高卒就活に追い風 揺れる「1人1社制」
今日は、高校生の就職活動のお話。大学生の就活はいま「売り手市場」。人手不足で、人材の取り合いが続いています。そしてそれ以上にすごいのが高校生。求人倍率は4倍を超えていて、生徒ひとりに対して4社以上が「うちに来て」と声をかけている計算になります。
初参加・採用拡大・再挑戦!活気を増す高卒就活
そんな中、今週月曜、東京・秋葉原で、高校生限定の合同企業説明会「ジョブドラフトフェス」が開催。会場に行って企業の担当者の方々に聞きました。
レンサ株式会社です。コールセンターを運営してる会社になりまして、もともと新卒採用は大卒はずっと続けているんですけども、ちょっともう少し幅を広げたいということで、初めてこのイベントに今回参加。急いでブースも用意して…。
株式会社大和紙工業です。製造業で、紙の表面加工会社。まず若い人が入ってこない、中途も入ってこない。高校生は全然考えてなかったんですけど、去年の末からやり出したって感じですかね。社長も25年前に高校新卒やってて、「3ヶ月ぐらいで辞めちゃうんだよ」ってそこから全然やってなくて。(どうですか、働きぶりは?)真面目だと思います。ただ、おとなしいです。なので、ガミガミガミガミ昭和の世代の人たちが怒らなければ素直に聞くと思います。いや、すごいなって。
弊社、株式会社カクヤスと申しまして、配達とか配送のスタッフを募集してます。今年は大卒を抑えて、高卒をいっぱい増やそうということで70名を予定しております。新卒で27万円ぐらい(初任給?)。たぶん高いと思います。
<高校生と企業が直接交流できる合同企業説明会「ジョブドラフトFes」>
高卒の初任給の平均はおよそ18万8千円、大卒で22万5千円ほど。27万円はかなり高めの水準。カクヤスでは、これまで半々だった高卒と大卒の採用人数を、今年は逆転させて高卒を多く採る予定だそうです。
この日は45社がブースを出展。介護や建設といった定番の業種に加えて、営業職や美容師などの「新しい顔ぶれ」も並んでいて「大学生を待つより、高校生のうちから採用したい」という会社が増えているようです。
そうなると大事なのは、いかに自社を選んでもらうか。初任給を大卒並みに引き上げたり、家賃ゼロの社宅や、入社祝い金。さらにTikTokなどSNSでアピールするなど、あの手この手で高校生にアプローチしていました。
株式会社大和紙工業が配布している企業説明パンフレット。漫画にして読みやすくしています
一社目に落ちて…探し直す高校生の声
では実際に、高校生たちはどう感じていたのか。会場で聞いてみました。
会社は、ある程度候補として決まってて、これからいま履歴書を書いて提出したりとかしています。けっこう身近でよく行くお店だったので選んだって感じで。早めに自立したいので、お金が早く欲しいって感じです。
3年生です。「一次試験」のときの会社に落ちちゃったので、また新しい会社がないかなっていうのを見に来たんです。他の会社さんも、めっちゃいいなって、特にお給料面とか。大学に行って学びたいことなかったんで…。
3年生です。どうしても自分が働きたいところがまだ見いだせなくて、それで探しに来たって感じです。「高卒で本当に雇ってもらえるのかな」みたいな不安があったりとかして。やっぱり親に恩返ししたいなって思ったりとか。一社受けて、落ちてしまって、そこからまた探し始めようかなっていう感じです。分からないですよね本当になんか、「うーん」って感じ…。
高校生の就職活動には、大学生とは違ったルールがあるそうです。
大学生はインターンや説明会を重ねてじっくり時間をかけられますが、高校生は7月に求人票が届いて、9月半ばにはもう選考スタート。ほんの数か月で決めなくてはいけないんです。
そしてもうひとつ大きな特徴が「1人1社制」。大学生は同時にいくつも受けられますが、高校生は最初に応募できるのが、基本1社だけ。法律ではなく、「国」と「学校」と「企業」の間で、高度経済成長期からずっと続いてきた取り決めだそうです。
会場にいた先生は「学校としては進路をまとめやすいし、企業にとっては内定辞退が少なくて効率的」と話していました。ただその分、生徒にとっては応募のチャンスが限られていて、じっくり比べて選ぶのが難しいのが現実なんです。
高卒就活の課題 1年目の離職率をどう減らすか
しかもこの仕組み、就職した「その後」にも影響してくることがあるそうです。どういうことか?イベントを主催した、株式会社ジンジブの、星野 圭美さんに伺いました。
株式会社ジンジブ・取締役 星野 圭美さん
実際に新卒の離職率っていうところで見ると、やはり「大卒」と「高卒」だと一定の差があります。中身見てみると、入社一年目に発生してるんですね。だから2、3年目は大卒、高卒見てそこまで数字的に差が出てないんですが、いわゆる新卒一年目、早期離職っていうのが、高卒の方が「5%前後ぐらい(年にもよりますけれども、高い」というデータが出てます。
いろんな要因あるが、一つに、やっぱり「就活のスタイル」もある。一社見学に行って、一社試験受けて入社するのと、たくさん受けてたくさん内定もらって「うーん」って考えて選ぶ一社は、ちょっと変わってくるかなというところもあるので。そもそもこういったイベントを開催させていただくこと自体も「ミスマッチを低減していく」ことの一つの取り組みです。むしろ、入社してからがスタートなので、いかに定着できるか。
「思っていたのと違った」というのが、起きやすい。厚生労働省によると、高卒者の3年以内離職率は「4割近く」と、大卒よりも少し高め。そこでジンジブでは、入社した後のサポートもしていて、中小企業の新人を月に1度集めて、合同研修も行っているそうです。
最近は「併願もOKにしよう」という自治体も出てきているようですが、書類や面接練習などの負担が増えるため、学校の先生にとっては、「やってる暇がない」!先生にとっても、なかなか負担の大きい現状があるようです。
求人は増えて追い風ですが、制度や指導はまだ昔の形のまま。生徒の進路をどう支えるか、学校も企業も一緒に見直していく時期に来ています。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)