給者証」は児童相談所との相談の上、各都道府県の児童相談所に申請を行います。交付の決定後に、指定障害児入所施設などで当該指定入所支援を受けることができます。

https://h-navi.jp/column/article/35025518

障害児入所支援とは障害のある子どもが施設に入所し、自立した生活を送ることができるようになるための支援を受けることができる制度で、各都道府県が管轄しています。
児童入所支援には医療行為が伴う医療型障害児入所施設、医療行為を伴わない福祉型障害児入所施設の2種類があります。どちらのサービスも利用するのに入所受給者証が必要となります。
障害児入所支援では長期に渡って入所する場合もあれば、ショートステイ(短期入所)と言って一定期間のみ入所するというサービスもあります。

https://h-navi.jp/column/article/35025518

最初は子どもを預けようとする自分を責めそうになったこともありましたが、「いざとなれば頼れる場所がある」と分かっただけでも気持ちに余裕が生まれ、実際にショートステイを利用することはありませんでした

発達障害の子育ては、定型発達のお子さんを育てるより精神的な負担が大きいと言われています。実際に、精神的な問題のリスクが高いといった研究もあるようです。

私自身も親としての責任感の強さが裏目に出て、何度も限界を感じ追い込まれてしまうことがありました。そんな私を救ってくれたのは「休むことは贅沢ではなく、生き延びるための戦略」だと考え直したことです。「自分の機嫌をとるのも育児の一部」という言葉を、私は身をもって実感しています。

頑張り屋さんほど休息を後回しにしてしまうもの。でも本当は、休むことは立派な育児スキルの一つです。小さな外食、数分の深呼吸、誰かにちょっと頼ることからでも構いません。今日からできる小さなレスパイトを見つけて、あなた自身の心を守ってあげてくださいね。

執筆/もっつん

(監修:新美先生より)
発達障害のあるお子さんの子育ての中で、保護者の方の疲れがたまった時の「レスパイト」という考え方について聞かせていただきありがとうございます。

発達障害のあるお子さんを育てながら仕事や家庭を両立するのは、想像以上に大きな負担です。予期せぬ呼び出しや、日々のケアの継続によって、保護者の方の生活や心身が圧迫されていくことは珍しくありません。体験談にあるように「やらなきゃ」が「やれない」に変わってしまうというのは、まさに心身が限界に達しているサインですね。そんなときに「休むことも子育てのうち」と考え直せたことは、とても大切な一歩だと思いました。

子育てでは、親が自分を犠牲にしてでも頑張ることが“美徳”のように言われるような風潮があります。しかし実際には、保護者の方も休息をとることで、保護者の方ご自身が心身ともに元気でいられることは、子どもにとっても安心できる家庭環境を守るために欠かせない大切なことです。もっつんさんがおっしゃるように、負担を減らすために、家事ハードルを下げること、手間と時間に課金をすること、ちいさなご褒美で自分をねぎらうことなどはどんどんやっていきましょう。また、自分だけに負担が集中しないように、周りを頼ることも大切です。家族・親戚・友人・知人など頼れるところはうまく頼っていきましょう。とはいえ、周囲の人は頼るとかえって面倒になることもあります。ショートステイや放課後等デイサービスといった公的なレスパイト仕組みも、「親が倒れないための安全弁」として準備されています。利用の有無にかかわらず、「いざとなれば頼れる場所がある」と思えること自体が、日常を支える大きな力になりますね。市町村によって使える仕組みはさまざまです。お住まいの市町村の窓口や児童相談所などに早めに聞いておくこともオススメです。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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