世界を揺るがせた、3本の論文 ――アインシュタイン1905年の奇跡【3か月でマスターする アインシュタイン】
「相対性理論」の創始者である天才物理学者・アインシュタイン。ブラックホールやタイムマシン、4次元時空といった現代物理学やSFの世界で語り継がれるトピックの源流を築いた人物です。
1905年、彼は「光量子仮説」「ブラウン運動」「特殊相対性理論」の3つの論文を発表します。わずか1年で次々と発表されたこの3つの研究は、物理学の常識を根底から覆し、科学史に残る大変革をもたらしました。この1905年は、のちに“奇跡の年”と呼ばれるようになります。
今回は、『NHK 3か月でマスターする アインシュタイン』より、“奇跡の年”に生まれた3本の論文の核心に迫ります。
奇跡の年、1905年
さまざまな研究者の論文に目を通しては、友人と議論を交わす。若き日のアインシュタインは、自然科学の謎を解くことに熱中しました。
そして1905年(26歳)、後に歴史的発見となる「光量子仮説」「ブラウン運動」「特殊相対性理論」についての論文を次々に発表します。しかし、これらの論文を書き記したのは特許局に勤める無名の若者。画期的な内容ではあるものの、容易には受け入れられませんでした。
ところが、著名なドイツの物理学者マックス・プランクがアインシュタインを評価したことがきっかけで、ほかの学者にも理論への理解が広がっていきます。こうして、1905年が「奇跡の年」と呼ばれることになったのです。
3つの革命的な論文
1光の正体をつきとめた 「光量子仮説」
光は「波」なのか「粒子」なのかが、長いこと議論されてきましたが、19世紀半ばごろにはほぼ、「波」であるとする「波動説」に落ち着いていました。
ところが、金属板に光を当てて電子を飛び出させる光電効果の実験では、光を「粒子」としないと説明のつかない結果が出ます。金属の表面に、ある一定以上のエネルギーの光を照射すると、その表面から電子(光電子)が飛び出したのです。
アインシュタインはこの現象を説明するため「光は粒子のようにふるまうこともある」という「光量子仮説」を提唱。この考え方は量子力学の出発点となり、アインシュタインはノーベル物理学賞を受賞しました。
2分子や原子の存在を証明「ブラウン運動」
例えば、水に溶かした絵の具の粒子は、顕微鏡で見ると不規則な運動をしています。このような液体または、気体中の微粒子の運動が「ブラウン運動」。
この運動は、熱を与えるとより激しくなります。アインシュタインは、「ブラウン運動」を引き起こすのは、周囲の物質(媒質)の分子熱運動であることを理論的に示し、その数式化に成功。このことは分子や原子が実在することの強い証拠となりました。
3時間と空間の概念に革命をもたらした「特殊相対性理論」
「光の速さは常に一定である」ことから、アインシュタインは、「相対性理論」で次のことを導き出しました。
運動しているものの時間は遅れる
止まっている人にとって、運動しているものの時間は遅れて進む。
運動しているものは縮む
止まっている人から見ると、運動しているものの長さは運動方向に縮んで見える。
運動しているものが加速すると重くなる
加速のためにエネルギーを使えば使うほど、見かけの質量が増えていく。
この理論により、世界で最も有名な方程式、E=mc2が生まれました。
アインシュタインの理論から生まれたもの
相対性理論や量子力学は、さまざまなものに影響を与えており、その理論が応用された物事は、私たちの身の周りにもたくさんあります。アインシュタインの理論なしには、今日の私たちの生活はなかったといえるでしょう。
SF映画や小説
「空間も時間ものび縮みする」「重力で時間が遅れ空間が曲がる」「質量はエネルギーと等価」……相対性理論により導き出された事象の数々。にわかには信じられないこれらの事実により、私たちの空想の世界は格段に広がりました。
タイムマシンはつくれる?
UFOって、未来から来たタイムマシンなのでは?
夢あふれる想像の世界をテーマに多くの小説、映画やアニメ作品などがつくられ、私たちを楽しませてくれています。
さまざまな電化製品
アインシュタインは、「光電効果の法則の発見」でノーベル物理学賞を受賞しました。「光電効果」とは、金属に光を当てると、電子が飛び出したり電流が流れたりする現象です。この発見によって量子力学の発展に大きな影響を与えました。
現代の電子機器のほとんどに半導体が使われています。物質には電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」がありますが、半導体はその両方の性質をもちます。この半導体の動作原理を理解するには量子力学の考え方が欠かせません。今や生活になくてはならないスマートフォンやパソコンが動くのも、インターネットで情報をやり取りできるのも、量子力学の成果の一つといえます。
医療技術
アインシュタインがその初期に貢献した量子力学は、MRI(磁気共鳴画像法)やPET(陽電子放出断層撮影)など、医療現場でも生かされています。
また、がん細胞内にヨウ素を含む微小粒子を取りこませた上でX線を照射すると、ヨウ素から電子が飛び出し(光電効果の一種)、がん細胞のDNAを直接切断することができます。放射線治療の効率向上も期待できるのです。
原子力・核エネルギー
E=mc2という、アインシュタインの導いた式。この式は質量そのものがエネルギーになることを表しています。
例えば、放射性元素のウランは、放射線を出しながら、軽い元素へと変化します。また、「核分裂」前後の質量差からは、膨大な量のエネルギーを取り出すことができます。
これが原子力・核エネルギーと呼ばれるもので、発電や宇宙探査、核兵器の開発につながりました。
『3か月でマスターする アインシュタイン』では、アインシュタインの人生から彼の残した物理学の理論や視点までをわかりやすく解説します。
“天才”の考え方を知れば、世界がもっとおもしろくなる! 大人になった今こそ、学びなおしてみるのはいかがでしょうか。
講師:小林晋平(こばやし・しんぺい)
東京学芸大学教授、物理学者。1974年長野県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門は宇宙物理学、素粒子物理学、物理教育、理科教育。東京大学ビッグバン宇宙国際研究センター研究員、日本学術振興会海外特別研究員(カナダ・ペリメーター理論物理学研究所およびウォータールー大学)、国立群馬工業高等専門学校准教授を経て現職。物理学のわかりやすい解説に定評があり、YouTubeで物理学の講義を発信するほか、音楽と物理を融合したサイエンスイベント「夜学」の実施、講演、テレビ出演など多方面で活躍。
◆『NHK 3か月でマスターする アインシュタイン』
◆イラスト 雉○/ Kiji-Maru Works