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頼もしい兄貴分の上田堪大&北代高士とともに成長途上の美しさを見せる、神戸セーラーボーイズ『銀牙 -流れ星 銀-』

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神戸セーラーボーイズ定期公演vol.2 舞台『銀牙 -流れ星 銀-』 

定期公演vol.2 舞台『銀牙 -流れ星 銀-』 2024.8.2(Fri)~11(Sun) AiiA 2.5 Theater Kobe

2023年に結成された、関西育ちの10代の少年たちによる演劇ユニット、神戸セーラーボーイズ。今年3月に一部メンバーが入れ替わり、新体制としては初の舞台となる定期公演vol.2 舞台『銀牙 -流れ星 銀-』が、現在神戸で上演中だ。歌と踊りで、犬(おとこ)たちの姿をたくましく演じた芝居部分と、10代らしい元気さとあどけなさが全開のライブパートのギャップも楽しい、その舞台のゲネプロをレポートする。

『銀牙 -流れ星 銀-』は、1980年代に『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された動物漫画。主に秋田県の山を舞台に、熊狩に使われる「熊犬」となる宿命を背負った秋田犬・銀が、日本各地の強い犬(おとこ)たちと友情を築きながら、凶暴な熊・赤カブトに立ち向かっていく……という物語。動物たちが人間のように台詞を語ることで、種族の違いを超えた共感と感動を呼び、今もなお外伝や続編が発表されている名作だ。

舞台版は2019年と2020年に、丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)の脚本・演出、ダンサー・辻本知彦(<辻>は1点しんにょうが正式表記)の振付、伊 真吾(OVERCOME MUSIC)の音楽、佐奈宏紀主演で上演。銀がどんな困難もまっすぐに立ち向かっていく姿や、個性的な犬たちと関係性を作っていく所を、原作からあざやかに抽出。できるだけ四つ足で行動するなど、犬に近づけた俳優たちの演技もあいまって、続編が作られるほどの好評を得ている。

竹田五兵衛(北代高士)

今回神戸セーラーボーイズが演じるのは、その舞台をアレンジした、約50分の短縮版。丸尾&辻本をはじめとする、このクリエーションに最初から関わったスタッフたちが再集結し、まだ経験の浅い彼らを鍛え上げた。また、銀の父・リキ役で上田堪大、リキと銀の飼主で語りも担当する竹田五兵衛役で北代高士という、頼もしい兄貴分がサポートに。その結果、辻本いわく「10代にしか出せない美しさがある」(公演パンフレットより)舞台になった。

リキ(上田堪大)

最初にステージに現れるのは、リキ役の上田。彼がこの世界の背景を語るうちに、その体はじょじょに四つ足に。すっかり犬のようになった頃、他の犬たちもわらわらと集まってきて、この世界の厳しさを歌い上げる大合唱となる……オープニングから一気に世界に引き込んでいくが、ほどなくしてリキは、赤カブトとの戦いで行方知れずとなってしまう。五兵衛はリキの子ども・銀に、熊犬となるための厳しい特訓を行い、銀もまたそれに食らいついて、たくましく成長していく。

銀(津山晄士朗)

銀役に抜擢されたのは、15歳の津山晄士朗。少し幼さが垣間見える雰囲気が、まだまだ子犬の銀の姿と見事にかぶる。そんな彼と狩りの練習中に出会い、不遜な態度で接するのが、田中幸真が演じるジャーマン・シェパード・ドッグのジョン。田中の特技がフラメンコというだけあり、しなやかな動きで銀を翻弄し、なにかとマウントを取りたがる。今回の物語は、素直な銀と一匹狼気質のジョンという、対照的な性格の2匹が引っ張っていく。

ジョン(田中幸真)
ジョン(田中幸真)、銀(津山晄士朗)

ここで突如、巨大な熊が銀とジョンに襲いかかった。初演版の舞台では、赤カブトをはじめとする熊たちも俳優が演じていたが、今回は映像か、あるいは傘と熊手を用いた小道具を用いるという、演劇ならではの手法で熊を表現。2匹がピンチになった所で現れたのは、ベン(明石侑成)、クロス(中川月碧)、スミス(細見奏仁)、ハイエナ(石原月斗)などの犬たち。4匹は赤カブトを倒すために集まった、野犬の集団「奥羽軍」のメンバーだった。彼らに気に入られた銀は、父・リキの敵を打つために仲間に加わることになるが、その総大将は記憶喪失となったリキだった……。

クロス(中川月碧)、ベン(明石侑成)、ハイエナ(石原月斗)、スミス(細見奏仁)

頼りがいのあるベン、雌犬ながら勝ち気なクロス、ムードメーカーのスミス。一匹一匹のビジュアルの違いもあるが(オープニング映像でチラリと映るが、オリジナルに相当寄せている)、それぞれの性格や動きの違いも明確にしようとしていることで、個性がちゃんと見えてくる。そしてリキの跡目を秘かに狙うスナイパー(奥村頼斗)、彼のスパイとして活動するハイエナが作る不穏なムードが、物語にスパイスを効かせていく。

スナイパー(奥村頼斗)、ハイエナ(石原月斗)

そして日本中から、強い犬たちを集める使命を受けた銀たちは、山梨で赤虎(崎元リスト)、中虎(髙山晴澄)、黒虎(髙橋龍ノ介)の甲斐犬3兄弟に遭遇。天涯孤独で、自分たち以外は誰も信じない3人は、銀やベンたちの話に耳を貸すことなくバトルを挑む。3兄弟は各自の個性をヴィヴィッドに出すというより、三位一体ともいうべき空気感を作って、彼らの結束力の高さを表現。映像効果を重ねることで臨場感を出した、銀と黒虎の一騎打ちも見ものだ。

赤虎(崎元リスト)、中虎(髙山晴澄)、黒虎(髙橋龍ノ介)

とある事実が判明して、結局は奥羽軍に加わることを承諾した3兄弟。ただ1匹で熊と戦い続けたジョンも、最終的には銀たちの仲間になることを選んだ。その一方で銀は、リキが息子の自分を忘れていることにショックを受け、リキも失われた記憶をめぐって煩悶する。様々な悩みや不安、そして赤カブト一味との果てしない闘争に、銀たちは果敢に立ち向かっていく……という所で、舞台は幕を下ろした。

50分という短い時間、そして限られたキャストのなかで、原作の導入部分をまとめあげた、神戸セーラーボーイズ版『銀牙 -流れ星 銀-』。正直、まだまだ課題が残るところはあるけれど、「打倒赤カブト」という大きな目標の入口に踏み入れた銀たちと、満員の客席を夢見て集結したばかりの神戸セーラーボーイズは、どこか置かれた境遇が似ている。そんな似たもの同士だからこそのケミストリーは生まれていたと感じたし、何よりも「……いやこの続きは!?」と漫画を読みたくなったというだけでも、原作ものの舞台としては成功だろう。

北代高士、上田堪大

舞台の終演後は、15分間の休憩をはさんで、ライブパートの時間に。新曲2曲を含めたオリジナルソング5曲と合唱曲「COSMOS」を、先程の犬(おとこ)ぶりとはひと味違う、元気溌剌としたムードで披露した。新曲のうちの1曲「MAGIC MUSIC」は、なんとメンバーの細貝奏(細見奏仁、キャッチフレーズは「若きマエストロ」!)と中城碧月(中川月碧)が作詞・作曲の中心に。振付も中城が担当したとのことで、その早熟ぶりにビックリした。そしてMCも関西の子らしく、時おり笑いを取りに行こうとすることもあるけれど、全体的にはおっとりとした雰囲気。この辺りが、やはり大阪ではなく「神戸」のグループだなあ……と実感した。

完成されきっていないというのは、逆に言うと、これから完成されていく姿を見届けることができるという、この時しか味わえない楽しみがあるということでもある。神戸セーラーボーイズの舞台もまた、その喜びを見いだせるものとなるはず。公演は8月11日(日・祝)までなので、この夏しか味わえないかもしれない、彼らの勇姿を見届けに行ってみよう。できればライブパートに備えて、カラーチェンジができるペンライト持参で。

取材・文=吉永美和子 撮影=ハヤシマコ

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