第1期アリス最後のアルバム「ALICE IX 謀反」グラサン姿の3人もただごとではない!
高いクオリティとダイナミズムを持った独自の音楽性を確立させたアリス
アリスは「今はもうだれも」(1975年)に続いて、「帰らざる日々」(1976年)、「冬の稲妻」(1977年)、「涙の誓い」「ジョニーの子守唄」「チャンピオン」(1978年)とヒット曲を連発する。アルバムも『ALICE Ⅵ』(1978年)から『ALICE Ⅷ』(1980年)までを連続してチャート1位に送り込むなど、トップアーティストにふさわしい実績を残していく。
もともとライブバンドとして定評があるアリスは、早くからライブアルバムを発表していたが、『ALICE Ⅴ』以降はスタジオアルバムとライブアルバムを交互に発表していくスタイルをとっていく。ライブで鍛えた表現のスキルと演奏の臨場感をレコーディングに反映させ、レコーディングで試みたチャレンジをステージでさらに “育てていく” というサイクルだ。
アリスは、ライブとレコーディングのリンクによって、高いクオリティとダイナミズムを持った独自の音楽性を確立させ、それをさらに進化させていった。アルバム『ALICE Ⅵ』(1978年)、『ALICE Ⅶ』(1979年)からはそんなアリスの充実ぶりを感じることができる。
「ALICE Ⅵ」「ALICE Ⅶ」に感じる懐の深い魅力
『ALICE Ⅵ』には「冬の稲妻」「涙の誓い」、『ALICE Ⅶ』には彼らにとって初のチャート1位獲得曲である「チャンピオン」といった、誰もが “アリスらしさ” を感じられる “看板曲” が収録されていて、これらの曲がアルバムの “売り” になっていることは間違いないだろう。
しかし、他の収録曲は一般的にイメージする “アリスらしさ” はそれほど感じられないものが多い。リスナーのアリスらしさへの期待はシングル曲に委ねて、その他の曲では、アリスの新しい音楽表現の可能性を探ろうとしているように感じられる。
『ALICE Ⅵ』『ALICE Ⅶ』が大ヒットしたのは、リスナーの期待に応える部分と、アリスの振り幅を広げていく部分とが高いレベルでバランスを保っていることも大きかったのではないか。これらのアルバムを聴くと、ファンとしての期待を満足させてもらいながら、同時に未知の魅力をも感じさせてくれるという懐の深い魅力を感じるのだ。
新たな時代に向かうスタンスを示した「ALICE Ⅷ」
しかし1980年に大きな転機が訪れる。アリスはそれまで在籍していたレコード会社(東芝EMI)を離れ、所属事務所の社長(細川健)が設立したばかりのポリスターに移籍したのだ。
背景には、新興のレコード会社にビッグネームのアーティストが欲しいという事情があったに違いない。けれど、同時にアリスの方にも新たなきっかけとなる変化が欲しい時期でもあったのではないかと思う。
アリスがブレイクしたことによってメンバーのソロ活動にも注目が集まっていた。1978年には堀内孝雄がソロで「君のひとみは10000ボルト」をヒットさせており、同じ年に谷村新司も山口百恵の「いい日旅立ち」の作家として脚光を浴びる他、ソロ活動も積極的に行っていた。
『ALICE Ⅷ』はアリスのアルバムのイメージを大きく変える作品だった。とくに耳に残るのが、サンバの「ラ・カルナバル」、サルサの「メシア-救世主-」といった本格的なラテンリズム曲と、しっとりしたバラード曲との対比だ。さらに服部克久が手掛けた華麗なストリングスの響きなど、全体に大人びたアルバムに仕上がっている。『ALICE Ⅷ』は、30代の大人となったアリスが、1980年代という新たな時代に向かうスタンスを示したアルバムだったという気がする。
アリスとしての活動に休符を打つために制作された「ALICE Ⅸ 謀反」
『ALICE Ⅸ 謀反』は1981年7月に発表された第1期アリス最後のアルバムだ。そして、このアルバムは前作以上の変化を感じさせる作品なのだ。
アリスがオリジナルアルバムのタイトルにグループ名と数字以外の文字を入れたのも初めてならば、オリジナルアルバムのジャケットにメンバーの写真を使うのも初めてのことだ。しかも、それが “謀反" という物騒な言葉であり、サングラス姿の3人の顔のアップというのもただ事ではない。
もちろんそれは偶然ではない。すでにこの年の5月にアリスがグループ活動を停止することは発表されていた。原因は、メンバーのソロ活動や作家活動などが盛んになることで、アリスとしてのバランスが崩れてしまい、修復が難しくなったことだったが、“活動停止 “という表現は、実体は解散であっても将来の活動再開の可能性は残しておきたいという意思を示すものでもあった。ともあれ『ALICE Ⅸ 謀反』はここまでのアリスとしての活動に休符を打つための作品として制作されたのだ。
ほぼ全体の編曲を手がけた難波正司
『ALICE Ⅸ 謀反』の大きな特徴は、アルバムのほぼ全体の編曲を難波正司が手掛けていることだ。難波正司は、70年代後半にサザンロック指向のバンドとして名をはせていた、アイドルワイルド・サウスのメンバーだったキーボード奏者で、桑名正博のバンドに参加したこともあった。
難波正司はこのアルバムだけでなく、8月に行われた後楽園球場コンサートの編曲も担当している。こうした流れを見ると、アリスは活動停止を前に、関西にルーツを持つロックバンドとしてのアリスというビジョンがありえたことを示しておきたかったのかもしれない。
なにしろ1曲目に置かれている「WELCOME」が、難波正司の作詞・作曲によるほぼインストゥルメンタルのフュージョンナンバーだということにも意表を突かれる。しかもこの曲の編曲を担当しているのは難波自身ではなく矢沢透なのだ。この曲が最初に置かれていることに、ここまでアリスが持ってきたサウンドへのこだわりが、リスナーにそれほど注目されてはこなかったことへの想いが込められているのではないか、そんな想像もしたくなってしまう。
続く「LIBRA-右の心と左の心-」は、リスナーがイメージするアリスらしい曲だ。しかしここでも違いを感じるのだ。ダイナミックな迫力はあるのだが、これまでのアリスのヒット曲の特長でもあった重量感が希薄だ。低音を抑えてスピード感を増すことで、ずっしりとした聴きごたえの代わりに軽快でシャープな感触を感じられる曲になっているのだ。
さらに「荒ぶる魂-Soul on Burning Ice-」のロックテイストや「SILENT MAN-静かなる男-」のフォークテイストなど、これまでのアリスの楽曲にもあった音楽性も、よりストレートにルーツサウンドのニュアンスを感じられるものになっている。その意味でこのアルバムでは、それまで意識してきた日本のリスナーにとっての親しみやすさより、自分たちが表現したいイメージにより近いサウンドに仕上げているのではないかと思う。
それは編曲だけではない。「MOON SHADOW」の英語を多用した歌詞などにも同じことが言えるのではないか。歌詞でとくに印象的なのがアルバムの最後に置かれた「風は風-Windy or Breezy-」だ。この歌詞は、まさにアリスからリスナーへの万感の思いを込めた “決別の辞” だ。もしかしたら、このアルバムはこの曲のためにあるとさえいえるのではないかと思う。
メンバーそれぞれが次のステップで行う表現の可能性を暗示
このアルバムを出した後、アリスは1987年までの活動停止に入る。改めて『ALICE Ⅸ 謀反』を聴き直すと、このアルバムはアリスの足跡を回顧するための作品ではなく、アリスが悔いなく活動停止に入れるように、それまでの活動の中で必ずしも十分には表現しきれなかった音楽の可能性を示すとともに、メンバーそれぞれが次のステップで行う表現の可能性を暗示する作品だったのではないか。
今回の『ALICE Ⅸ 謀反』の再発盤では、シングルとしてアルバムと同時発売された「エスピオナージ」のカップリング曲「GUILTY&PENALTY(罪と罰)」がボーナストラックとして収録されている。
アルバム『ALICE IX -謀反- +1』収録曲
01. WELCOME (作詞:難波正司&Tomy/作曲:難波正司)
02. LIBRA(作詞作曲:谷村新司 )
03. 荒ぶる魂(Soul on Burning Ice)(作詞:矢沢透 / 作曲:堀内孝雄)
04. SILENT MAN -静かなる男- (作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
05. MOON SHADOW(作詞作曲:谷村新司)
06. ハドソン河 (作詞作曲:谷村新司)
07. マリー・ダーリン 作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
08. I.C. WORLD (作詞:谷村新司 / 作曲:矢沢透)
09. CAT IN THE RAIN(作詞:谷村新司 / 作曲:矢沢透)
10. エスピオナージ(作詞作曲:谷村新司 )
11.風は風 (作詞作曲:谷村新司 )
[Bonus Track]
12.GUILTY&PENALTY(罪と罰)(作詞:谷村新司 / 作曲:矢沢透)
シングル「エスピオナージ」カップリング曲 アルバム未収録
Information
谷村新司追悼企画
アリス 追悼コンサート決定!
アリスコンサート2024
ALICE FOREVER 〜アリガトウ〜
▶︎ 東京 / 日本武道館
9月18日(水)19:00開演(予定)
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799
▶︎ 大阪 / 大阪城ホール
10月13日(日)17:00開演(予定)
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888
▶︎ 出演:谷村新司(音声/映像)、堀内孝雄、矢沢透
▶︎ 全席指定:¥11000(税込)*未就学児童入場不可
▶︎ アリス公式サイト
https://alice1972.com/