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運動の「ついで」に掃除で2千円オフ?チョコザップの新会員制度 「ついで」で稼ぐビジネスモデルの最前線

TBSラジオ

急成長を遂げる低価格ジム「chocoZAP(チョコザップ)」が導入し、話題を集めている「サポート会員制度」。これは、会員がジムの清掃などを手伝うことで月額料金の割引を受けられるという、まさにスポットワークの進化形ともいえる仕組みです。

このような「ついでワーク」というユニークなビジネスモデルが注目を集めています。その背景には、多くの企業が抱える人手不足の問題や、私たちの働き方に対する価値観の変化がありました。チョコザップの画期的な取り組みから、社会インフラを支える意外なサービスまで、「ついでワーク」の仕組みと可能性を、リサーチャーのcomugiさんが解説します。

急成長の裏にあった「無人店舗」の課題

野村:ライザップグループが運営する低価格ジム「chocoZAP(チョコザップ)」が導入した「サポート会員認定制度」が話題ですが、一体どんなビジネスモデルなのでしょうか。

comugi:まず、注目すべきはチョコザップの急成長です。2022年7月のローンチから3年弱で1,800店舗弱まで増えるという、すごい勢いで成長しました。この恐ろしい出店スピードを支えたのが、月額2,980円(税別)という手軽さです。会員数も2025年2月時点で133万人規模に達するという破竹の勢いです。

野村:まさに、垂直立ち上げに成功した事例ですよね。

comugi:しかし、問題もありました。チョコザップの売りは、CMでもおなじみの「着替え不要・普段着のまま運動できる」という点です。しかし、スポーツウェアと違って普段着は繊維クズが出やすく、それがランニングマシンのベルトなどに付着して故障の一因となる問題が多発したのです。

野村:2,980円という価格を維持するためには無人店舗である必要があり、その結果メンテナンスが課題になったわけですね。

comugi:おっしゃる通りです。当初、メンテナンスは系列のパーソナルジム「ライザップ」の店員がついでに掃除に行くモデルでしたが、店舗が急増しすぎて追いつかなくなりました。そこでチョコザップは2024年度を「品質向上イヤー」と位置づけ、200億円もの大規模な投資を行いました。

会員が運営を手伝う「ついでワーク」の誕生

野村:200億円とは、かなりの投資をしましたね。

comugi:その品質向上策の一環として登場したのが、今回のテーマである「ついでワーク」です。「ついでワーク」は私が勝手に呼んでいる名称ですが、チョコザップは、会員が運動する「ついで」に店舗の清掃や備品の補充を手伝うと、月額料金が割引になるサポート会員の認定制度を始めました。

野村:メンテナンスをスタッフが行うのではなく、会員にやってもらおうということですね。

comugi:この会員には2種類あります。ひとつは「フレンドリー会員」で、清掃や備品補充といった簡単な作業を行うものです。週2回、月8回以上のメンテナンスで、月会費が2,000円も割引になります。

野村:普通にジムに通う人なら、トレーニング後のクールダウンの時間を使えばできそうですね。

comugi:まさにその通りで、ある事例では45分トレーニングして、残りの15分を清掃に充てて割引をもらう、というスタイルだそうです。こうしたフレンドリー会員は、3万人以上もいるんですよ。

野村:133万人の会員のうち3万人が参加しているとはすごいですね。もう1つの種別は何ですか。

comugi:もうひとつは「セルフメンテナンス会員」です。こちらはマシンに関する知識を持つ人向けで、不具合の対応などを行います。報酬は割引ではなく、1回の作業ごとにAmazonギフト券がもらえ、スキルレベルに応じて500円から2,000円と金額が変わります。こちらには6,000人が登録しているそうです。

ちなみに、フレンドリー会員などによる不正を防ぐための対策も考えられています。例えば、滞在時間が極端に短い場合はシステムが検知したり、清掃完了時に写真での報告を義務付けたりと、DXを活用したチェック機能が導入されています。

野村:なるほど。報酬が発生する以上、善意に任せるだけでなく、自動的にチェックする仕組みがあるわけですね。

comugi:報酬に近いものが発生する以上、そうした機能は必要不可欠ということです。

チョコザップはサポート会員制度以外にも面白い取り組みをしていて、2024年12月にリリースされた「お店の状況分かるナビ」という機能では、ウェブサイト上で各店舗のマシンの故障率をリアルタイムで可視化しています。これは会員以外でも見ることができ、近所の店舗の状態が分かるようになっています。

野村:なるほど。ユーザーに対する利便性の向上だけでなく、「ここまで開示しても問題ないレベルに改善した」という覚悟を示したわけですね。

「ついでワーク」は昔からあった?タイムズカーの事例

野村:チョコザップ以外にもこのような「ついでワーク」を取り入れている会社はあるのでしょうか。

comugi:「ついでワーク」の概念自体は以前から存在しました。例えば、カーシェア最大手のタイムズカーでは、会員が利用した車の給油や洗車をすると、利用料金が割引されるサービスがあります。

この仕組みも非常によくできていて、給油なら20L以上で30分の料金に相当する割引が適用されるといった内容です。専用の給油・洗車カードが用意され、利用できるガソリンスタンドも指定されているなど、かなりシステム化されています。

野村:給油は10分か15分程度ですから、その時間で30分の割引を得られるわけですね。

comugi:そうです。時給労働ほどの対価ではありませんが、「ポイ活」よりはリターンが大きい。この中間的な報酬帯が面白いと感じています。こうした働き方にはまだ定まった名前がないので、私は何かを消費する「ついで」に行うワークスタイルという意味で「ついでワーク」と呼んでいます。

野村:消費者としてサービスを享受するついでに、運営元に貢献してリワードを得る動き、ということですね。

旅行×労働「おてつたび」に集まる中高年のニーズ

comugi:もうひとつ、地域貢献と旅行を組み合わせた「おてつたび」というサービスも面白い事例です。これは、人手を求める地域の事業者と、旅をしたい人とをマッチングするサービスで、旅先で働きながら旅行を楽しむというものです。

野村:具体的にはどのようなお仕事をするのですか。

comugi:地域の飲食店や農家、製造業などです。登録は1,800事業者にのぼります。利用者はこうした事業者で旅をしながら働いてお金を稼ぎ、一部を除いて宿泊場所も確保されているので、あまりお金をかけずに旅ができると受け入れられています。旅をしたい側の登録者数も、今や6万8000人になっています。

野村:農作業などは、体験そのものが楽しそうですね。

comugi:興味深いのは利用者層の変化で、サービス開始当初は利用者の7割を10代・20代が占めていましたが、直近のデータでは50歳以上が26%に増加し、しかもその6割以上が女性だったそうで、これまでとは違う中高年層のニーズにもヒットしているようです。

野村:若い世代が利用するのは想像がつきますが、50代以上が増えているのは意外ですね。

社会インフラを救う?ゲーム感覚の「ついでワーク」

comugi:この「おてつたび」とは少し違いますが「社会貢献」という文脈での「ついでワーク」もブームになりつつあります。例えば、東京電力が管理する電柱をスマホで撮影する「ピクトレ」というゲームアプリがあります。

野村:電柱を撮影するゲームですか?

comugi:チーム対抗戦で、撮影した電柱などの位置をつないだ長さで競うというゲーム性が高いのですが、電柱のひび割れやカラスの巣などを異常の早期発見につながり、インフラの維持管理につながるという仕組みです。

野村:これは、電柱以外にも活用できそうな仕組みですね。

comugi:まさにおっしゃる通りで、日本は水道管の老朽化も深刻で、耐用年数を超えている下水管が7.3%にのぼるものの、メンテナンスが追いついていません。トンネル、道路といった様々なインフラについても、地方自治体は人口減少による予算不足に直面しています。こうした課題に対し、ゲームのように楽しみながらインフラ維持に貢献するサービスが生まれているのです。

なぜ今「ついでワーク」が広がるのか?

野村:必要な業務を全て運営側が担うのではなく、いかに利用者に楽しみながら協力してもらうか。そこが知恵の絞りどころだということですね。

comugi:そうです。実は昔から似た仕組みはありました。私が大学生だった頃は、「ピースボート」という世界一周の船旅のポスターを1枚貼るごとに1000円割引されるという制度があり、大量にポスターを貼って無料で乗船する猛者もいました。

野村:昔からある仕組みが、なぜ今また注目されているのでしょうか。

comugi:デジタル技術の進化が大きいでしょう。スマホで簡単につながり、写真のような証拠を手軽に送れるようになったことで、実行のハードルが格段に下がったのだと思います。

野村:人手不足によって事業者が全てを担うことが難しくなる中で、うまく人々を巻き込み、動いてもらう仕組みが今後も生まれていきそうですね。

(TBSラジオ『東京ビジネスハブ』より抜粋)

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