不正受給は2倍納付のペナルティ!失業保険の受給についておさらい
こんにちは、FP(ファイナンシャルプランナー)の内山貴博です。今回は「失業保険」についてのお話です。
現在「働き方改革」で私たちを取り巻く仕事の環境は大きく変化しています。今後、転職や独立、あるいは副業など新しい働き方を模索する人も増えそうです。そんなときに知っておきたいのが失業保険です。今回は具体的に失業保険がどのような制度なのか、受給資格や条件、金額の計算方法まで詳しく紹介していきます。
1. 失業保険とは「失業というリスクに備えるための保険」
一般的に失業保険、または失業手当や失業給付という呼ばれ方をしていますが、正式には「求職者給付」といい、原則65歳未満の人で「求職者」つまり、失業をして勤務先を探している人が対象となります。まさに失業保険は「失業というリスクに備えるための保険」であり、失業期間中には一定の手当が支給されるほか、育児休業や介護休業、就業を支援するための教育訓練給付金制度などさまざまな制度があります。
筆者は以前会社勤めをしており、会社を退職後、FPとして独立しました。この場合「新たな転職先を探す」のではなく「独立して自分で仕事をする」という状況なので、「求職者」には該当せず、失業保険の対象にはなりませんでした。このように、失業保険の対象となる人とそうではない人など細かい条件が決まっていますので、以下1つひとつ確認します。
2. 失業保険の受給資格とは?
失業保険を受給するためには、まず雇用保険に加入している必要があります。雇用保険に加入する条件は以下です。
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・継続して31日以上雇用される見込みがある
よって、パート勤務でも上記条件を満たせば雇用保険に加入することとなり、失業した際は一定の失業保険を給付できる可能性があります。
雇用保険加入者は「雇用される側」であるため、個人事業主や法人の代表取締役は失業保険の対象とはなりません。また、先述したように、離職後に働く意思があり新たな職場を探すことも受給資格となります。よって定年退職の場合も、次なる職場を求めて活動することが受給資格の要件となります。
ただし、原則「離職日以前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上ある」ことが求められます。要するに、過去2年以内に1年以上正社員等で働いていたかどうか?ということが目安となります。自分都合ではなく、倒産や解雇など会社都合で失業した場合は「過去2年以内」が「1年以内」、「12カ月以上」が「6カ月以上」となり、条件期間が短くなります。
3. 失業保険の受給までの流れ、手続き方法
失業保険を受給するためには、離職後速やかに手続きを行ってください。以下のような流れで手続きを行います。
(1)離職後、公共職業安定所(ハローワーク)で求職の申し込み&離職票を提出する。
(2)「失業認定日」が指定され、受給資格者証が交付される。
(3)失業認定日に公共職業安定所に出向き、失業認定申告書に受給資格証を添えて提出し、仕事を紹介してもらう。
(4)4週間に1回ずつ失業の認定が行われ、その期間分、失業保険(基本手当)が支給される。
上記のように、仕事を紹介してもらいながら失業保険を受け取ることになります。「しばらく失業保険をもらえるから、今回紹介してもらった仕事は見送って、もう少しゆっくり探してみよう」という人も少なくありませんが、そうしているうちに機会を逃し、失業保険の給付期間が終わってしまうということもありますので注意してください。
なお、失業手当の受給期間を3分の1以上残して安定した職業に就いた場合は「再就職手当」がもらえます。「あと〇日受給できる」という考えではなく、「あと〇日しか受給できない」という意識を持ちたいものです。
4. 失業保険の金額と計算の仕方、給付期間
失業した際の基本手当(失業保険)の日額は、賃金日額に一定の割合(60歳未満は50%~80%、60歳~64歳は45%~80%)を掛けた額となります。通常、賃金日額が多いほど割合は小さくなり、賃金日額が低いほど割合は高くなります。以下の表は離職時の年齢が30歳から44歳までの場合ですが、賃金日額は原則として過去6カ月間に支払われた賃金の総額を180で割って計算します。つまり、おおよそ過去半年間の給与1日あたりの平均支給額ということになります。
また、賃金日額には上限があります。賃金がいくら高くても1日1万円を超えるような失業手当は給付することができません。「会社が倒産しそう」「そろそろ転職したい」など、会社を辞めることを意識した際は、事前に計算して1日あたりいくらぐらい失業保険を受け取ることが可能なのか、把握しておくとよいでしょう。
<基本手当日額の計算方法(離職時の年齢が30歳~44歳の場合)> ※厚労省職業安定局HP
賃金日額
給付率
基本手当日額
2480 円以上 4970 円未満
80%
1984 円~3975 円
4970 円以上 1万2210 円以下
80%~50%
3976 円~6105 円
1万2210 円超 1万4990 円以下
50%
6105 円~7495 円
1万4990 円(上限額)超
7495 円(上限額)
<基本手当日額の上限>
30歳未満
6750円
30歳以上45歳未満
7495円
45歳以上60歳未満
8250円
60歳以上65歳未満
7083円
失業保険の給付期間は、失業した時点での「算定基礎期間」つまり、雇用保険の加入期間と年齢によって異なります。また「自己都合」なのか「会社都合」なのかによっても異なります。自己都合とは自ら辞表を書き退職する場合です。一方、会社都合とは会社側の倒産や解雇が原因で離職した場合で、特定受給資格者ともいわれます。以下の表が最大受給期間をまとめたものです。
<自己都合・定年退職の場合の受給期間>
算定基礎期間
10年未満
10年以上20年未満
20年以上
全年齢
90日
120日
150日
<会社都合の場合の受給期間>
算定基礎
期間
1年未満
1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上20年未満
20年以上
30歳未満
90日
90日
120日
180日
-
30歳以上
35歳未満
120日
180日
210日
240日
35歳以上
45歳未満
150日
240日
270日
45歳以上
60歳未満
180日
240日
270日
330日
60歳以上
65歳未満
150日
180日
210日
240日
自己都合および定年退職の場合は、年齢問わず90日~150日となります。一方、会社都合の場合は最長期間は330日となり、おおよそ1年受給することが可能です。該当するのは45歳以上60歳未満で20年以上算定基礎期間がある人です。
「ちょうど働き盛りで子供の教育費もかかり、住宅ローンも抱えている。そんな中、長年勤務していた会社から急に解雇通告を受けた」。こういった人には最大限配慮したいということから、最長の受給期間となっています。
なお、自己都合(定年退職)や会社都合のいずれも、最初の受給資格決定日から7日間は待期期間となり、支給されません。また自己都合の場合(定年退職は除く)は、さらに最大3カ月間の給付制限期間があります。
ですから「辞めたらすぐに失業保険がもらえる」と安易に退職という選択肢を選ばないようにしてください。1日あたりいくらぐらいもらえるのか事前に計算しておくことも大切ですが、いつからどれくらい給付できるのかという期間もしっかりと把握しておいてください。
5. こんな場合失業保険はもらえる?
【画像出典元】「iStock.com/anyaberkut」
働く意思があるなど、一定の条件を満たした人が失業保険の給付を受けることができるのは、今まで見てきたとおりです。では、具体的に以下のような状況ではどうでしょうか?
5-1. 公共職業訓練を受けた場合には、すぐに失業保険がもらえる?
公共職業訓練とは、ハローワークで求職の申し込みをした離職者を対象に設置された、再就職を支援するための職業訓練学校です。自動車整備や介護サービスなど、職場で活躍できるためのスキルや知識を身に付けることができ、無料で受講することができます。
そしてこの職業訓練を受講している際は、失業保険の給付制限が解除されます。自己都合の場合は最大3カ月間、失業保険の受給が制限されますが、この制限が解除されるため「すぐに失業保険がもらえる」ということになります。
さらには受講中、受講手当や通学(通所)するための交通費にあたる通所手当がもらえるのも魅力的です。また長期間受講する場合は、一定の条件を満たせばその期間に応じて失業保険の受給期間も延長されるなど、まさに再就職をサポートしてくれる充実した内容となっています。
5-2. 失業保険受給中にアルバイトは可能?
失業保険はそもそも「安定した職業に就くための期間」一定の給付を受けることができる制度です。よって一時的なアルバイトなどであれば、失業保険を受給しながらでも働くことが可能です。自己都合の場合は受給制限期間もあり、その間、アルバイトで目先の生活資金だけでも稼ぎたいという考えを持つ人も多いでしょう。
ただし、そのアルバイトがどの程度の労働なのか?という点がポイントとなります。「一時的」といいながら長期間継続すると不正受給にもなりかねません。よって、アルバイトをする際は必ず事前にハローワークの担当者に申し出て、可能かどうか判断を委ねてください。
5-3. 家族の扶養に入ったら、失業保険は受給できる?
一番イメージしやすい事例は結婚です。ある女性が結婚を機に専業主婦となり、夫の扶養に入るとします。この際に失業保険を受給できるかどうか?ということですが、これは「専業主婦」になり、家事や育児を専業とする新たなポジションを見つけたこととなり、「求職者」とはみなされず、失業保険は原則受給できません。
ただし、健康保険の協会けんぽは以下のような定めがあります。
「被扶養者に該当する収入要件は、雇用保険等の受給者の場合、日額3611円以下であること」
つまり、失業保険の給付額が少ない場合は扶養に入ることも可能です。(健康保険組合等によって対応は異なりますので、事前にご確認ください)
6. 仕事を始めてからも失業保険をもらう「不正受給」に注意!
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失業保険を偽り、その他不正の行為で受給、または受給しようとした場合には、その時点で失業保険を受けることができなくなるほか、その返還を命ぜられます。さらには原則として、返還を命じた不正受給金額とは別に、直接不正の行為により支給を受けた額の2倍に相当する額以下の金額の納付を命ぜられることとなります。
不正受給の典型例は、「就職先が決まったにも関わらず、その旨を偽って受給を続けた」場合や、「自営を開始したのに、あたかも求職活動をしているように偽った」場合などです。
7. 自分の働き方に合わせて賢く失業保険を利用しよう
近年、60歳退職が65歳となり、そしてさらには「70歳以上も元気に働きましょう」という気運が高まっています。60歳から65歳に対して「高年齢雇用継続給付金」が支給されるなど、働くシニア世代をサポートするような制度も雇用保険には用意されています。
失業保険は、失業したとき、再就職のためスキルアップしたいとき、育児や介護に専念したいとき、そしてシニアになってからも働くときなど、さまざまなライフシーンで雇用者をサポートしてくれる制度です。ですから退職が決まったら、受給資格や条件、受給期間、計算方法をしっかり確認しておくようにしましょう。まさに「知らなきゃ損」する可能性があるので、これからのキャリアプランを描きながら、失業保険の理解に努めてください。