武蔵小杉・新丸子さんぽのおすすめ8スポット。激変する街の「この街らしさ」
ニョキニョキとタワーマンションがそびえ、新たな建設計画も進行中。一見、無機質な再開発が続く武蔵小杉にも、新丸子方面の変化を皮切りに「この街らしさ」が見えてきた!
1DKに築き上げた服好き兄弟の城『daze&easy』
築52年の味わいがあるレトロなマンション。リノベーションされた一室から、90年代のヒップホップが聴こえる。「古着やレコードが好きで、長年集めていました」と語る店主の沼田大輔さんが2022年、服飾デザイナーの弟と一緒に開店。オリジナルブランド「DE SINGSMAN」や、古着をリメイクしたシャツも人気。
13:00~19:00、月休(土・日・祝は不定休)。
☎なし
食事パンからおやつまでうれしい品揃え『パンと焼き菓子のPapapapa-n!』
まずは、フランス産発酵バターを使ったクロワッサン。プレーンはもちろん、あえて粒子の粗い全粒粉で作ることでその歯触り、香ばしさが魅力だ。店主の神戸友輔さんは元パティシエでもあり、旬の果物を生かした菓子パンは早い者勝ち。おしりぱんつ(白パン)には子供が食いつく。
9:00~18:00(土・祝は~16:00ごろ、売り切れ次第終了)、日・月休。
☎044-387-6014
サポーターじゃなくても、気軽にどうぞ『12 COFFEE AND BAKE』
川崎フロンターレが好きすぎて「お膝元で店を始めました」と森山夫妻。泰宏さんが作るパスタが評判で、なかでも「常連さんの子供が100年後も食べる!と言うほど気に入ってくれた」のが、のり明太クリーム1300円(ドリンク付き)。コーヒー550円~は『Leaves Coffee Roasters』や『ONIBUS COFFEE』の豆を使い、真里子さんが丁寧にハンドドリップ。
9:00~18:00、木休。
☎なし
散歩の休憩にも、飲んだ後の締めにも『BIG BABY ICE CREAM』
空気をよく含んだふっくらした食感にうっとり。できたてのアイスクリームを提供できるのは自家製ならではだ。ベースのミルクはさっぱりとした甘さに抑え、素材の持ち味を引き立てたゴルゴンゾーラチーズなど全10種類のフレーバーを用意。桜もちのような心躍る季節限定も! ダブルサイズ720円。コーヒー520円。
12:00~21:00、無休。
☎044-750-9080
手に伝わる温もりと甘い香りにときめく『L’ATELIER HIRO WAKISAKA』
外サクッ、中フワッ&じゅわっ。焼きたてフィナンシェ310円は平日4~5回、週末は8回ほど焼き上げ、すぐ店頭に出してくれるので出合えるチャンスが多い。温かみが伝わるとともに、フランス産発酵バターが香る「ナチュール」、メイプルのふくよかな甘みが広がる「エラブル」の2種類。美しいケーキも並ぶ。
11:00~18:00、月・火休(祝の場合は営業)。
☎044-281-3865
新時代を感じさせるネオ八百屋『中三青果店』
給食で使う野菜を学校に届ける役割を代々担いつつ、3代目の山田海斗さんが店舗を大きくリニューアル。そもそも「八百」には「たくさん」という意味があり「八百屋はさまざまな商品を取り揃えるセレクトショップだったんです」。幅広く目利き力を発揮し、品質を重視して旬の野菜や果物、各地の農産加工品を仕入れている。
11:00~19:00、日・祝休。
☎044-411-3318
イキイキした草花がワッと咲き誇る『佐藤生花店』
ストレートな店名で、まるで昔からある店のような印象だが、まだ開店して1年ほど。白い店内に草花が明るく映える。自宅に飾るのにちょうどいい花も、アクセントになりそうな珍しい花も両方揃っているのがありがたい。店主の佐藤光さんにブーケをお願いすると、イメージや用途を聞いてくれ、華やかに仕上げてくれる。
10:00~19:00、火休。
☎044-299-8271
中華と和食がフュージョンする楽しさ『Koi Cafe』
店主の李偉竜さんは、2018年に中国から日本へ。修業先で磨いたイタリアンやフレンチの技術、日本で学んだ寿司の知識などを柔軟に取り入れ、広東料理と和食をミックスしたような新しい味わいを生み出す。しめ鯖海苔巻き1480円。北京ダック巻き1本1080円~、車海老の紹興酒漬け880円も日本酒780円~に合う。
11:30~22:00(ディナーは18:00~)、月休。
☎044-455-4885
「この街らしさ」が開花する日
林立するタワマンをジーッと見上げていると、何かそういう生き物が群生しているように見えてくる。
2000年代後半に建設ラッシュが本格化した武蔵小杉。現在人口は、当時の約2.5倍まで膨れ上がった。再開発で商業施設も増え、子育て世代に住みやすい街になったとも言われる。
歩いてみると、たしかに子供連れが多い印象。焼きたてフィナンシェが評判の『L’ATELIER HIRO WAKISAKA』が入る、地上53階、地下1階建ての「パークシティ武蔵小杉ザガーデンタワーズイースト」横の広場では、走り回ってはしゃぐ子供の姿がほほ笑ましい。両親に買ってもらったばかりのフィナンシェに、我慢しきれず早速かじりついている子もいる。「やっぱり焼きたてが一番。1個からでも、今食べたい分だけ気軽にどうぞ」と、シェフパティシエの脇坂紘行さん。
気ままに散策するなら、隣の新丸子周辺が楽しい。駅の東西に商店街があり、個人店も多い。クロワッサンが人気の『パンと焼き菓子のPapapapa-n!』の店主・神戸友輔さんは独立前、若い頃に住んでいた新丸子で店を開きたい、と東口側の『SHIBACOFFEE』に相談していたそう。「背中を押してもらったおかげで踏み出せました」。
『BIG BABY ICE CREAM』は「3世代で楽しめるアイス」がコンセプト。もともとオーナーの祖父が横浜でこんにゃく屋を営んでおり、夏の間はアイスクリームの製造・卸しをしていたのが開業を考えたきっかけのひとつだという。若い女性客が多いように思えるが、年齢層は意外と幅広く「新丸子の人はいくつになっても好奇心があって、新しいものが好き」と、マネージャーの安徳穣さん。
「このビルの大家さんも、町内会の仲間と来てくれるんです」
そういえば『daze&easy』に置いてあるオーディオ機器は、見事な年代物だった。50年くらい前に製造されたビンテージで、毎日のように通う70歳超えの常連客が譲ってくれたそうだ。
「レコードもたくさん持ってきてくれました」と、店主の沼田大輔さん。そのうちの1枚、ジャズのLPをかけると、スピーカーから丸みのある澄んだ音色がパーンと響き、思わずテンションが上がる。もしも自分の青春期に、こんな風にあれこれ聴かせてもらえて、いろいろ教えてくれる場所があったなら、通い詰めただろうな。
このように、新丸子には新しい店が増えている。「川の向こうは東京であちらがマンハッタンだとしたら、新丸子はブルックリン」。そんな絶妙な例えをしてくれたのは『tokishirazu』の店主・市之瀬智博さんだ。チャレンジしやすい雰囲気があるから、今後どんどん盛り上がるかも。「武蔵小杉と新丸子、向河原のトライアングルがいい感じです」っていうのも楽しみすぎる。
住む人が変われば文化も変わる。ここ十数年、新しい住民が増えてなんとなくつかみどころがなかったが、淘汰(とうた)されるものはされ、根づくべきものは根づき、新たに「この街らしさ」が芽吹き始めている。コンクリートジャングルの狭間にある『佐藤生花店』では、今日も色とりどりの花々が咲き誇っている。
取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年4月号より