ダメPMOは“介在価値アピール”をしがち!? 「存在を消す」をゴールとすべき理由
嫌われる優秀なPMO VS 好かれるダメPMO
PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の役割は、プロジェクトをスムーズに進行させ、成功へ導くことにあります。しかし、現場では「ただの御用聞きでしょ?」「進行管理を担当している人だよね?」といった誤解を受けることも少なくありません。
ですが本来、PMOの仕事はそう単純なものではないのです。そうした誤解が生まれるのは、もしかしたら、PMOの仕事の仕方に問題があるかもしれません。
では、本来のPMOとはいったいどのような存在であるべきなのか。新しく始まる本連載では「嫌われる優秀なPMO」と「好かれるダメPMO」を対比しながら、PMOに求められる「マネジメント」とは何なのか、それに付随してPMOが持つべき価値観・マインド・行動について掘り下げていきます。
株式会社office Root(オフィスルート)
代表取締役社長
甲州 潤(こうしゅうじゅん)
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画し、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動を開始し、多数プロジェクトを成功へ導く。企業との協業も増加し、2020年に法人化。さまざまな企業課題と向き合う日々。著書『DX時代の最強PMOになる方法』(ビジネス教育出版社)
目次
多くのPMOが勘違い中!PMOの面白さ理想は「存在が不要」になること「できない人」に目をかけてはダメ「自分の存在を消す」と仕事が増える理由「仕組み化」視点が大きなカギに書籍紹介
多くのPMOが勘違い中!PMOの面白さ
ご存じのようにPMOの主な業務は、進捗管理、品質管理、課題管理です。プロジェクトが進行する中で何かトラブルが発生すれば、その都度解決し、同じようなトラブルが起きないよう仕組み化する。その結果、「甲州さんがいてくれたので、プロジェクトに大幅な遅延が起きなかった」「進行がスムーズになってやりやすかった」といった声をかけてもらえることもあります。
自分が行った管理業務によって、チームメンバーが本来の業務に集中できるようになる。そのことが評価されると、「自分の仕事は価値がある」と実感できますし、やりがいや面白さを感じることもあります。
ここで多くのPMOは仕事の面白さを「自分の存在価値が認められること」だと考えてしまいがちです。しかし、本来PMOはそれで満足してはいけません。PMOという仕事の本当の面白さとは、「自分が存在しなくてもプロジェクトが回る状態をつくること」にあるからです。例えば、メンバーそれぞれが適切に進捗管理を行える、ミスのない業務報告を行えるなど、「PMOなしでプロジェクトが成功すること」が本来目指す姿なのです。
理想は「存在が不要」になること
ちょっとマッチョなことを言ってしまいましたが(笑)、ここで一つの事例を紹介させてください。私がある企業のプロジェクトに途中参画したときのことです。
状況をリサーチしていくと、なんと1日30人が4時間もの会議に参加するという非効率な状況が続いていました。それにより業務に集中できない状態や納期遅延が発生するなど看過できない事態が起こっていたのです。
しかもメンバーの中には、この事態に疑問を持つ人と、持たない人が混在。また会議の内容を詳しく聞いてみると、一部の内容では参加が必要ない人がいることも分かりました。そこで私は、二つのステップに分け、会議参加の見直しを図ったのです。
第1ステップ では、状況を正確に把握するため私が会議にフル参加し、会議を効率的に進められるようにレクチャーしました。それと並行して各メンバーが「本当に必要な会議に1時間だけ参加する」形へ移行。これにより、メンバー全体の負担が減少したのです。
Q.どんなことをレクチャーした?
例えば、会議資料のテンプレート化や資料更新フローの明確化、会議参加者の役割定義(承認者、進行者、記録担当、議題提示者など)などを浸透させたり、会議そのものの進行の仕方や会議の記録、成果物、管理表への反映の仕方などを伝えたりしました。
第2ステップ では、「もう会議の進め方は分かったと思います。今後私は会議には参加しないので、みなさんで進めてください。私はアウトプットだけ確認します」というフェーズに切り替えました。メンバー主導にして、自分たちで手を動かしてもらう。実践フェーズに移ったわけですが、そう簡単にはいきませんでした。
運営を任せた結果、進行が滞り、アウトプットの質が落ちてしまうケースが多発。あるメンバーからは「甲州さん、もう一度戻ってきてレクチャーしてください」と言われることもあったのです。
そうなれば、再び第1ステップに戻ります。私は、「会議そのものを管理するのではなく、アウトプットをしやすくする仕組みを作れないか?」と新たな対策を検討。そこで、進捗の可視化を強化しました。
具体的には各メンバーの進捗を一つの表にまとめ、それを見て、進捗の遅れを事前に予測しメンバーにフィードバックしていったのです。
もちろん一回でうまくいくはずもなく、何度も試行錯誤を重ね、第2ステップへ進んでは戻りを繰り返しながら、メンバー全員に浸透できるアウトプット法を模索しました。
その結果、最終的には、「どこまで進んでいますか?」という口頭での確認が不要になり、保存履歴を見れば進捗が一目でわかる仕組みを整えました。もはや会議すら必要なくなり、本来業務にかけられる時間が大幅に増えました。
30人が1日4時間出ていた会議が1時間に削減されたということは、1カ月で、「60時間/人(3時間/日×20日/月)×30人=1800時間」の時間*が確保できたことになります。
それとともに、私の存在も不要となったのです。
*1か月を20営業日と仮定し、掲載しています。
「できない人」に目をかけてはダメ
このように話していくと、さぞスムーズにいったように感じますが、実際そんなことはありませんでした。会議や業務の進行状況を見極める中で、そもそもアウトプット自体ができないメンバーや、不正確な情報を伝えているメンバーもおり、それらに一つ一つ対応していったからです。
「そうはいっても、どうやって不正確な情報だと気づいたり、業務スピードの目安を図ったりするの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん経験値がものをいう部分でもありますが、それ以外に現在はAIを活用すれば、どの程度の労力が必要なタスクなのか、客観的に測ることも可能です。
「○○業界の市場調査をするには?」といった問いを投げかければ、調査範囲や作業量の目安が分かるため、自分自身の中に「作業工数にかかる時間」等の基準を明確に持つことができます。それによって、適切な判断を下していきました。
また、不正確で信ぴょう性に欠ける情報を伝えてくるようなメンバーとは、進捗等を会話を通じて確認することがむしろ難しい場合もあります。
そのような場合、電子ファイルの更新履歴を見たり、Officeソフトの変更履歴機能やファイル差分ツールを使ったりすることで、進捗状況の把握を行い、必要に応じてメンバー交代も視野に入れました。
ちなみに、プログラムコードや大量の設計書などファイル数が多い場合は、gitやgitHubなどのソースコード管理ツールでコミット履歴を追う、あるいはファイルの更新回数やファイル容量の推移を確認する方法もあります。
その上で「8時間作業しているのに、数行のコード更新、数ページのドキュメント更新しかされていない」などの場合、作業できていない理由をヒアリングし、適宜作業スタイル等の見直しを働きかけます。
(例)
●「分からないことがあった」→「不明点を都度質問できるチャットチャネルを設ける」
●「ローカル端末で作業しており、完成後にアップロードするつもりだった」→「原則オンライン上で作業する。ローカル端末を使う場合も1日の終わりに途中段階でもアップロードする」
話を戻すとPMOの役割は、「この人は仕事ができないからどうしよう?」のように個人の課題解決に着目することではありません。「プロジェクト全体の生産性を最大化するためにどうすればいいか」を常に考える必要があります。
業務の無駄を省き、進捗管理の仕組みを整え、最終的にはPMOの存在自体が不要になる状態を目指す。この視点を持つことで、本当の意味でプロジェクトに貢献できるPMOへと成長できるのです。そのためには「この業務自体、本当に必要なのか?」と常に問い続ける姿勢が求められます。
さて、みなさんが関わっているプロジェクトでこんな業務はありませんか?
もしあるのなら、これらは本当に必要でしょうか?
・毎朝の「本日10時から会議です」というリマインド
・明日の休暇連絡
・報告書の読み上げ
これらの業務はシステム化できる部分も多く、PMOが積極的に介入し削減すべき項目です。逆に、「より深い議論」や「戦略的な会話」に時間を使う方が、生産性の向上につながるでしょう。
「自分の存在を消す」と仕事が増える理由
前述のように、PMOが果たすべき役割を正しく認識し、仕組み化を進めると「自分の仕事がなくなってしまうのでは?」「自分って本当は不要な人間なのでは?」という不安を感じることがあります。
こうした不安があるからこそ、多くのPMOは「自分がいなければプロジェクトが回らない」状態をキープしたがるのでしょう。そして、本当はプロジェクトにとって伝えたほうが良いことを胸の内に隠して、PMやお客様の言うことを従順に聞く御用聞きになり、「好かれるダメPMO」となり都合よく使われ続けるのです。
しかし、それはまったくの逆です。そもそもPMOの自分がずっと介入し続けて、プロジェクトメンバーからも頼られる、依存される関係性が本当にプロジェクトにとって良いと思いますか?
プロジェクトメンバーのこと、そしてその企業を思えばこそ「自分がいなくても回る仕組みを作る」ことが本当の価値だとは思いませんか?
なんて少しカッコつけてしまいましたが(笑)、「PMOがいなくても大丈夫な状態を作ったら契約が終了するのでは?」「仕事にありつけなくなってしまうのでは?」という「自分のポジションに関する不安」が出てくることもあるでしょう。
結論から言います。
自分のポジションがなくなる、そんなことはありません。むしろ仕事は増えていきます。
「甲州さんが自走するチームを作ってくれた。わが社の仕組みも理解してくれている。それなら、今度は別のプロジェクトを任せたい」という評価につながり、むしろ大きな仕事を獲得できるチャンスが広がるからです。
「自分の存在をなくすことで、大きなチャンスを得られる」なんてなんだか面白いですよね。PMOとしてやるべきこと、それは自分の存在をアピールすることではありません。「消す」ことなのです。
改善できることを伝えて行動すると、ときにメンバーから嫌われることもあります。変革しようとするときは、場合によって強引に進めなければならないこともあります。最悪の場合、契約が終了となってしまうときもあるでしょう。
しかし、あなたがそうした行動を取ったことは、実績となり、あなたを理解してくれるプロジェクトメンバーやお客様に出会うことができます。
「嫌われる優秀なPMO」であることに苦労する場面があるかもしれませんが、自分自身の振り返りを十分に行うことで、自分の中の最適解を見つけて成長していきましょう。
「仕組み化」視点が大きなカギに
PMOの本質は「管理すること」ではなく、「プロジェクトの生産性を最大化すること」だと述べてきました。そのためには、「この業務は本当に必要か?」と問い続け、仕組み化を進めることが重要です。といっても最初からそうした視点は養われません。
第1ステップ:目の前の仕事を効率的に進める方法を考える
第2ステップ:仕事の流れを変え、仕組み化を考える
という風に段階的に目標達成を進めていきましょう。そうすれば「嫌われるが優秀なPMO」ではなく、「信頼され好かれる優秀なPMO」へと成長できるはずです。
この連載を通じて、PMOの本当の価値を再認識するきっかけになれば幸いです。
書籍紹介
『DX時代の最強PMOになる方法』
著:甲州潤
▼こんなエンジニアはぜひお読みください。
・今の仕事に不満を持っていて、現状を変えたいと思っている
・給料をアップしたい
・エンジニアとしての将来が不安だ
・キャリアアップをしたいが、何をしたらいいかわからない
・PMOに興味がある
・PMOとして仕事をしたい
【目次】
第1章 一番稼げるIT人材は誰か
第2章 これからはPMOが1プロジェクトに1人必要
第3章 SEとPMOの仕事は何が違うか
第4章 稼ぐPMOになる7つのステップ
第5章 優秀なPMOとダメなPMOの見抜き方
第6章 PMOが最低限押さえておきたいシステム知識とスキル
第7章 システムは言われた通りに作ってはいけない
第8章 どんな時代でも生き残れる実力をつけよう
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