PTSD、ドラッグ、高い自殺率 紛争が世代を超えてもたらす問題を訴える“真のヒップホップ”『KNEECAP/ニーキャップ』
過激なリリックとパフォーマンスで注目を集めるアイルランドのヒップホップ・トリオ、KNEECAPを描いた映画『KNEECAP/ニーキャップ』が、現在劇場公開中だ。
クソな現実をクズな奴らが音楽で撃ち抜く!
北アイルランド出身のヒップホップ・トリオ、KNEECAP。2022年まで北アイルランドでは公用語として認められていなかったアイルランド語でラップをし、政治的な風刺の効いたリリックに反抗的なパンク精神を融合したスタイルで注目されている。政治家にも目をつけられ、検閲の対象としてラジオ局では放送禁止になるなど、その過激な言動で度々論争を巻き起こしていることから、<セックス・ピストルズ以来、最も物議を醸すバンド>という呼称もある。
本作は、そんなKNEECAPの誕生を、アイルランド語法制化を求める抗議活動を背景に辿った“ほぼ実話”の半自伝的物語。北アイルランド紛争の傷跡が深く残る西ベルファストのドラッグにまみれた労働者階級の若者を、ユーモアを交えてポップなテイストで描く。
メンバー3人は演技初挑戦にして、本人役を見事に好演。“アイルランド版トレインスポッティング”とも評され、アイルランドではアイルランド語映画として初週動員歴代1位の大ヒットを記録。さらに、「第40回サンダンス映画祭」では観客賞(NEXT部門)を受賞、「第97回アカデミー賞」国際長編映画賞にアイルランド代表としてショートリストに選ばれるなど、26の受賞と66のノミネートを果たした。世界中で大絶賛された話題作がついに日本に上陸。
北アイルランド、ベルファストで生まれ育ったドラッグディーラーのニーシャ(MCネーム:モウグリ・バップ)と幼馴染のリーアム(MCネーム:モ・カラ)。麻薬取引で警察に捕まったリーアムは、英語を話すことを頑なに拒み、反抗的な態度を貫いてた。そこに通訳者として派遣された音楽教師のJJ(MCネーム:DJプロヴィ)が、リーアムの手帳に綴られていたアイルランド語の歌詞を発見。その才能に目をつけ、3人はアイルランド語の権利を取り戻すべく、アイルランド語のヒップホップを始めることに。
映像は、本作のテーマのひとつで、紛争がもたらす“世代間のトラウマ”という北アイルランドが抱える問題<トラブル>にフィーチャーしたもの。「俺らの世代の名は“停戦ベビー”」と名乗るのは、KNEECAPの若いメンバー2人、ニーシャ(モウグリ・バップ)とリーアム(モ・カラ)。停戦ベビーとは、北アイルランド紛争の後に生まれた世代のこと。紛争を経験していないが、紛争の傷跡が残る街で生まれ育った若者もPTSDほかストレス障害に苦しむ。
その影響は根深く、ドラッグが蔓延し、自殺が後を絶たない。「国の歴史が」「細胞に」「刻まれている」「トラウマのように」と、医者に薬“ドラッグ”を処方するよう、ラップのようにリズミカルに訴える。ただ過激なだけではない、彼らが大暴れしながら音楽をやるバックグラウンドとは?これこそが真のヒップホップだと断言できる展開が期待される。
『KNEECAP/ニーキャップ』は全国公開中