「相互関税」の影響でどう変わる?企業が今すぐ始めるべき事例を解説
国際貿易における重要なポイントは、各国が輸出入品に掛ける関税です。トランプ米大統領によって注目を集めている「相互関税」は、企業の輸出入コストが増加するだけでなく、企業の価格競争力の低下、輸出市場の縮小につながる可能性があります。しかし、適切な対策や、補助金・支援制度を活用することで、競争力も維持できるでしょう。
本記事では、相互関税の基本的な仕組みやリスク、企業が取るべき具体的な戦略について詳しく解説します。この記事を最後まで読むことで、国際ビジネスの変化に対応できる実践的な対策を学んでいきましょう。
相互関税とは?基本の仕組みを理解する
トランプ米大統領が、日米首脳会談後の記者会見で「相互関税」を導入すると明言しました。相互関税は、ある国が自国の製品に高い関税を掛けている場合、同じ品目に対して相手国と同水準の関税を掛けることを目的としています。
アメリカが関税負担を対等にし、貿易赤字を是正することによって、報復措置の誘発や貿易摩擦によるリスクも高まりかねません。日本も対象国に含まれる可能性があるため、市場の動向に注目しておきましょう。
相互関税の定義と貿易における役割
相互関税は、関税負担を均一にすることを目的とした制度です。トランプ政権では、相互関税を導入することで、貿易のバランスを取ろうとしています。仮に、関税が公平となれば、特定産業の競争力が保持されるだけでなく、国内経済にも良い影響を及ぼします。
とはいえ、相互関税の導入は、国際貿易の自由化に逆行するだけでなく、他国との報復関税を引き起こしかねません。さらには、貿易戦争の激化、世界経済への影響も懸念されています。
関税が企業の輸出入コストに与える影響
関税が引き上げられると、輸入原材料や部品に対して仕入れコストは上昇し、製品の価格競争力を低下させる要因になります。また、海外へ輸出する際、相手国が高い関税を掛けていれば、自社製品の現地販売価格は上昇し、シェア拡大を阻害されるでしょう。なお、今回のように、対抗措置として一国が別の国に対して関税率を引き上げた場合、相手国もさらなる報復関税を発動しかねない点が懸念されています。
相互関税がビジネスに与えるメリット・デメリット
相互関税がビジネスに与える影響について、メリット・デメリットをそれぞれ見ていきましょう。
まず、メリットとして挙げられるのは、相手国の関税に対し、同水準の関税を掛けることで不均衡を是正できる点です。また、相互関税をちらつかせると、相手国が自発的に関税を引き下げる、不公平な貿易条件の対抗によって国内での支持を得やすくなるなどもあります
次にデメリットですが、相互関税による報復措置として、相手国がさらに高い関税を掛けることで、貿易戦争につながる恐れがあります。さらに、高い関税は輸入品の価格を上昇させるため、最終的に消費者が負担を強いられるという結果につながりかねません。
関税引き下げのメリットと市場競争力の強化
関税の引き下げによるメリットとして、企業の競争力向上と経済成長の促進があります。輸入商品の価格が下がると、企業はコストを抑えられ、市場での競争力を高められます。
また、消費者にとっても、安価な輸入品が増加することで、購買の選択肢が広がり、経済的な利益も享受できるでしょう。さらに、貿易の自由化で新技術にかかる設備の輸入が促進されると、国内の技術革新を加速でき、生産性の向上にもつながるなども期待できます。
関税引き上げが企業に及ぼすリスクとは?
関税の引き上げによって、輸入品の価格が上昇し、CPI(消費者物価指数)の上昇やインフレを引き起こす可能性があります。特に米国では、関税が高くなると消費者の購買力が低下し、消費自体の冷え込みも予想されるでしょう。
さらに、関税の上昇は、原材料の調達から販売までの一連の流れであるサプライチェーンの混乱を引き起こし、企業のコスト負担を増大させます。なお、米中貿易摩擦のような対立が深まると、貿易の停滞、投資の減少につながり、グローバル経済の安定性が損なわれる点にも注意しておきましょう。
日本の相互関税協定と影響を受ける業界
これまで、日本では相互関税を掛けた、もしくは他国から適用されたという公式な事例は確認されていません。しかし、主要な貿易相手国が相互関税を本格的に適用した場合、日本が輸出競争力を持つ自動車や電機・電子機器などがダメージを受ける可能性は否定できないでしょう。
特に、自動車産業はアメリカへの依存度が高く、関税引き上げによる業績へのダメージは深刻です。また、輸入品の価格が上昇すると、消費者の負担増や、購買力の低下、国内市場全体への影響も懸念されます。
EPA・FTAの活用で関税を最適化する
日本企業が関税コストを抑え、リスクを最小限にとどめるためには、EPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)の活用が望まれます。これらの協定を結んでいる国・地域同士は、多くの品目において関税が大幅に引き下げられるか、段階的に撤廃されるケースが増えているからです。
例えば、協定による適用条件や原産地規則が異なる点はあるものの、特定の国との取引で原産地証明を取得すれば、本来の関税率より大きく優遇される可能性があります。また、サプライチェーンを再編して「どの国から仕入れ、どの国へ輸出すれば最も有利か」を検討し、コスト削減に努めましょう。
相互関税の影響を受けやすい業界とは?
相互関税による影響を受けやすいのは、自動車や自動車部品業界です。輸出入に占める金額が大きく、関税による価格上昇が顧客の需要に直結しやすいため、相互関税のリスクを受けやすいでしょう。他にも、農産物では、国内農家の保護を重視する国が多く、高い関税による応酬が懸念されます。
また、鉄鋼やアルミなどは国家安全保障の観点からも輸入規制の対象になりやすい特徴があります。海外市場への依存度や価格弾力性が高いほど急な関税引き上げに弱く、企業は常に各国の政策動向に注意しておかなければなりません。
企業が取るべき対策とコスト削減戦略
相互関税によって影響を受ける企業は、競争力を維持するために戦略的な対策が求められます。特に、関税が引き上げられると、コストの増加を抑えなければならず、対策としてサプライチェーンの最適化や、EPA、FTAの活用が必要です。
例えば、生産拠点を関税負担の少ない地域に移す、物流の効率化を図る、などの対策によってコストが削減できます。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることによって、AIを活用した需給予測や在庫管理の精度を向上させることも有効です。
関税対策として活用できる補助金・支援制度
日本の企業が輸出入に関して活用できる支援制度や補助金は、以下の点で詳しく解説します。
まず、日本貿易振興機構(ジェトロ)が提供する「新規輸出1万者支援プログラム」です。新たに輸出を始める企業を対象に、貿易の実務に関するオンライン講座や専門家からのアドバイス、海外見本市への出展支援などを行っています。
出典:JETRO|新規輸出1万者支援プログラムについて20221216001-2.pdf
次に、農林水産物・食品輸出支援策は、食品の輸出に取り組む事業者が利用できる制度です。
補助金等金融・税制相談・情報提供・バイヤー紹介等輸出におけるリスク管理等
他にも、日本商工会議所では、海外展開に使える補助金・支援事業を一覧化しています。
これらの支援制度や補助金を活用することで、企業は輸出入に伴うコストやリスクを軽減し、国際競争力を高めることが期待できるため、積極的に活用しましょう。
貿易コストを抑えるための仕入れ・物流戦略
貿易コストを抑えるためには、仕入れコストの抑制や見直し、また物流戦略が大切です。そこで、それぞれの詳細を見ていきましょう。
貿易コスト抑制のための仕入れ
貿易コストを抑えるためには、EPAやFTAの活用、物流の最適化による仕入れコストの抑制があります。また、輸出品がどの国で生産・加工されたかを証明する「原産国証明書」の取得を徹底することで、関税優遇を受けられるでしょう。さらに、国際貿易における売り手と買い手の責任範囲(費用・リスク負担)を定めた国際規則「インコタームズ」の見直しによる輸送コストの最適化も効果的です。
貿易コスト抑制のための物流戦略
物流コストを削減するためには、輸送費、保管費、物流管理費などの内訳を正確に把握していく必要があります。例えば、共同配送やモーダルシフト(船便・鉄道輸送への切り替え)活用によって、輸送コスト(燃料費や人件費)を軽減できます。また、倉庫管理を効率化するためには、倉庫管理システムや、需要予測システムの導入が有効です。
相互関税の今後の動向と企業の成長戦略
相互関税は、不公正な貿易慣行に対抗する手段であるため、日本を含む輸出国は、関税負担の増加に対する戦略が求められています。また、各国の国内政治状況により、相互関税を含む自国を保護するような政策がいつ強まるかも分かりません。
そのため、企業は成長戦略の一環として、グローバル市場での新規開拓やサプライチェーンの最適化を意識することが大切です。価格競争力を維持するためにも、コスト削減や米国市場以外の取引強化に取り組んでいきましょう。
最新の貿易交渉と関税ルールの変化
現在、国際貿易を巡る環境は大きく変化しています。トランプ政権下では、カナダとメキシコに対する25%の関税、中国製品への追加関税が導入されました。しかし、アメリカのように自国産業を守ろうとして一方的に追加関税を発動するケースもあれば、逆に多国間協定で大幅な関税撤廃を合意する動きも出ています。
このことから、HSコード(商品の分類コード)の改正による関税率の変更なども取り入れながら、常に貿易ルールの変化を見極めることが大切です。なお、単独では判断しにくいことも多いため、場合によっては専門家と連携することで、改善に努めていきましょう。
海外展開を考える企業のためのリスク管理
海外展開を考える企業は、相互関税が導入されると、貿易環境の変化や新たなリスク管理戦略を構築する必要があります。
例えば以下の点です。
サプライチェーンの多様化製品分類と関税対策貿易協定の活用リスク評価と市場変化への対応地政学的リスクの監視
今後、国際情勢が変化すると、各国の政策や通貨変動、貿易摩擦などが懸念されます。そのため、特定の国に依存しない調達網を構築し、物流コストや供給の安定性を確保することも重要です。また、為替リスクや関税リスクを加味した上でシミュレーションする「シナリオプランニング」を行うことで、市場の変化に対応できる体制も構築しましょう。
まとめ
相互関税は、相手国の高い関税に対して同水準の関税を掛けることで貿易の不均衡を是正する一方で、場合によっては報復関税を受けやすく、世界的な経済摩擦をも深刻化させかねません。今後の企業はサプライチェーンの多角化や、物流コストの効率化など、様々な戦略を組み合わせることで対応していく必要があります。
そのため、EPA・FTAの締結、政府の補助金・支援制度を活用すれば、関税コストを抑えながらも海外展開することが十分に可能です。とはいえ、関税が上がることで企業の利益に直結するため、最新の情報を常に把握し、適切な対策を取っていきましょう。