“琉球ゴールデンキングスの象徴”岸本隆一が語る「三冠への決意」と「選手としての未来」
Bリーグの琉球ゴールデンキングスは、3月7日に東アジアスーパーリーグ(EASL)の準決勝・9日に決勝(準決勝で敗れた場合は3位決定戦)に挑む。そのわずか6日後には天皇杯の決勝戦(15日)が控えている。東アジアの頂点へ、そして天皇杯優勝へと突き進むキングス。キングスの象徴としてチームを牽引し続けるフランチャイズプレーヤー岸本隆一に三冠への決意を聞いた。
「高校時代からプロを意識」「難病との戦い」
「自分が将来どうなりたいかというのはあまり考えていませんでした。今こうやって同じチームでずっとプレーできているという事は想像もつかなかったですね」
岸本隆一34歳。キングス一筋13シーズン目。言わずと知れたキングスの象徴だ。 振り返れば、北中城高校時代に県大会で驚異の1試合83得点を記録。全国インターハイでも活躍し県の内外にその名を轟かせた。岸本が全国の舞台で輝いていたのと時を同じくして、2007年琉球ゴールデンキングスが誕生した。 「高校時代からプロチームに入りたいという気持ちはありました。高校生の時にキングスができて、何度か試合も見に行って、このチームでプレーできたら幸せなのかもしれないなというのは何となく思っていましたね」 高校時代からの想いを形に変えて、常に中心に立ってキングスを引っ張ってきた。 Bリーグ開幕当初“雑草”と呼ばれたキングスは、今では3シーズン連続でチャンピオンシップファイナルに進出するなどBリーグを代表するクラブへと成長を遂げた。クラブの成長とともに岸本の心にも変化があった。 「Bリーグ初年度から2,3年くらいは、悔しい気持ちになることが多かったかなという感覚ですかね。ただそこから“受け入れる力”が少しずつ身に付いてきたと思います。それまでは受け入れられない事に対してフラストレーションが溜まっていたんですが、“臨まないことも受け入れて自分に何ができるのか”ということを客観的に考えられるようになってからは自分の中で核になるものを持ちながらプレーできていると思います」 受け入れらないこと。これはバスケに限った話ではない。 2020年、「潰瘍性大腸炎」と診断された。 大腸の炎症から腹痛や下痢、血便などに悩まされる難病だ。 「診断された時はもちろん沈んだんですけど、今振り返れば自分がどうあるべきかを考えるキッカケになったと思っていて、自分にとってすごく大きな出来事だったかなと思います。良い意味で。良い意味にしていますねもはや。笑」 「最初の1年くらいは、今までできていたこと、今まで制限していなかったことに対して、少なからず制限をかけなくてはいけない。特に食べる物や習慣ですよね。あの時はこんな風にできたのにと思うことはあったんですけど、むしろそれに対して諦めがついたのが良かったかなと思っていて。悪く言えばすごいドライになったと思います。笑」 「ただ現実を受け入れて何ができるのかを考えられるようになったのはその出来事がキッカケかなと思っているので。キッカケにしたかったですよね、むしろ自分の中で。ポジティブになれないときもあるんですけど、そういう時ですらもその状況を受け入れて。自暴自棄になることももちろんあるんですけど。みんなそうじゃないですか。みんなと一緒ですよ」
「バスケが上手くなりたい」「老いへの準備はしている」
2023年には悲願のBリーグ初制覇も達成。プロとして酸いも甘いも経験してきた今の岸本のモチベーションは何なのか。 「答えはシンプルで、バスケットが上手くなりたいという気持ちです。年々何をもって上手さなのかという気づきも増えています。今までなんとも思わなかった一つのプレーが、“技術だな”と思うことも増えました。その中で優勝を争うこと、優勝に必要な選手であり続けることが僕にとってのモチベーションです」 今季もここまで日本人選手ではチームトップの得点力を誇る岸本。先月、日本代表経験も豊富なサンロッカーズ渋谷のベンドラメ礼生選手に話を聞く機会があったのだが、「岸本選手はBリーグで一番キレのある選手だと思う」と評していた。 チーム最年長の34歳。毎シーズン進化を続けるという事はもちろん容易ではない。 「なんとなく自分の中で、“老い”に対しての準備はしているんですよ。今持っている能力は活かしますけど、こういう風に動いたら相手がこういうリアクションをするというのも、同じくらい学んでそれを実践しています。このサイズで戦ってきた経験値を上手く活かそうという段階に今は居ると思います。良い具合に力を抜いて自分の良さを残していく作業ですね」 パフォーマンスを落とさないために、フィジカルトレーニングにも余念がない。 「やらないと若手に追いつけないのでもう必死ですよ。笑」と笑顔も見せる岸本だが、 常に頭には“チームの勝利に繋がる自分でありたい”という気持ちがある。 「明日にでもキャリアに響くような怪我をする可能性だってあります。どういった事が起きてもチームに必要とされる選手でいるための準備はしているつもりなので。それが今は活きているんですかね」
「勝ち続けなくてはいけない」「沢山の人に良い影響を与えたい」
プロとして13シーズン目を迎えた岸本。岸本にはバスケットボールプレイヤーとしての二つの信条がある。 「一つは勝ち続けるという事です。勝ち続けなくてはいけないというのは毎年思っています。勝とうとしない限り見ている人に何かを感じ取ってもらうのは難しいと思うので」 「もう一つは心を込めてプレーするという事です。心を込めてプレーすることで見ている人に何かを感じてもらうというのは、自分たちがお金を貰ってプレーしている以上絶対に必要な事だと思うので、この二つを意識して自分なりにプレーしています」 何かを感じ取ってもらいたい。そのためにもタイトルは大きな意味を持つ。 「EASLも天皇杯も獲った事のないタイトルですし絶対に獲りたいと思っています。タイトルを獲る事によって、沢山の人に良い影響を与えられるというのは一度Bリーグで優勝したときから思っていたので。自分たちが積み重ねてきたことを実感できる部分でもあると思います。紐解けばレギュラーシーズン一つ一つの戦い方だと思いますし、そういったものが繋がってタイトルが獲れて、今まで手が届かなった範囲の人たちにも価値を広げられるチャンスだと思っています」 前人未踏の三冠へ。 琉球の歴史を紡いできた岸本が、新たな一ページを刻み込む。
取材・撮影・執筆 植草凜(沖縄テレビアナウンサー)