朝ドラ「オードリー」堺雅人でも蔵之介でもない!長嶋一茂が陰のある男を演じたのはなぜ?
佐々木蔵之介と堺雅人の出世作、朝ドラ「オードリー」
NHK連続テレビ小説、通称 “朝ドラ”。朝ドラ好きとしては、朝8時の現放送作品はもちろん、NHK BS朝7時15分からの再放送枠も見逃せない。現在は、2000年後期の作品『オードリー』が絶賛再放送中だ。舞台は京都・太秦、時代劇の世界に飛び込むヒロインを中心に、斜陽となっていく日本映画に人生を捧げる人々が描かれている。
『オードリー』といえば、佐々木蔵之介と堺雅人の出世作。このドラマがきっかけで私は蔵之介ファンとなり、彼が出た舞台作品に何度も足を運んでいる。さてさて、20数年ぶりに再見する『オードリー』はどうだろうと思ったら、蔵之介の完成度たるや。徐々に時代劇スターに上り詰める俳優を演じているのだが、もうこの頃から上手い。輝いている。そりゃ20数年前の私がファンになるはずである。堺雅人も仕上がっている。上目遣いでちょっと睨みを利かす場面は、のちのちの “倍返しだ!” を彷彿させた。
『オードリー』の脚本は、現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』も手掛ける大石静。大石作品からは、蔵之介と堺雅人以外にも、内野聖陽、長谷川博己といった人気俳優が誕生している。堺雅人以外の3人は、オーディションで大石が推したことで決定したというのだから、こういうのを目利きというのだろう。
だが、『オードリー』ヒロイン美月の相手役は、蔵之介でも堺雅人でもない。長嶋一茂だ。
「俺には、お前みたいな後ろ盾はない」に日本中がツッコんだ?
長嶋一茂が演じたのは、大部屋からテレビ時代劇の主役に抜擢される若手俳優・錠島、通称 “ジョー”。戦災孤児で、生きていくために窃盗を繰り返して少年院にいた過去を持つ、陰がありまくる役どころだ。
「俺には、お前みたいな後ろ盾はない」
「俺は、親の顔を知らずに育った」
「お前みたいなお嬢様に俺の気持ちはわからない」
ジョーが美月に言い放った、こうした台詞。いやいや、と2000年も2024年もテレビの前にいたみんながツッコんだのでは。大石先生も人が悪い。
さらにジョー、オウム返しがやたらと多い。まるで言葉を覚え始めたロボットのように、棒読みで美月の愛の告白を繰り返すので、うっとりすべきラブシーンも笑うしかない。うどんをぶっかけられたジョーが、頭にうどんをのせたまま川を泳ぐ場面もあったが、あれは何だったのだろう。
撮影中に助けてもらったことがきっかけでジョーを好きになった美月だが、私にはどうにもその気持ちがわからない。ジョー、大部屋時代も主役抜擢後も、世を拗ねたことばかり言っているのだ。おまけに美月を怒鳴り、竹刀で電球を割るといったDVめいた場面まであった。
むしろ、蔵之介と堺雅人はジョー役に抜擢されなくて正解だった。ジョーと真逆である “陽” の長嶋一茂を知っているからこそ、許される役なのだ。よく知らない新進俳優がジョーを演じたら、お茶の間に嫌われまくってそのまま消えてしまったのではないだろうか。
思いきりアハハと笑ってみようよ♪主題歌「Reach for the sky」は一茂の曲
長嶋一茂といえば、江角マキコとのトラブルを覚えている人も多いのでは。江角がマネージャーに指示して、一茂邸の自宅外壁に “バカ息子” と落書きさせたといわれる件である。あれに対して「うち、息子いないけどな」と言った一茂の一言は利いていた。
実は、私は一茂の小学校・中学校の2学年下の後輩。有名人の息子ゆえ、学校や地元でたびたび彼の噂は耳にしたが、聞こえてくるのは陽気な天然エピソードばかり。悪い評判は聞いたことがない。子ども時代も、ミスターの息子だということを鼻にかけることはなく嫌がるわけでもなく、淡々とその事実を受けとめていたように見えた。
今すべて 受けとめて
陽の当たる丘で 軽く口笛を吹き
思いきりアハハと笑ってみようよ
倉木麻衣が歌う『オードリー』の主題歌「Reach for the sky」の中に、こんな歌詞がある。まるで、ミスターの息子としての自分も、DVまがいの憎まれ役も、“バカ息子” 落書きも、ワイドショーのコメンテーターも、すべて受けとめて笑う一茂だ。
そういえば、『オードリー』の中で、ジョーがキャッチボールをする場面があるのだが、このときの彼の笑顔はすごくいい。もうしばらく続く再放送期間、一茂を… ではなく、ジョーを素敵に見せるそんな場面がもっとあればいいなぁと思うのだ。