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【“陸上王国静岡”の系譜とルール改正】世界への扉を開き、それを継承するスプリンターを次々と輩出。将来有望な若手も。パリ五輪を前に王国の所以を解説します!

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「“陸上王国静岡”の系譜とルール改正」。先生役は静岡新聞の寺田拓馬運動部専任部長が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年7月11日放送)

(寺田)日本陸連は7月4日にパリ五輪の代表内定選手を発表し、静岡県勢は男子200メートルの飯塚翔太選手(ミズノ、藤枝明誠高出)、男子1万メートルの太田智樹選手(トヨタ自動車、浜松日体高出)、女子やり投げの斉藤真理菜選手(スズキ)が選ばれました。飯塚選手は日本男子短距離で史上2人目となる4大会連続出場。太田選手と斉藤選手は初出場となります。

(山田)今日はオリンピックの話題ですね。

(寺田)いよいよ開幕が近づいてきましたよね。今日は陸上に絞ってお話しようと思います。昨年6月の「陸上は科学だ!」の回で静岡は陸上王国だという話をしました。以前、競歩王国だという話もしましたね。パリ五輪には池田向希選手(旭化成、浜松日体高出)と川野将虎選手(旭化成、御殿場南高出)が出場します。

静岡はそれ以前から陸上競技全体で王国を築き上げてきたんです。歴史をひもとくと、陸上競技での県勢の五輪出場は2004年のアテネ大会から6大会連続になります。

(山田)すごいですね!

(寺田)静岡新聞の過去記事からもう少し調べると、2000年のシドニー五輪で県勢が陸上で出場を逃したことを「陸上王国の危機」だと嘆き、「日本が参加を取りやめたモスクワ大会を除くと、メキシコ以来の代表ゼロ」という記述がありました。

(山田)ほう。

(寺田)メキシコ五輪は何年の開催かわかりますか?

(山田)わからないです。

(寺田)1968年です。シドニーの後は陸上の県勢は五輪出場を続けているので、1972年の西ドイツ・ミュンヘン大会から今夏のパリ大会まで、モスクワとシドニーを除く12大会に陸上の県勢選手を送り込んでいます。もう半世紀以上の歴史があるんです。

(山田)これ、すごいことですよね。

静岡が誇る短距離の系譜。高野進、杉本龍勇、高瀬慧、飯塚翔太…

(寺田)そうだと思います。その陸上の中でも、静岡にはスプリンターの系譜があるんです。日本短距離界の道を世界に開いたレジェンド的存在が高野進さん。富士宮市出身で現在63歳になられますが、1992年のバルセロナ五輪で日本人60年ぶりに400メートルで決勝に進出し8位入賞。1991年の日本選手権男子400メートルで出した日本記録44秒78は昨年の2023年まで32年間破られなかったんです。

(山田)それも前に教わりましたね。

(寺田)その後も杉本龍勇さん(沼津市出身)が1992年のバルセロナ五輪で男子400メートルリレーでアンカーを務め、決勝進出を果たして6位入賞。高瀬慧さん(静岡市葵区出身)も2012年のロンドン五輪と2016年のリオデジャネイロ五輪の男子200メートルに出場しました。

(山田)なんか街に陸上選手が溢れてる感じがします。

(寺田)この先輩からバトンを受け継ぐのが、静岡が生んだ希代のスプリンター飯塚選手です。飯塚選手は御前崎市出身の33歳。藤枝明誠高から中央大に進み、2010年世界ジュニア選手権男子200メートルで日本人として初優勝。2012年ロンドン五輪からパリ大会まで4大会連続の出場となります。2016年のリオデジャネイロ五輪は400メートルリレーの2走で銀メダル。200メートルは日本歴代3位の20秒11の記録を持っています。

(山田)33歳で今回も出場すると。

(寺田)そうなんですよ。男子短距離で4大会連続出場は朝原宣治さん以来2人目。同僚の取材によると、かつての指導者で藤枝明誠高の清尊徳監督は「ピークが20代中盤とされる短距離で、ここまで長く走ってくれるとは」と驚きを持って快挙をたたえています。

(山田)短距離は瞬発系の筋力と爆発力が必要なのに、33歳でまだオリンピアンですもんね。

(寺田)パリ大会での集大成に期待したいですよね。

(山田)そうですね

浜松市出身の太田智樹選手にも注目!

(寺田)そして、男子1万メートルの太田選手。浜松市出身の26歳ですが、袋井市のエコパスタジアムで5月に行われた日本選手権で準優勝。五輪参加標準記録は突破できなかったんですが、出場に関わる世界ランキングで、日本人最上位になり、初の五輪切符を得ました。

(山田)番組に浜松市出身のスタッフがいますが、浜松陸上界ではもうめちゃくちゃ有名人なんですってね。

(寺田)彼は浜松・浜名中時代から世代のトップランナーで、全国中学校体育大会3000メートル優勝。浜松日体高では全国高校総体5000メートルで6位入賞しました。全国高校総体は外国人の留学生も出ているので、6位というのはすごいことなんです。早稲田大学では4年続けて箱根駅伝に出場しています。

卒業後はトヨタ自動車に進み2023年、2024年の全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)では区間賞を獲得。1万メートルの自己記録は日本歴代2位の27分12秒53を持っています。

(山田)オリンピックは今回が初めてなんですね。

(寺田)でも、少し考えていただきたいんですけど、中学生の時からずっと世代のトップランナーで居続けるってのも大変なことなんですよ。どこかで挫折してしまう選手が多いので。これも同僚の取材によると、太田選手が陸上を始めた浜名中で顧問だった鈴木智香子さんは「『ゆっくり行けばいいよ。ずっと応援する』という気持ちだった」と言い、「走り続けてくれているのがうれしい」と喜んでいるそうです。

(山田)まさにずっと走り続けてるわけですからね。太田智樹選手にも期待しましょう。

(寺田)もう1人が女子やり投げの斉藤真理菜選手。茨城県出身の28歳。浜松市のスズキアスリートクラブ所属で、疲労骨折や脊椎分離症など腰のけがに何度の悩まされたんですが、家族やトレーナーの支えで復活し、見事晴れ舞台への挑戦権を得ました。

女子やり投げと言えば、世界選手権で金メダルを獲得した北口榛花選手ですよね。今とても脚光を浴びていますが。

(山田)キャラクターもいいですよね。

(寺田)でも、実は斉藤選手は昨年の日本選手権で北口選手に勝ってるんです。

(山田)そうなんですか⁉

(寺田)パリでの飛躍にこれまた期待したいですよね。この3人以外にも先日の日本選手権では県勢が大活躍しました。

(山田)この3人以外にも?

(寺田)パリ五輪出場には参加標準記録と世界ランクなどの選考条件があり、惜しくも涙を飲んだんですが、男子5000メートルは伊藤達彦選手(ホンダ、浜松商高出)が大会新で優勝しましたし、女子3000メートル障害でも急成長中の斉藤みう選手(日体大、伊豆中央高出)が準優勝しました。

(山田)それでもパリ五輪にはいけないのか。

20歳以下の陸上日本選手権を制した若手にも期待

(寺田)今回は残念でしたが、今後に期待したいと思います。さらには20歳以下の日本選手権では女子走り幅跳びの橋本詩音選手(静岡雙葉高)が…。

(山田)僕、橋本詩音選手は以前取材したことがありますよ!

(寺田)本当ですか。橋本選手は6メートル29の東海高校新で初優勝を果たしました。橋本選手は三段跳びでも今季県高校記録を塗り替えています。女子短距離の小針陽葉選手(富士市立高)は100メートルと200メートルの2冠に輝きました。

(山田)まだまだこの先もすごい選手が控えてますね。この後も静岡県勢は続いていくぞという感じで楽しみですね。

(寺田)橋本選手と小針選手は2人とも全国総体に出場するので楽しみですし、次の2028年のロス五輪に向け、今後の活躍に注目が集まります。

(山田)なんか「控えベンチ」も強すぎますよね(笑)。

世界で検討されている走り幅跳びのルール改正案とは?

(寺田)でしょ。それで、ここで終わらないのが3時のドリル。ちょっと別の角度で考えていきます。高校野球の「飛ばないバット」の回で、ルールについてお話ししましたが、今回はこれをもう少し深掘りして考えてみたいと思います。

(山田)ルールについてですか。

(寺田)走り幅跳びで抜本的なルールの改正が検討されてるのを知ってますか?

(山田)走り幅跳びで?もしかしたら、飛ぶ前の手拍子をやめようとか?(笑)

(寺田)違います(笑)。義足のジャンパーの山本篤さんの回で話しましたが、男子走り幅跳びの世界記録って21世紀に入って更新されていないんです。1991年の世界陸上東京大会でマイク・パウエルさん(米国)が出した8メートル95がいまだに破られてないんです。

陸上を見ている人はわかると思いますが、走り幅跳びは踏み切り板を超えるファウルが多いんです。記録を狙うため、みんな踏み切り板ギリギリで跳びたいからです。踏み切り板は幅20センチあるんですが、一流選手でも踏み切りが合わずファウルトラブルで大きな大会で実力を発揮できないケースがあるんです。

(山田)ギリギリを狙っていって駄目だったと。

(寺田)そうなんです。そこで、世界陸連が考えた検討案というのが、ある程度の幅を設けたゾーン内で踏み切った位置から着地点まで、純粋に跳んだ距離を計測したらどうかっていうんです。

(山田)ほう。ちょっと待ってください。今までは踏み切り板から計測していたんですよね。

(寺田)そうです。踏み切り板を超えたらファウルで、手前から飛んでも踏み切り板から着地点までの距離が計測されてしまいます。

(山田)だからみんなギリギリを狙うんですよね。それをなくそうということですか。

(寺田)そうですね。この改正案をどう思いますか?

(山田)純粋に飛んだ距離が測れて、新記録が出そうでいい気がするんですけど。何か問題があるんですか?

(寺田)昨夏の世界選手権では全跳躍の約3分の1がファールだったそうで、なかなか記録が更新されないし、見てる人が面白くないからっていうことはあると思います。ただ、これに対して世界的スター選手だったカール・ルイスさんは大反対なんです。カール・ルイスさんのことはご存知ですよね?

(山田)もちろん知ってますよ。でも、なんで?

(寺田)五輪の男子走り幅跳びで4連覇した伝説の選手です。4大会連続出場ではなく、4連覇ですから。

(山田)4回連続で金メダルを取ったということですよね。

(寺田)そうです。ルイスさんは「走り幅跳びは陸上競技で最も難しい種目だが、そこから難しい技術をなくすだけ」と批判しているんです。

(山田)要は踏み切り板ギリギリで飛ぶというルールの中で力を発揮するのも技術だということですね。

(寺田)「自分たちはルールの中で技術を磨いてきた。ルールを緩くすれば、記録が伸びるとは限らず、むしろ逆だ」と話しています。

(山田)これは難しいですね。今の時代、そういう意見は古い人が言っているだけだと捉えられがちですけど、カール・ルイスさんが言っていることは確かにそうだなとも思いますね。ルールの中でやるからこそ面白かったり難しかったり。

(寺田)かつての女子走り幅跳びの日本記録保持者だった池田久美子(池田は旧姓で現在は井村)さんを取材したことがあるんですが、彼女は走り幅跳びはスピード、パワーと踏み切りの繊細さがかみ合わないと駄目なんだと言っていました。世界陸連の改正案だと、繊細さが要らなくなってしまいますよね。

(山田)なるほど。細かい技術、繊細さこそが一流選手とまだまだの選手との差になる部分ということですね。

(寺田)そうなんです。放映権を持つテレビ局やスポンサーへの配慮があるのか、分かりませんが、エンターテインメントとしてのスポーツを優先するのかという感じがします。

もし、ルールを改正するなら2026年以降になるようですが、競技として求められる技術、能力が大きく変わってしまうので、実現したなら現在の記録と完全に分けて考える必要があるかもしれません。

(山田)ルールとは一体誰のためのものなのかということですね。

(寺田)もう一つ、フィギュアスケートでも来季から大きなルール改正があります。これまで禁止技だった「バックフリップ」、いわゆる「バック宙」が解禁されるんです。

(山田)そうなんですか⁉

(寺田)今までは危険だという理由でバック宙をすると、マイナス2点と減点されたんです。しかし、近年の国際大会で減点だと分かっていても演技にバック宙を入れる選手が出ていたんです。会場は大盛り上がりで拍手が鳴りやまなかったそうです。

観客を喜ばせたい、新しい技に挑戦したいという選手の思いが、ルール改正につながったんです。ただ、技の加点はなく、あくまで「減点しない。やりたければやってもいいよ」という改正です。

(山田)へぇー。

(寺田)スケートはジャンプだけじゃなく、スケーティングやスピンなど総合的な技術と芸術性を競う競技なんですけどね。

ルール改正に求められる視点とは?

(寺田)プロスポーツは観客のためにルール改正することってもあります、野球のメジャーリーグーの「ピッチクロック」なんかもそうですよね。投手がボールを受け取ってから制限時間以内に投球しないといけない。バッターもすぐに構えないと駄目。試合進行をスピーディーにするためで、観客を楽しませることもスポーツの重要な要素だとは思います。

(山田)アメリカプロバスケットボールリーグのNBAもスリーポイントシュートが入りすぎてしまうということで、スリーポイントラインが遠くなったりしましたよね。

(寺田)ルールが何のためにあるかという話も以前にしましたよね。まずは安全性、そして公平性、平等性。もう一つは、競技を面白くするためでしたよね。競技に関わる人すべてのため、プレーヤも見る人も支える人にとっても、今だけじゃなく将来にわたって面白くするためにどうするか。そしてルールは絶対守らないといけないけど、競技を面白くするために常に変化していると紹介しました。

ただ、付け加えると、ルールの改正は選手本位であるべきだと思います。真剣勝負で、難しさがあってこそ、その困難を乗り越えようと選手は努力するわけで、そこに魅力があって、見る人にも感動を与えるのではないかと思うんですけどね。

(山田)確かに。だから簡単にすればいい、見やすくすればいい、というわけじゃないですよね。楽しもうと思っていたわれわれが、実は楽しめなくなったりするということも起きてしまうかもしれませんね。

(寺田)なので、先ほど紹介した走り幅跳びのルール改正については、選手をリスペクトし、現場の意見に十分耳を傾けた上で結論を出してもらいたいと思います。

(山田)どうなっていくのか行方を見ていきたいですね。というわけで、今日はオリンピックからルール改正、そしてルールは誰のものなのかという話まで学ばせてもらいました。今日の勉強はこれでおしまい!

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