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本来あるべきものを引いたとは思えない満足度の塊のようなラーメン【福岡市箱崎・花山】

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工夫の末に行き着いたスープまで飲み干せる豚骨ラーメン

無化調麺をぼくなりのペースで追い求めていく本コラム[40歳からのやんわり無化調]。前回はコロナ禍の真っ只中、2021年に開業し、一躍人気店の仲間入りを果たした「ラーメン 普通」を紹介した。今回は屋台生まれのラーメンの話をしたい。

福岡のラーメンといえば、真っ先に頭に思い浮かぶのが、白い豚骨スープと細い麺。福岡生まれの豚骨ラーメンは、今や世界に知られるご当地ラーメンだ。そんな豚骨ラーメンの中にも、いわゆる“無化調”を謳う店がいくつか思い浮かぶ。ぼくが記憶する限り、その中でも最も長い歴史をもっているのが、福岡市東区箱崎にある「花山」だ。創業は1953年(昭和28年)。開業から優に半世紀を越えた老舗中の老舗である。

「元々、屋台やったんですよ。ほら、その名残が残っとるでしょ」と足元を指差す2代目店主の花田博之さん。デザイン的な演出でそう見せている“屋台風”の店ではなく、「花山」はれっきとした屋台だったのだ。その証拠がこの車輪。使い込まれた跡がしっかりと残っている。どうして現在の店になったのか。

花田さんは高校を卒業してすぐに飲食の世界に入った。その当時、福岡における屋台シーンにも活気があり、現在、「花山」が店を構えている筥崎宮の参道界隈にも7台ほどの屋台が連なっていたのだという。そのうちの一つが「花山」だった。後継者問題に直面し、一軒、また一軒と周りの屋台が継続できなくなっていく。そんなこの世から失われかけていた屋台を花田さんは引き継いでいったそうだ。最終的に「花山」は3台の屋台が連なるような感じになった。
ただ、そんな三連の屋台もどんどん老朽化し、いよいよ車輪にもガタがきた。動かせばすぐにでも壊れてしまいそうな状態となり、花田さんはその解決策を思案する。もちろん、屋台自体を新調するという選択肢もあったが、そうするにしても、ある程度のお金が掛かってしまう。どうせお金が掛かるのなら店舗にしよう────意を決して筥崎宮に土地を借してほしいと相談したところ快諾してもらったという。長年培ってきた信頼関係の成せる業だ。

「いやあ、本当に筥崎宮さんには感謝しかないばい。筥崎宮さんのおかげで今の花山がある。この地でしっかりお客様に喜んでいただき、筥崎宮さんに恩返しをしていきたいね。後継の息子にもそう言って聞かせとるよ」

トントン拍子に店舗化の話が進み、2018年8月に今の店が完成。外から見ると建物としての形ではあるが、実はこの新しい店舗には以前の屋台が丸ごと入っている。常連客にも「屋根、壁があっても、屋台の頃となんも変わらん」と言わしめる仕上がり。もちろん、名物の焼き鳥、おでんも健在で、軽く一杯という人から、締めにラーメンをというお客まで、連日、賑わいを見せている。

「花山」の名物・ラーメンにも、屋台の歴史と同様に、物語がある。初代が大正12年に屋台を開業した当初、実はラーメンではなく、うどんを出していたそうだ。確かにラーメンよりもうどんのほうが博多に根付いてからの歴史は長い。とはいえ、そのうどんには、仕入れではなく手打ちの麺を使っていたという力の入れよう。このうどん屋台はとても繁盛していたそうだが、今現在、店を構えている筥崎宮の参道へと屋台を移転してすぐに、うどんをやめてラーメンを提供することにしたという。「ちょうどその頃、豚骨ラーメンが流行っとってね。ちらほら、ラーメンを出す店が増えとったんよ。それで、うちもそのやってみることにしたんよね」と花田さんは教えてくれた。

やってみることにした、と花田さんはさらりと言うが、今日のようにラーメンのレシピ本もなければ、インターネットでレシピを検索することもできない時代だ。先行して提供していたラーメン店へ実際に食べに行き、あとは黙々と独学でラーメンを作り上げた。その情熱はラーメンが完成した後も失われることはなく、味の進化という形で、ずっと燃え続けていく。

「常々、食べるお客さんだけじゃなく、料理を作る私たちも元気になれるようにありたいって思っとってね。例えばさ、自分が『本当は出したくないな』って料理を、商売だから、儲かるからといって出すのはいかんやろ。やから、炭火焼きに使う塩も、自分たちで津屋崎の海水から自然塩を作って、それを振りかけるようになったしね。既製品をなるべく使わんように、燻製メニューも自家製にしたんよ」

ラーメンにおいてもずっと「どうすればもっと美味しくなるか」だけを考えてきた。うま味調味料を使わなくなったのは、花田さん自身にとっても、大きなターニングポイントだ。「全員やないんやけど、お客さんの中には『調子が悪くなる』『喉が渇く』という声があったんよね。それで使わんようにしたんやけど、使わんだけやと味が決まらんけん。味が薄いって言われるっちゃんね。やけん、豚骨の量を増やしたり、タレに出汁を効かせたり、いろいろと工夫したよ。そうやっていると、スープを飲み干してもらえることが増えたよね。やっぱり嬉しいよ」

丼の底が見えない、やや褐色を帯びた白濁スープは、見た目よりもずっと飲み口は軽い。口には旨味が広がり、すっきりと後を引く。本来あるべきものを引いたとは思えない満足度の塊のような一杯だ。気をてらうことなく、まっすぐに味で勝負する。そんな心意気も伝わってきた。

焼鳥、ラーメンを存分に堪能し、店の外に出ると、そこは筥崎宮の参道。ほろ酔い、満腹、気分は清らか。帰路はなんだか足取りも軽かった。

花山
福岡市東区箱崎1−44−17
090-3320-3293

山田祐一郎
1978年福岡県生まれ。2012年8月、「KIJI (キジ)」を設立し、同時に、日本で唯一(※本人調べ)のヌードルライターという肩書きで本格的に活動を開始する。これまでに飲食関連の専門誌、情報誌、ウェブマガジンなどで原稿を執筆。毎日新聞での麺コラム「つるつる道をゆく」をはじめ、連載実績多数。著書に「うどんのはなし 福岡」「ヌードルライター 秘蔵の一杯 福岡」。「1日1麺」をモットーに、美味しい麺との出会いを求め、近年では国内のみならず海外(イタリア、台湾、タイ)にも足を運んでいる。日々食した麺の記録はWEBマガジン「その一杯が食べたくて。」に掲載中。2019年9月から父の跡を継ぎ、製麺所「山田製麺」の代表も務め、麺づくりにも取り組む。http://ii-kiji.com/

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