思い出の服まとう小さなクマが家族の力に― 軽井沢で生まれる奇跡 NBSフォーカス信州‶お形見ベア〟
思い出の服まとう小さなクマ…家族の力に
避暑地として知られる長野県軽井沢町。その静かな通りに、特別なテディベアを作る工房があります。そこで生まれるのは、ただのぬいぐるみではありません。亡くなった家族の服を着た「お形見ベア」。深い悲しみの中にいる人々に、新たな希望の光を灯す存在となっています。「祖母がいるわけじゃないんですけど、また会えたというか」。そう語るのはお形見ベアの製作を依頼した女性。声や表情には温かさがありました。
15年間で150体を送り出した職人の想い
「シマ・インターナショナル軽井沢ベアーズ」を営む島邑和之さん。もともとはスーツの仕立てを生業としていました。島邑さんがお形見ベアを手がけるようになったのは、2008年のこと。最初の依頼は「子どもを亡くした姉を元気づけたい、その子が着ていたワンピースをぬいぐるみにして贈りたい」というものでした。卒業した学校の制服など、記念の服を着せたテディベアを作ってきた島邑さんにとって、お形見のベアの注文は予想していなかったこと。しかし、依頼を受けた直前に自身も妹を病気で亡くし、父と母も早くに見送った経験もあり、引き受けました。以来、故人の服をリメイクしてクマのぬいぐるみに着せるお形見ベアは、全国から注文が舞い込むようになります。
お形見ベアの制作を本格化させたのは東日本大震災以降。「震災の影響で多くの方が亡くなられた。それを目にした時に、スーツの仕事は私じゃなくてもいい、でもこのリメイクベアの仕事は自分しかできない、と思いまして」。これまでに150体ほどのお形見ベアを全国に送り出してきました。
悲しみを力に変える不思議な存在
神奈川県川崎市の女性は、祖母のお形見ベアを依頼しました。「おばあちゃん子」だった自分の悲しみも大きかったのですが、一人だけの親を亡くした母も心配で、何か心の拠りどころになるものを残したいと考えたのです。ベアが来てから、祖母が本当にいるような気持ちに。そして生活にも変化をもたらしました。「ベアが来て気持ちが前向きになったので、今まで挑戦したかったけどできなかったことをやってみよう」と、英語の勉強を再開したのです。
群馬県伊勢崎市の夫婦は、交通事故により17歳で亡くなった娘の制服と部活のユニフォームでお形見ベアを作りました。卓球の県代表にも選ばれるなど、頑張っていたころの娘の姿を、小さなベアが再現しています。「ベアがいるだけで、娘がいつも一緒にいてくれている、っていう感じですね」。愛する娘が今も心の中に存在し続けることの証しとなっています。
広がるグリーフケアという支援の形
「グリーフケア」という言葉をご存知でしょうか。大切な人を失って深い悲しみを抱える人への「心の支援」を指す言葉です。阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大きな災害を機に、日本でも注目されるようになりました。
「亡くなった方との繋がりは、その人が存在しなくなった後も続いていく」。そう話すのはグリーフケア研究の第一人者、関西学院大学教授の坂口幸弘さんです。「お形見ベアもグリーフケアの役割を果たしているのでは」と評価しています。
横浜市の助産師の女性は、産婦人科医だった夫を重複がんで亡くしました。お形見ベアは「手術着」を着ています。発見が遅れることが少なくない重複がん。夫は早く気づけなかったことを悔やみ、重複がんの知識を広めることに力を入れていました。女性は、手術着のベアと暮らす中で、「悔しい想いをする人を減らしたい」という夫の想いを受け継ぐことにしました。患者にはより注意深く接し、気になることがあれば検査を受けてもらうよう、丁寧に伝えるようにしています。
小さなクマが紡ぎ出す家族の物語。ぜひ番組でご覧ください。
タイトル:NBSフォーカス信州 「いってくるね。~クマちゃんのグリーフケア~」
放送日時:9月26日(金)19:00~19:57
放送局:長野放送(地上波ローカル)
配信:TVer(1週間無料配信)、FOD(半年間有料配信)
制作著作:長野放送