【倉敷市】ウォールウォーレン 〜 みんながおいしいと喜ぶ味を目指して25年。自然体で真備町に寄り添う洋菓子店
倉敷市真備町で2000年に創業し、今年(2025年)で25周年を迎える洋菓子店「ウォールウォーレン」。
ウォールウォーレンという店名は、ドイツ語で「心づくし」や「親切心」を意味しています。横浜出身の店主 佐藤敦志(さとう あつし)さんが、真備の地を選んだ背景には、地域の人々との温かいつながりと、お菓子作りへの真摯(しんし)な思いが詰まっています。
ケーキへのこだわりや店主の想いを取材しました。
お菓子作りと向き合ってきた40年
佐藤さんは18歳で専門学校に入学し、お菓子作りの道を歩み始めました。
専門学校を卒業後、洋菓子作りをさらに学ぶためオーストリアへ半年間留学。
帰国後は、専門学校で知り合った仲間が働くお店を中心に、東北から九州にかけて、各地の有名店を巡る旅を始めました。
旅の最中、岡山市にある洋菓子店「モーツァルト」の名を聞き訪ねたところ、熱心に見学する佐藤さんの姿が認められ、そのままモーツァルトへ就職。
ここから岡山でのキャリアが始まります。
勤務を始めて5年経った2000年に、奥様の出身地である真備町に自身の店を構えました。
平成30年7月豪雨を経て
平成30年7月豪雨は、ウォールウォーレンにも甚大な被害をもたらしました。
店舗が浸水し、営業を続けられなくなったため、一時休業となりました。しかし、設計士から修繕可能と聞くと、佐藤さんはすぐに復旧作業を開始します。
当時のスタッフも「お店を再開するなら戻ります」と声をかけてくれたそうです。
お客さんからの「いつ再開するんですか」という問い合わせも後押しとなり、2018年12月には営業を再開。
豪雨災害は、店にとって大きな転機となったそうです。
もともと焼き菓子にも力を入れたいと考えていた佐藤さんですが、オープン当初はスタッフの人数も少なく、ケーキ作りだけで手一杯の状況でした。
休業期間中は、店舗の復旧作業と並行して、焼き菓子の製造体制を見直す時間を確保しました。
スタッフの働きやすさや作業の効率化を考え、仕込みや焼き上げの工程に機械を導入するなど、お菓子の質を高められる環境を少しずつ整えていきました。
たくさんのケーキ、焼き菓子が並ぶ店内
取材時、店内はちょうどハロウィンの時季でもあったので、期間限定の焼き菓子も並んでいました。
ショーケースには定番のケーキや旬の果物を使ったケーキが並んでおり、つい目移りしてしまいます。
人気商品のラインナップ
ウォールウォーレンの人気商品を紹介します。
苺のパイ
サクサクのパイ生地の上には、カスタードクリームとたくさんのいちご。
しつこくない甘さで、ついペロリと食べてしまいます。
抹茶松風の生ロール
次に紹介するのは、2003年から続く「抹茶松風の生ロール」です。
京都の抹茶「松風」をふんだんに使用したロールケーキで、ふんわりとした生地を口にすると、クリームの甘さの後に、抹茶の香りと上品な苦味が広がります。
大きいサイズながら手が止まらなくなるおいしさです。
佐藤さんのおすすめはザッハ・トルテ
佐藤さんが特に思い入れのある一品、それが本場仕込みのザッハ・トルテです。
このケーキが好きだったこともオーストリアに留学した理由の一つで、当時の経験が生きた味わいとなっています。
ひと口食べれば、チョコレートの甘みとあんずジャムの酸味がやみつきになります。チョコレートはシャリッとした食感で、一つのケーキのなかでさまざまな食感を楽しめるのも魅力です。
スタッフからも人気の高いザッハトルテは、見た目こそ素朴ですが、口に含むと広がる深みが印象的です。
ギフトにおすすめ、焼き菓子
焼き菓子の人気商品には、「真備焼き(まきびやき)」、リーフパイの「葉衣ひとひら」、「瀬戸内レモンケーキ」などがあります。
食感や味わいもそれぞれに異なり、硬めのものや柔らかいものなど、お客さんの好みに合わせて選ばれています。
真備焼きは洋風にアレンジしたおまんじゅうで、2012年から続く商品です。
販売するきっかけは地域のお客さんからの「お供えできるお菓子はない?」という声でした。
佐藤さんが、福島県に住む専門学校時代の友人のもとへ行き、和菓子の小豆の炊きかたやまんじゅうの皮の包みかたを教わりながら試作を重ねて完成しました。
見た目も楽しいクリスマスケーキ
11月からはクリスマスケーキの予約がスタートしました。
今年(2025年)は新作の「抹茶のチーズケーキノエル」も登場します。
人気商品は予約開始後、すぐに完売することも珍しくありません。
(6番「サンタの苺パイ」はすでに完売)
予約はお早めに。
真備の地で25年、ケーキや焼き菓子を届けてきた佐藤さんにお話を聞きました。
店主の佐藤敦志さんへインタビュー
ケーキのこだわり、お店や地域への想い、これからの目標について聞きました。
自然体で続けてきた25年
──オープンして25年を迎えました。お気持ちを聞かせてください。
佐藤(敬称略)──
ずっとお菓子作りと向き合っていますので、25年の期間に対して長いとか短いという感覚はありません。お菓子作りはもはや生活の一部ですね。
オープンしたての若い頃は、周りのケーキ屋さんの頑張りを気にする時期もありました。しかし、今では周りを気にせず、自分のやりたいことをやるという「自然体」のスタンスを大切にしています。
個性よりもみんなが「おいしい」と言ってくれる味
──ケーキや焼き菓子のこだわりを教えてください。
佐藤──
特定の客層を選ばず、万人がおいしいと喜んでくれるものを提供することにこだわっています。
たまに個性的な商品も出しますが、子どもから大人までみんなが「おいしいな」と言ってくれるものを出したいです。
一方で味や食感については、自分が提供したいと思うものをベースに作っています。
この味付けは譲れないと判断したら、お客様の意見に左右されずそのまま提供することもあるんです。
一見矛盾しているようですが、譲れない味や食感のこだわりを大切にしつつ、それ以外の部分ではお客様に寄り添う姿勢を持っています。
地域への感謝と未来への挑戦
──真備町やお店への想いを教えていただけますか。
佐藤──
横浜での生活よりも真備町に住んでいる期間のほうが多くなって、ここが自分の実家だと感じています。
真備町の畑や白鷺(しらさぎ)といった自然を見ると心がすごく落ち着きます。
真備の地が自分に合っている場所だと感じていて、ここで仕事ができるのが幸せです。
お店についても、オープンするときは妻の両親が手伝い、もり立ててくれました。
私がよそから来たにもかかわらず、妻の両親の知り合いを通じて助けられたり、現在お店がある土地も「使ってない土地があるらしいから聞いてみたら?」と紹介をいただいたりと、いろいろな出会いのなかで支えられてきました。
──今後の展望について聞かせてください。
佐藤──
「ウォールウォーレンと言えばこれだよね」と言ってもらえるような看板商品を作りたいです。
今だと抹茶松風の生ロールがそれに当たりますが、もっと多くのかたに知ってほしいと思っています。
同じように焼き菓子でも看板商品を作りたくて、新しい商品づくりに取り組んでいるところです。
焼き菓子は日持ちがしてギフトにも向いているので、真備から離れた地域のかたにも食べてもらえます。
お店を広く知ってもらうために、商業施設などに焼き菓子ギフトを置けるといいなと考えています。
一つ一つやってみたいテーマがあって、正直「あ、違ったな」と思うような失敗もありますが、振り返ると「あのときの経験が生きていた」と思うことも多いんです。
さまざまな成功と失敗を楽しみながら、今後も挑戦を続けていきたいですね。
おわりに
インタビュー中も、次々とお客さんが訪れ、思い思いに商品を選んでいました。
特に印象的だったのは、スタッフの温かい対応です。
両手がふさがったお客さんのためにドアを開けたり、混み合う店内ではケーキの補充に来た製造スタッフが接客を手伝い、お客さんを待たせないように動いていたりしました。
ケーキだけではなく、お店の至るところから、お客様への温かい「心づくし」が感じられます。
特別なお祝いに、大切な人への手土産に。
ぜひウォールウォーレンへ足を運んでみてください。