子育て中の「漫画を読むプロ」に【子ども×漫画デビュー】を直撃取材! 子どもが「漫画」を読むのに親がルールを作るワケとは?
子育て中の漫画研究家の本棚を取材。1回目は比治山大学短期大学部美術科マンガ・キャラクターコース講師・久保直子先生にお聞きしました(全3回の1回目)。
“漫画を読むプロ”に聞く!子どもに読ませる漫画のルールとキーワードさまざまな世界観やキャラクターが息づく漫画の中には、保護者として「小さな子が目にするにはまだ早い?」と感じるものも。子どもと漫画の距離をどう取っていくか、仕事で漫画に携わっている“漫画のプロ”の方々に、「子育て×漫画」について語っていただきました。
1回目は、比治山大学短期大学部美術科で講師として、漫画に関する実技指導を行っている久保直子先生の本棚をご紹介します。
娘がすでに刺激的な漫画を読んでいた!
──お子さんが初めて漫画を読んだのは、どんなタイミングでしたか?
久保直子先生(以下、久保先生):我が家は約1年前(2024年1月)に引っ越しをしたのですが、前の家では漫画を押し入れにしまい込んでいて、当時は親が取り出さないかぎりは、子どもが漫画に触れられない環境でした。
漫画を家でも開架したのは、娘が学童に入ったことがきっかけです。というのも、娘の通う学童では、『週刊コロコロコミック』や『ちゃお』、『週刊少年ジャンプ』が定期購読で本棚に入っていて、ほかにも漫画、絵本、本、図鑑などあらゆる本が置かれているんです。
衝撃を受けたのは、夏休みに入ったあたりのころ。娘から「お母さん、『約束のネバーランド』(原作:白井カイウ、作画:出水ぽすか/集英社)って知ってる?」と聞かれました。
この作品は、孤児院で育てられた子どもたちが、実は“鬼”に献上される食用児として育てられているという設定で、7歳の娘が読むには刺激が強すぎるのでは? と不安に思ったからです。
後日、お迎えのときに、学童の先生に漫画の選定はどうされているのか聞いたのですが、「定期購読以外のマンガについては把握していません」との事でした。
娘が自由に手に取って読めるところに、親として「読むには早い」と感じる作品がある、ということを知って焦り、急いで夫と話し合いに! 私たちが「これなら読ませてもいいかな」と思う漫画を、家の本棚に出し始めようかということになりました。
「性的」「言葉」「暴力」が漫画を選ぶ際のキーワード
──「この作品は読んでOK」「この作品はまだ早い」と線引きするのは、とても難しいですね。
久保先生:私が気にしているのは主に「性的な描写」「言葉づかい」「激しい暴力(いじめ)」です。しかし、夫はまた違う考えをもっているので、作品を本棚に出すときは、二人で意見の擦り合わせをするようにしています。
私が挙げた3つの条件を全てクリアする作品というとかなり絞られてきますし、子どもの年齢によってOKのラインも変わってきます。ただ、子どもたちがどのような作品に触れるかについては、学童や友達のお宅などのように、親がコントロールできない場面も出てきますよね。
本屋さんに行けばありとあらゆる漫画がランダムに並んでいて、私の知らない作品もある。いずれにせよ、見てしまうものは防げないので、子どもが触れた漫画に対して、親がどう対処していくのかが大事かなと思っています。
漫画に夢中になりすぎて生活リズムが崩れた!
──おうちで漫画を解禁したことで、お子さんの生活に変化はありましたか?
久保先生:あります。娘が『SPY×FAMILY』(著:遠藤達哉/集英社)に夢中になるあまり、「読みたい!」という気持ちのコントロールができなくなり、生活のペースが乱れてしまう、ということが起きました。
ごはんや歯磨き、お風呂などのタイミングでも、隙間時間があればすぐ読もうとする。やらなければいけないことも分かっているけれど、先を読みたいのに読めなくてイライライラ……、といった状況になってしまったのです。
「これはいけない」と思って親がいったん、全巻預かって隠すと、親の目がないときに娘があちこち探すというイタチごっこに。
隠せば『SPY×FAMILY』への興味は薄れるかなと思っていたのですが、彼女の中で漫画の楽しさは変わらなかったようで、本棚にあった『COJI-COJI(コジコジ)』(著:さくらももこ/集英社)や『ドラえもん』(著:藤子・F・不二雄/小学館)などを読むようになりました。
漫画の世界に夢中になってしまうのは仕方ないですし、問題が起きて本をしまわれたことに対して娘は反省もしていたので、今は『SPY×FAMILY』も本棚に戻しています。
ルールを決めた漫画タイムは「就寝前」のお楽しみに
久保先生:それからは、子どもたちの漫画タイムを決めました。夜ごはんを食べて歯磨きをし、入浴。お風呂から上がって髪を乾かし、あとは布団に行くだけという状態で、親の片付けや寝る支度を待つ数十分の間は漫画を読んでいいことに。お風呂上がりは部屋全体を暗くするので、唯一明るい洗面所の傍が定位置です。
子どもたちもお風呂に入って体がポカポカしていると、だんだん眠くなってきますし、「この後は寝る」という流れを理解しているので、最近はそこまで揉めなくなりました。
寝る前の漫画タイムの様子。 写真提供:久保直子
読ませたい漫画は「ヴィンランド・サガ」
──久保先生がいずれ、お子さんに読んでほしいと思っている作品も教えてください。
久保先生:『ヴィンランド・サガ』(著:幸村誠/講談社)です。
『ヴィンランド・サガ』著:幸村誠(講談社)
久保先生:11世紀北欧のバイキング全盛だった時代のお話で、史実をもとにフィクションを交えて描かれています。
主人公が父親を殺されて復讐を誓い、戦いに身を投じていくということで最初は暴力描写が多いのですが、私が読んでほしいポイントは、第二章。主人公が「戦いは憎しみしか生まない」ということに気づき、異なる部族や考え方の人たちと戦わず、どうやって共存・共生していくかが描かれます。
私としてもとても学びの多い作品だったので、いつか本棚に置いたときに子どもたちの目に留まれば、と思っています。
また、個人的には『らんま1/2』(著:髙橋留美子/小学館)が大好きで。
でも以前に『ホーム・アローン』という8歳の少年が主人公のコメディ映画を「子どもたちも楽しめるかな」と思って一緒に観たことがあるのですが、主人公の罠にはまった泥棒たちのシーンに子どもたちがドン引きしてしまって…。『らんま1/2』もドタバタ格闘コメディで暴力的なシーンや性描写があり、まだ子どもたちがコメディとして楽しめるには早いのかな、と控えています。
もう少し成長してから本棚に出そうと考え中です。
漫画だからこそ学べること
──漫画だからこそ、子どもが学べることは何だと思いますか?
久保先生:漫画は娯楽として楽しめるだけでなく、作品を通じて知識を得たり、自分と違う考え方や生き方を知ったりするのにとても適したメディアだと思います。
さまざまなテーマやメッセージを人の心に届けることができるのが漫画の強みだと思うので、いずれは私たち夫婦の愛読書の中から、おすすめの作品も本棚に出していきたいと思っています。
子どもたちがこれからたくさん漫画に触れて、どんな作品を好きになるのか、漫画を生業にする親としては、これからがすごく楽しみですね。
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次回2回目では、漫画・美術教育をテーマに多彩な研究活動を行う芸術学博士であり、6歳男児の子育て中の竹内美帆先生にお話をお聞きします。お楽しみに。
※公開時よりリンク有効
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久保直子(くぼ・なおこ)
写真提供:久保直子
広島県出身。2004年、京都精華大学芸術学部マンガ学科ストーリーマンガコース卒業。漫画家アシスタントや、京都国際マンガミュージアムのスタッフなどを経て、現在、比治山大学短期大学部美術科マンガ・キャラクターコース講師を務める。