これぞ想像してた未来の世界! “中の人”が遠隔操作してる「分身ロボットカフェ」はめっちゃバリアフリー
技術がめちゃくちゃ発達している21世紀。AIの進歩とかすごいんだけど、自分が子供の頃に想像したSFチックな「未来」の世界とはちょっと違うなあ……なんて思っていた。
たとえばロボットが接客してくれるお店とか。猫型の配膳ロボットとかペッパーくんの案内とかあるけど、もっと、私たちが想像している未来チックなカフェがあった!
なんと、生身の人間がロボットを遠隔操作している「分身ロボットカフェ」である。実際に訪れてみたら、そこは完全に未来のバリアフリーなカフェだった。
・分身ロボットカフェ
OriHimeはロボットの中にAIが搭載されているんじゃなくて、人が操作しているってところがポイント。
オリィ研究所の『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』は、さまざまな理由で外出が困難な人たちが分身ロボット『OriHime』を遠隔操作してサービスを提供しているカフェ。
OriHimeを操作するパイロットたちは、体の障害や、心の問題、看病や介護などいろんな事情を抱えて外出が難しい人たち。全国津々浦々から、遠隔でOriHimeを操作して接客してくれるのだ。
・提供された食事について
今回、私を接客してくれたOriHimeパイロットは三重県在住のコーキさん。OriHimeパイロット歴が長いベテランである。
三重在住の人がOriHimeを介して、東京にいる私を接客してくれるという不思議。まず最初にメニューの説明をしてくれて、相談しながらメニューを決めることができる。
オーダーが終わったら、コーキさんとしばしおしゃべりしながら料理とドリンクが来るのを待つ!
こんな仕事(ライター)をしているにも関わらず、実は人見知りの私……。そんな私を和ませるようにコーキさんはおしゃべりをリードしてくれる。
「(OriHimeの)見た目は女の子ですけどね、中からオッサンの声がするというギャップも含めて楽しんでいただければと思います〜。要望がありましたら女の子風のおしゃべりもしますので」
つかみがうまいな……。お互いの出身地の話などをフックにして、トークを続けていく。
取材でも三重県行ったことないんですよねと言った瞬間、コーキさんがiPadの画面に三重の名所にまつわるスライドを見せてくれたのでびっくりした。未来や〜!
と……そうこうするうちに料理が到着。
お昼を済ませてたので私が注文したのはスイーツプレートと、アイスコーヒー。お料理は人間のスタッフさんが席まで持ってきてくれるのだが、ドリンクを持ってきてくれたのはOriHime-Dのパイロット・まちゅんさん。
OriHimeがゆっくりと席に近づいてきて、「おまたせしました〜」と、ドリンクを持ってきてくれる様子、和む。
ちなみに、OriHime同士がすれ違うときにワチャワチャ〜となって、他のスタッフが助けに入るときもあって、そういう「ロボットが困っちゃう」姿も人間味が感じられてイイ!
・OriHime同士も喋る!
と、そのとき……コーキさんがまちゅんさんに声をかけた!
「まちゅんさんお疲れ様〜!」
「あ、その声はコーキさん。お疲れ様〜!今日も暑いですけど頑張りましょ〜」
なんとロボット同士での会話が見られるのだ! ロボット同士の会話する様子、未来感があってめっちゃ興奮する。
とはいえ、見た目はOriHimeなわけで。しかもパイロットは60人ほどいるという。お互いに誰が操作してるのかわかるんですか? とコーキさんに聞いてみたところ
「声で分かるときもあるし、なんとなく雰囲気で誰か分かるときもありますよ〜」
とのこと。人によって操作のクセが出るのかな。不思議な世界。
ついつい、OriHime達が動く未来な世界観に目を奪われがちだけど、スイーツは濃厚だし、コーヒーもめっちゃ美味しい!
こちらは人間のスタッフさんたちが腕によりをかけて作ってくれております。人とロボットが協力してるんですな。
・ロボットのバリスタもいる
ちなみに、分身ロボットカフェにはなんとバリスタロボットもいて、曜日限定でコーヒーを淹れてくれるのだ! こちらは予約不要。
こちらのバリスタロボは「TELE-BARISTA(OriHimex NEXTAGE)」という名前で、川田テクノロジーズという会社と、オリィ研究所の共同開発。
NEXTAGE※の肩にOriHimeが載っていて、ぱっと見は幽遊白書の戸愚呂兄弟みたいなスタイルである……
パイロットはOriHimeから手元を確認しつつ、NEXTAGEを操作してコーヒーを淹れるので、熟練の技術が必要。
※「NEXTAGE」は、カワダロボティクス株式会社の登録商標です
お客さんに3種類の中から豆を選んでもらって、コーヒーを実際に淹れてくれるのだ。ちなみに、この日に選ばれた豆は「ソーシャルグッドブレンド」という、バランスタイプのコーヒー。
シザーハンズみたいな手で器用にフレンチプレスで淹れてくれる……!
実は難しいのがトレーを取ったり、紙コップを必要なだけ取る動作らしい。
この日は紙コップが一気に2枚取れてしまって、NEXTAGEが「ちがう!」と紙コップを捨ててしまうという1コマが。
ロボットなのに、謎にこだわりの職人感。陶芸家が納得のいかない作品を割って捨てるみたいな趣があって、めちゃくちゃ盛り上がった。
苦労の末、バリスタロボが淹れてくれたコーヒーは、すっきりと飲みやすくて、美味しかった!
・OriHimeパイロットのコーキさんに話を聞く
今回、私を接客してくれたコーキさんは、1991年、高校時代にプールの飛び込み事故で頸髄を損傷してしまい、首から下が動かなくなってしまったという。
8年前からOriHimeユーザーで、カフェで働き始めてからは4年。もともと、翻訳などの仕事を在宅でしていたけど、接客は初めてだそう。
障害を負った当時はまだバリアフリーという言葉も一般的ではなかった頃。最初は「社会のお荷物になってしまった」と感じて引きこもっていた……と話していて、その言葉に胸が痛んだ。
「介助をしてもらって最初はありがとうって言ってるんだけど、あんまりにも『ありがとう』『ありがとう』って言ってると、だんだんは申し訳なさから『ごめんなさい』に変わるんですよね」
——たしかに何かやるたびに人にお願いするのって、だんだん気が引けてきますよね。私も人にお願いするの苦手です……
「OriHime開発者のオリィさんはそれを『ありがとうを借金してる状態』と言ってました」
——借金! その例え、わかりやすいです
「でも、分身カフェで働いてると自分が『ありがとう』って言われる機会が増えて嬉しいですね。今までは言うばかりで言われることが少なかったから」
——なるほどー! ほかにOriHimeのパイロットになってから変化したこととかありますか?
「うーん、簡単に諦めなくなったことですかね」
——具体的にいうと、どういうことでしょう?
「たとえば人から何か誘われたとき、昔なら『無理だよ』って断ってたようなことも、人から協力してもらえないか、何かできる手段はないか考えてみるようになったんです。それでも無理なときはあるけど、チャレンジするのは無駄にはならないよなあと」
ちなみに、コーキさんは今ではオリンピックの聖歌ランナーをしたり、OriHimeを使って大学で講義をしたり、サミットで岸田元首相を案内したり……と、めちゃくちゃ活躍している。それが「簡単に諦めなくなった結果」なのかもしれない。
テクノロジーによって、みんなやりたいことができる社会ってまさに未来の世界である。私は「誰もが活躍するべき」だなんて思わないんだけど、社会と繋がったり、自分が役に立っている実感があるというのはすごく大事だと思う。
なんか真面目ちっくな話ばっかりになってきたけど、コーキさんが最後になぜか「ヘイ・ジュード」を歌ってくれたことを記しておく。ちなみにコーキさんはハードロックが好きらしい。もっと趣味の話とかすればよかったよ。
・不思議なコミュニケーション
開発者の吉藤オリィさんはOriHimeを「孤独の解消」のために作ったということだったが、たしかに「分身ロボットカフェ」には自然で温かいコミュニケーションがあったように思う。
たとえば私は店員さんが苦手なのだが、見た目がロボット……ということで、初対面の方でも話ができた。
バリスタロボの実演を見ている最中に、海外のお客さんと「どこから来たんですか」と会話もしたし、OriHimeとお客さんがいっしょになって、楽しいお店の雰囲気を作っているような、心地の良い一体感もあった。分身ロボットカフェが全国にある……なんて世界ができたらいいなあ。
ちなみに、分身ロボットカフェは
・カフェエリア(入場無料・OriHimeの接客を遠目に見ながら食事やドリンクが楽しめる)
・OriHimeエリア(大人1800円 子供4歳~11歳1000円・ワンドリンク込み・たまにOriHimeが接客してくれる)
・OriHimeダイナー(4400円・フード&ドリンク代込み・OriHimeががっつり席について接客してくれる ※要予約・2名から)
の3エリアに分かれている。
おすすめはOriHimeが席について接客してくれる4400円のOriHimeダイナーとのこと(私が今回体験したのもこのコース)。
お店はトイレも含めて完全にバリアフリー。事前相談でフードも嚥下食に対応できるようなので、みなさまぜひ行ってみてくださいませ! 予約なしでも入れますよ〜。
【今回紹介したお店】
名称:分身ロボットカフェ DAWN ver.β
住所:東京都中央区日本橋本町3-8-3 日本橋ライフサイエンスビルディング3(1F)
営業:11:00〜19:00
定休日:木曜日(祝日の場合は営業)
参考リンク:分身ロボットカフェ DAWN ver.β
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.