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1日1つでも、「頑張れたこと」を作る|入江陵介がオリンピックに5大会挑戦できた理由

Sports

2024年4月、競泳界を文字通り引っ張ってきた背泳ぎの入江陵介さんが、パリオリンピック代表への挑戦を終え、引退を決めました。
ロンドンオリンピックでの銀メダル獲得に裏打ちされた実力と、努力を怠らない姿勢で多くの人を魅了してきた入江さんは、0歳から始め、34歳まで水泳を続けてきました。引退後、そこから少し離れ、“陸での活動”が増えてきた入江さん。そんな彼のこれまでの人生とこれからについてインタビューしました。

知らないうちに水泳の世界へ

ーー0歳から始められて、小学2年生のときから選手コース、高校生で日本代表入りし、18歳で北京オリンピック出場。そこからロンドンオリンピックでの銀メダル2個、銅メダル1個の獲得、その後も長く日本代表として活躍された入江さんですが、競技人生を振り返っていかがですか?

入江)兄弟の影響もあり、物心つく前からプールに入っていて、知らないうちに選手コースに入って、という形だったので、自分自身が「水泳やりたい!」と思って始めたわけではない水泳選手としての人生のスタートでした。自身を水泳選手として意識しだしたのは、高校の進学時に水泳を軸として進学先を考えたあたりからですかね。

“引退”を考えることもたくさんありましたが、この歳まで続けてこれたのは非常に価値があったなと終わってみて感じています。オリンピックで金メダルを獲ることはできませんでしたが、メダリストになれたことも喜ばしいことですし、最後の最後まで戦い抜けたことは素直によかったなと思う競技人生でした。

ーー引退を決められた理由を教えてください。

入江)もともと、パリオリンピックに出場して引退しようと考えていたのですが、パリへの願いはかなわなかったので、その段階で引退を決めました。

ーーパリを目指すという時点で区切りとして考えていたのですね。

入江)そうですね。もともとは東京オリンピックを大きな区切りとして考えていましたが、新型コロナウイルス感染拡大による延期や無観客での開催だったということもあり、「もう一度オリンピックへ」という想いもあってパリを目指していました。

写真提供:イトマンスイミングスクール

入江)2012年のロンドンオリンピックでの、銀メダル2つ、銅メダル1つ、合計3つのメダル獲得は、自分の人生にとって非常に大きな出来事でしたね。1人の競技者として、オリンピックのメダリストになれたということはとても嬉しいことですし、オリンピックのメダルはどこに持っていっても喜んでいただけるので。

一方で、悔しい部分としてはそのオリンピックで“金メダル”が獲れなかったことですね。ロンドンオリンピック以降、メダルは遠のいて決勝に残るのが精いっぱいというところもありましたし、そうした苦しさは競技人生の最後の最後までありました。なかなか成績を伸ばせなかったという意味では苦しさを感じていましたね。

4年ごとの目標の立て方「金メダルを目指すだけがすべてではない」

ーー入江さんのような選手は、オリンピックの4年周期でさまざまなプランを立てながら取り組まれて来たのだと思います。すべての大会で“金メダル”というところを目標にしながら強化のプランを立てたり、そこに向けて努力していたのでしょうか?

入江)銀メダルを獲得したロンドンオリンピックのあと、4年後のリオデジャネイロオリンピックに向けては明確に“金メダル”を目指して取り組みました。結果的に、リオでは入賞という結果に終わってしまい、悔しさも大きくて、引退も本気で考えました。

次の東京オリンピックに向けては、メダルを狙うために練習拠点を海外に移したり、さまざまな取り組みを行いましたが、それだけでなく、招致活動にも関わった大会、日本の方に多く見ていただける大会に出場したいという想いもありました。

続いてのパリに向けては、まわりから引き留めてもらったということもありますが、日本の背泳ぎ界がまだまだしたが育っていない状況で、自分が引退してしまったら日本代表として世界の舞台に出る選手がいなくなってしまう状況にも危機感を覚え、背泳ぎ界を引っ張り、日本の競泳界をもっとよくしたいという想いを強く持ちながらパリに向けて臨んでいました。
もちろんメダルを目指しながらも、現実的に厳しい部分は自分でも感じていたこともあり、自分自身の取り組みをたくさんの人に見てもらって、競泳界に貢献したいという想いの割合が強くなっていましたね。

ーー入江さんが、長年日本、そして世界のトップクラスで居続けられた理由をお伺いしたいです。とくに水泳のような個人競技では、努力を積み重ねていくことがとても大事です。その過程で入江さんが意識していたことはどんなことですか?

入江)常に100点を目指すのではなく、「その日に自分が持てる力を出す」ことに集中していました。毎日100点で頑張ることって、人間は絶対できないと思うんです。体調のこともありますし。その中でも、1日の中でどこか頑張るポイントを作り、そこに集中して取り組むようにしていました。

練習が終わって1日が終わるときに、「今日は全然ダメだったな」と思って終わるのではなく、「ここのポイントは頑張れた」と胸を張って言える1日を過ごしてきたつもりです。

写真提供:イトマンスイミングスクール

「引退をたくさん考えた」ときに見えていたもの

ーー入江さんはリオオリンピック後、東京オリンピック後など、引退を考えたタイミングも多くあったと伺いました。

入江)リオのあとは、目指してきた金メダルに届かなかった、アスリートとしての悔しさだけで引退しようと考えていました。次になにをやりたいなどは考えず、ただ競泳から離れたいという想いでしたね。
東京オリンピック後は、辞めたいとは思いながらも、コロナ禍でスポーツが下火になっている状況への危機感や寂しさのようなものもあり、悩んだ末に現役続行することにしました。でも、そのときに引退後にやりたいものが明確に見えていたら、辞めていた可能性があったと思いますね。

ーー実際に2024年に引退を決めた際には、どのようなことを考えていたのでしょうか?

入江)パリへのチャレンジが年齢的にも最後だと思っていましたし、30代半ばになって自分自身の経験がいかに水泳界のためになるかという考えも持つようになっていました。以前と同様、何をやりたいかというものは明確ではありませんでしたが、よりスポーツを“伝える”ことや“広める”ことをできる立場になりたいという想いが強くなっていましたね。

人のイキイキした姿を見ることの喜び

ーー引退を発表されたのち、水泳教室などいろいろな活動をされてきていると思います。

入江)水泳教室などのスポーツ教室は大きな都市で開催されることが多いので、機会の少ない地方にも今後も積極的に行きたいなと思っています。プール自体は全国どこにでもあると思うので、活動を通してスポーツを身近に、水泳を身近に感じてもらえる活動もしていきたいなと思います。

教室では自分自身がエネルギーをいただくことも多いですし、本当にいろいろな人が喜んで、イキイキとしてくれる姿を見ることができます。「誰かの活力になれたんだな」と思えるその瞬間にはすごくやりがいも感じますし、自分が誰かのパワーになれることは、それに越したことはないと思うほど嬉しいです。なので、今後もなかなか出会うことのない人たちに会いに、地方にもどんどん出向いていけたらと思っています。

写真提供:イトマンスイミングスクール

ーー水泳には、選手を目指す人や健康のために通う人、水難事故防止のために習うなど、さまざまな目的をもって取り組む人がいますよね。

入江)目的はさまざまな方がいらっしゃいますが、水泳を通じて、体を使えるだけでなく、心のリラックスを得られたり、人とのコミュニケーションも増えていくものだと思っています。一人で泳ぐスポーツですが、一緒に練習するチームでのコミュニケーションやイベントでのたくさんの人との交流など、そうしたプラスアルファの価値も大事な要素です。僕自身も幼少期から水泳を通じてたくさんの出会いがあり、海外の選手との繋がりなど非常に多くのことを学ぶことができました。

ーーこれからの入江さんが目指すものを教えてください。

入江)大きな先の目標としては、スポーツ界になにかいい影響を与えられるような存在になっていきたいと思っています。スポーツは、時代が進むにつれ、前に進んでいかなければならないものだと思うので、よりよい道、活動の幅を広げるようなことに貢献できれば嬉しいです。

最近もバスケットボールやバレーボールがファンも増えて盛り上がっていますし、オリンピックを経て新しいたくさんのスポーツが注目を浴びています。4年後はどんなスポーツが人気になっているかもわからない、そうしたワクワク感も秘めているのがスポーツだと思います。まだまだ観に行ったことのない競技もどんどん観に行きたいですね!

ーーありがとうございました。

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