2017年に新種記載!タツノオトシゴの仲間<ヒメタツ> 向かい合うと現れる「ハート」は海洋保全のシンボル?
「タツノオトシゴ」と聞いて、どのようなイメージを持ちますか?
「名前がかっこいい」「小さくてかわいい」「ほかの魚とはまったく違う形をしていて不思議」「漢方に利用されている」など、いろいろなイメージを持つのではないでしょうか。
そんな魅力の詰まったタツノオトシゴの仲間に、「ヒメタツ」という魚がいます。
ヒメタツとは?
ヒメタツ Hippocampus haema はトゲウオ目ヨウジウオ科に属するタツノオトシゴの仲間。2017年に新種記載された種類です。
新種記載されるまではタツノオトシゴと同一種と考えられていました。ヒメタツは同属のタツノオトシゴに比べ、頭部の突起が低いなどの特徴があります。
「ヒメ」と名の付くようにタツノオトシゴよりやや小柄で、最大体長も10センチ程度ほどしかありません。
ヒメタツはいつ、どこで出会える?
ヒメタツの生息地はやや限定的で、日本海や韓国海峡に生息しています。そのことから、学名のhaemaは韓国語でタツノオトシゴを指す言葉(해마、haema)からつけられました。
ヒメタツが生息する海に潜れば、全シーズンで観察することができます。しかし、繁殖期以外だと個々で生活しているので見つけるのが難しいかもしれません。
では繁殖期はいつなのでしょうか。
韓国のGeoje-Hansan湾(巨済島の南西から韓山島周辺にかけての湾や沿岸海域)で採集したヒメタツの個体に基づき、ヒメタツの生態を調査した文献Ecological Characteristics of the New Recorded Seahorse (Hippocampus haema) in Geoje-Hansan Bay, Korea(J. of Coastal Research, 85(sp1):351-355 (2018)では、幼魚が6月に初めて確認されたていることから、繁殖は6月以降、そして繁殖機関は他のタツノオトシゴ種と同じく約7カ月間と考えられています。
ただし、当然上記の繫殖シーズンには水温が関係しており、日本近海では時期が違う可能性があります。
ダイバーの間でヒメタツが見られる有名なスポットの話になると、熊本県水俣市の海が挙がることが多いです。熊本県水俣市では、1月から8月までの7カ月間がヒメタツの繁殖シーズンだといいます。
一方、筆者がよく潜っている日本海・山陰の海では、3月初旬から4月中旬に観察できます。
このように見られる時期は地方によって差があるため、各地のダイビングショップなどに問い合わせてみることをお勧めします。
タツノオトシゴの仲間はオスが子どもを産む
ヒメタツに限らず、タツノオトシゴの仲間はオスが子どもを産みます。タツノオトシゴはオスの腹部あたりに育児嚢という袋があり、メスはそこに卵を産み付けるのです。
このとき、2匹のヒメタツが向かい合って腹部同士を繋げます。そうすると吻の部分もくっついているように見え、ハート形のようになることから、その姿は「ヒメタツのハート」と呼ばれることも。
神秘的なその姿はダイバーの憧れだけでなく、熊本県水俣市においては、かつて工業排水で汚染されてしまった「水俣の海」の“再生のシンボル”として愛されています。
孵化をした稚魚を放出する「ハッチアウト」
ヒメタツに限らず、タツノオトシゴは「オスが子どもを産む魚」と呼ばれることがありますが、厳密にいえば“子どもを産んでいる”わけでなく、“育児嚢で孵化を待ち孵化をしたら稚魚を放出する”が正しいです。これを「ハッチアウト」と呼び、まるで出産しているように見えるわけです。
「ヒメタツのハート」も「ハッチアウト」も夜明け前に行われることから観察するのは大変難しいですが、筆者はこれらの姿・様子の写真をいつか写真・動画で記録したいと考えています。
珍しいカラーリングに出会えるかも
ヒメタツの魚の魅力はまだまだたくさんあります。
個体によっては、体色が黄色い物からオレンジ色っぽいものがいます。また、秋になると紅白カラーのヒメタツも出現するそうです。いつか、珍しいカラーリングのヒメタツも観察したいものです。
本種は基本的には水深10メートル前後の浅瀬に生息しているので、経験のない人でもダイビング体験などで簡単に発見することができます。
機会があれば、みなさんもぜひ「ヒメタツ」の観察にチャレンジしてみてください。小さくも強く生きる姿は心に強く残りますよ。
(サカナトライター:ポンた)
参考文献
タツノオトシゴ(ヒメタツ)は「水俣の海」再生のシンボル! 海を学ぶ体験教室を開催しました!-日本財団 海と日本PROJECT