落合陽一さん、数十年先の未来は見えますか?
落合 陽一さん(Part 2)
1987年、東京生まれ。日本を代表するメディア・アーティスト。2025年大阪・関西万博では、ひときわ話題を集めたシグネチャーパビリオン「null²」のプロデューサーを務めました。
出水:落合さんは1987年、六本木生まれですが、都会っ子ですね!
落合:都会っ子は都会っ子ですね、確かに。僕の実家って、今麻布台ヒルズが建っているところなんです。実家なくなっちゃったんですけど、あそこに実は公園があって、カニ公園とか言ってて、そこでよく遊んでました。麻布小学校・六本木中学校出身なんで(^^)
JK:もう都会どころか、東京のど真ん中!
落合:もろ。TBSにも近いです。幼稚園は霊南坂幼稚園なんで、アークヒルズの横です。
JK:すごいな~!
落合:うちの親父は落合信彦っていうジャーナリストで、スーパードライのCMで出てたおっさんなんですけど、うちの母は音楽プロデューサーなんで、うちの両親は大体他人の考えてることとちょっとずれてるから、僕も多分ちょっとずれてる。
出水:先を行ってるんですよ! でも、ずれ方が未来的じゃないですか?
落合:僕はコンピューターの方にずれたんで(笑)
出水:学校では好きだった、あるいは苦手だった科目は?
落合:苦手な科目はとくにないですけど、理科が得意ですね。数学はそんな得意じゃなんですけど、まあ一応工学部の教授なんで得意なんだけど、ただ理科はわりと得意で、物理とか科学とか工学で使いそうなやつは大体好きでした。
出水:落合さんが最初にコンピューター触ったのは何歳ぐらい?
落合:うちの家は文系一家なんで、誰も使うのか分かんないんで、コンピューターが欲しいって言ったら、8歳ぐらいの時に買ってもらったんですよ。8歳ぐらいからずっといじってるんで、30年間くらい生活変わんないんですけど・・・まだダイアルアップで、ピープー・プーパーって。
出水:その時はどういう使い方を?
落合:大体もうくだらないですよ、Perlで何か書いたりとか、プログラムちょっと書いて動かしたり、ホームページ作ったりとかして遊んでたんですけど。あとCGちょっといじって遊んだりとかしてましたね。
JK:学校ではそういうことは関係ないんですか?
落合:学校ではやんなかったですね、コンピューターは全然。今の時代は学校でコンピューターやるんですけど、僕の世代は学校じゃコンピューターは全くいじってなくて、大学入ってコンピューターの学部に入ったので、意外と自分がコンピューターが得意な人間だってことに気がついた。圧倒的にコンピューターが僕は得意なんですよ。結構驚いた。当時でも一生の半分以上コンピューターを触ってるから、ナチュラルにコンピューターが好き。
JK:どこまで奥深くできるんですか、そのコンピューターを使って?
落合:コンピューターを研究するってことは、コンピューターを作るだったり、プログラムを新しく数学的に考えるだったり、シミュレーションって言われるんですけど、形状や形やそういったものをどうやって実際に作るものと同じにするか、みたいなことをやったりするんですが、そういったことをずっと研究しているうちにわりと向いてるなって思い始めて、27の時に教員になりました。
JK:何も見たこともないものを研究するわけですね。
落合:
そうですね。形がないものから始まることが多いです。形がなくて、計算的にはできるんだけど見たことがないもの、みたいなものを結構考えるのが多いですね。
出水:落合さんが研究されている「デジタルネイチャー」という領域とは?
落合:例えば今スマートフォンって年間どのくらい作ってるか知ってます?
JK:ええ~数億? 人口ですか?
落合:人口は1億人しか増えないんですよ、年間。だいたい1億人生まれてくるんですけど、スマートフォンは10億台くらい作ってるんです。人間の10倍作ってるんですね。
JK:どんどん変えていくから?
落合:ただそのままゴミ箱に行くわけでもないので、多分人口と同じくらいスマートフォンあるんですよ。じゃあ地球上のバイオマス、動植物ってどのくらい量あるか知ってます?
JK:数字の世界わからない!
落合:550ギガトンカーボンって言われてて、450が植物。わずか0.5%くらいが動物なんですよ。そのうち3割くらいが人間で、6割くらいが家畜。家畜の方が人間の方が多い。そういった地球上のすべての緑とかバクテリアとか全部足し合わせたのと、人間が作ってきた道路とか建物とか自動車とか、ああいう人工物を全部足した数だと、人工物の方が多いんですよ。
JK:なるほどね。
落合:そうしたとき人工物って全部コンピューターに繋がってますよね。無線が飛んでたり、光が入ってたり、コンピューターが入ってたり。そうすると、もはや自然環境の一部くらいコンピューターがあるんですよ。そうすると計算機自然=新しい自然に俺らは生きてるんだって考えて研究していかないと、地球のことも考えられないし、人間のことも考えられないよね、って思い始めたのが27くらいの頃。
JK:27くらいで!
落合:今38になったんで11年間くらいデジタルネイチャーの研究してるんですけど、デジタルネイチャーにどんどんなっていってるんですよね。人間を超える数のスマホを作り、地球上はほぼ動植物よりもコンピューターの方が多くなり、みんなでチャットGPTとかAIを使って遊んでるんだけど電気量は一国に相当するくらい電気使ってる。そうやって考えると、地球はコンピューターの気分によって変わってしまうくらいデジタルネイチャーになっていってるんで、そういった世界はどういう形をしてるのか、どういうことを調べないといけないのかっていうのを研究してることが多いですね。
出水:未知の世界ですよね。過去に誰もやってないし、未来を形にするわけだから。
落合:これが考古学的にどういう意味があるのかも結構興味があって。つまり、デジタルネイチャーになった瞬間を我々は目撃してるわけですよ。2020年くらいなんです、それが。それから先、例えば40~50年経ったらどうなるんだ? っていうのをずっと追いかけていくのは結構面白いなと。
JK:何十年先は見えますか?
落合:見えてはいて、コンピューターの発展ってグラフで綺麗に描けるんですよね。2030年頃、5年後になるとあらゆる人間よりAIが賢くなってるんですよね。発明も新しいアイディアもAIから多分出てくるんですよ。人間が作るのもあったり、人間がキュレーションする・選ぶのはもちろんやるんだけど、コンピューターが勝手に作って発展していくものが増えていく。人間としては脳を発酵させているようなものなんですよ。酒造りって全部調整できないじゃないですか。壺から出てきた新しい形やデザインや新しいものを見るみたいな感じになってて、それでどんどんネイチャーに近づいていく。元の自然とは似通ってるが、違う自然がデジタルネイチャー。それを追いかけながら研究していかないといけないんじゃないかっていうのが我々のスタンス。
JK:研究してて未来が見えますか?
落合:予想はすごい立ちます。だいたい当たってる。たまにズレるのは、例えば高精細なAIが出てくるのが最初は2027年ぐらいだと思ってたんですけど、2020年ぐらいに兆しが見えたんで、「5年後には多分AIが出るだろうな」って今の2025年の様子はだいたい想像ができてた。2025年から30年の様子も多分想像ができてて、5年置きぐらいはわりとピッタリな想像ができてるんですけど、10年ぐらいになってくるとちょっと外れます。
JK:世界の研究者とも関連していますか?
落合:我々は世界中の研究者と仲がいいし、世界中の人が僕らのラボによく遊びに来てくれる。あとは学会でよく世界中に飛んでるので、いろんな面白い人と面白い話をしてやっていく。
JK:突拍子もない考え方をする人いますか?
落合:突拍子もないこと僕ら結構やってきてたので、Chat GPTを出す前のサム・アルトマンとはよく話したりしていた。世界中の面白いことをやってる人は知り合いの知り合いなので、つなげてくれる人がいたり、っていうことはあると思います。
JK:夢のような漫画のような、不思議な世界! ご自分のマサカな経験は?
落合:万博やってたんですけど、うちとイタリア館やたら仲いいんですよ。なんで仲がいいかというと、ベネチアビエンナーレの時に美術館の前で地面にプログラム書いてたんです。じべたにアグラ組んで。そしたら横からおじちゃんが来て、「こんにちは、君はここで何をしてるんだい?」「プログラム書きながら開館を待ってるんだ」「普段は何してるの?」「アーティストで、万博でパビリオンとか作って、こんなのやってる」って言ったら、「うちの息子もパビリオンを作ってるんだ」って。「息子って誰ですか?」って言ったら、マリオ・バッターニのお父さんだった!
JK:お父さんはウンベルト・バッターニ! あの家族と私仲いいんです。
落合:ウンベルトさんにそこで会って、ベネチアの床で仲良くなった。ベタっと座って僕がカチャカチャやってたら、横からふっと来たのがウンベルト・バッターニ。結構びっくり! 地面に座って、プログラム書いて友達になるってどういうことだよ!(笑)
出水:ちなみに、落合さんの研究や活動のモチベーションとなっているものがあればぜひ教えてください。
落合:今まで見たことがないものや、触ったことがないもの、聞いたことがないものとか考えたことがないものを知りたいというのが一番大きいかな。他人が作ったものは見に行けば見れるんですよ。まだないもので、こんなの見たいんだけどな、って思ったものはやっぱり作らないと面白くない。
JK:子供の頃から同じ考えですか?
落合:わりと小さい頃からそうだと思います。毎回新しいものができるたびに、一番最初に感動するのは私だと思います。最後フィニッシュだけは結構詰めないとできないんですけど・・・まだ良くない、まだ70点ぐらい、60点とか言いながら。
JK:どんどん先から永遠に作れるから、面白いわね。エンドレス。本当に未来が明るい感じがするわね! これからやりたいこと、まだいっぱいあるでしょう?
落合:30代は日本のことをやりたいってずっと思ってて、30歳くらいの時に日本の展覧会とか日本の歴史を掘ったりとか伝統工芸やったりとかいろいろやってきて、40代は海外のことがやりたいと思ってる。
JK:でも海外って広いから。
落合:最近興味あるのは中央アジアに興味があって、シルクロードのあたりの文化を掘りながら、他の国で展覧会とかしながら世界を回っていきたいなと思ってるんですけど・・・ルーツを探っていくっていうのは結構好きな作業で、インドの上あたりから仏教が入ってくるじゃないですか。じゃああの道はどこからあるの?っていうと、確かにヨーロッパからもつながってるし、中国からもつながってて、中央アジアってやっぱ面白い。それを掘りながら世界中いろんなところで展覧会していきたいなと。
JK:今回の万博もそういうようなことがありますよね。万博は終わりじゃなくて、レガシーとしてつながるわけですよね。
落合:万博のおかげで世界中の人と友達になったので、どの国でもフラッと行ってフラッと面白いことができるようになった。ちょうど今サンパウロの美術館でグループ展に参加してるんですけど、僕のデジタル茶室みたいな部屋がありまして、プロジェクションマッピングされたデジタル茶室と茶道具があって、TVがずっとポルトガル語で喋ってる。
出水:これから世界に羽ばたいて、1人じゃ足りないぐらい忙しくなりそうですね。
JK:ブラジルの日系人が本当喜んでるでしょ。
落合:国交交流が始まって130周年かな? 地球は狭くなったが、世界はガタガタになっているけれども、国際協調をどんどん増やしていくっていうのは大切だなって思う世代なので・・・2020年代後半は分断されてきた時代じゃないですか、戦争があったりとか。どうやって2030年までにもう一回繋ぎ直すかってことを仕事としてやっていきたいなと思ってます。
(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)