HEMSとは?エネルギーを見える化・最適化する住宅と今後の動き
HEMSとは、消費者自らが住宅のエネルギーを管理し、節電に取り組みやすくするためのシステムのこと。家づくりにおいて省エネや節電は大きなテーマであり、光熱費をできるかぎり減らせる家や仕組みに関心がある人も多いでしょう。 しかし、HEMSという言葉をはじめて聞いた、名前は知っているけど内容はよくわからないという人もいるかと思います。 今後の動きも期待されるHEMSについて、一緒に学んでいきましょう。
そもそもHEMSとは?
HEMSとは、Home Energy Management System(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の略です。その名の通り、家庭で使うエネルギーを管理するシステムを指します。 似た言葉にBEMS(Building and Energy Management System)がありますが、BEMSはビルなど建物のエネルギー管理システムのことをいいます。 ここではHEMSに関する基本的な概要を解説していきます。
HEMSは政府が推し進めるエネルギー管理システムのこと
家庭で使うエネルギーを一元管理できるHEMS。政府は平成24年の「グリーン政策大綱」で、2030年までに全戸にHEMSを設置することを目指すと発表しています。 しかし、HEMSを使用している世帯の割合は2013年の調査では0.3%、2017年では2.0%にとどまっているのが実状です。住宅別にみると、戸建てに住む世帯では2.9%、集合住宅に住む世帯では1.0%。HEMSの普及にはまだ時間がかかると考えられます。
HEMSはなぜ政府に推進されている?
HEMSが政府に推進されている理由は、節電効果や省エネルギー化を期待しているためです。政府は2030年までに温室効果ガスを46%削減するという目標を掲げて動いており、そういった動きの一環として推し進められているのがHEMSなのです。 また政府は2011年の東日本大震災時に電力が大幅に不足したことを受け、エネルギーをあまり使わない省エネ住宅の普及に乗り出しました。家庭の電力をコントロールするHEMSを活用することで、住宅の省エネルギー化が大いに期待されるのです。
HEMSにはスマートメーターが必要
スマートメーターとは、情報通信機能を持った電力メーターのことです。以前は電力メーターを各電力会社の検針員が確認して電気代を調べていましたが、スマートメーカーを導入することで消費電力量を電力会社が直接把握できます。 スマートメーターの普及で人の手を借りずに消費電力量を把握できるだけでなく、将来的なHEMS導入にもつながります。
HEMS導入でどのような効果が得られる?
では、実際にHEMSを導入することでどのような効果が得られるのでしょうか。ここではHEMS導入の効果を2つご紹介します。
HEMS導入で得られるポイント①エネルギーの「見える化」
HEMSを導入すると、スマホやタブレットのモニター画面などで家庭の電力使用量を数値化し、リアルタイムで把握できます。太陽光発電設備と連携させることで、使った量だけでなく、発電量も確認することが可能です。 また、電力だけでなくガスの使用量や水道使用量も見える化できます。 これまで月単位の検針でざっくりとしか把握できなかった家庭のエネルギー使用量を、時間や日別、月別、機器別に表示することができるのです。
HEMS導入で得られるポイント②エネルギーの「一元管理」
HEMSの導入で重要なポイントは、見える化によってエネルギーを把握するだけでなく、自ら管理することにあります。 HEMSによって電気やガス、水道の機器類をネットワーク化することで、それらの稼働状況を一元管理できます。家電や機器それぞれの操作パネル、リモコンのほか、スマホやタブレット端末、パソコンからの遠隔操作も可能です。設定によってエネルギーの使用状況を自動的に制御することもできます。
HEMSに関する政府の方針と普及状況
政府は平成24年の「グリーン政策大綱」で、2030年までに全戸にHEMSを設置することを目指すと発表しています。 しかし、HEMSを使用している世帯の割合は2013年の調査では0.3%、2017年では2.0%にとどまっているのが実状です。住宅別にみると、戸建てに住む世帯では2.9%、集合住宅に住む世帯では1.0%。HEMSの普及にはまだ時間がかかると考えられます。
HEMSを導入するメリットは?
住まいのエネルギーを見える化できるHEMSですが、導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか。 HEMS導入のメリットをお聞きしました。
意識的に節電できる
HEMSを導入すると、通信機能付きのスマートメーターで30分ごとに計測された電力使用量を、スマホやパソコンで確認できます。家庭の電力消費の仕方や無駄遣いを把握できるため、目標を立てて節電に取り組みやすい点が特徴です。 また、HEMSは新築住宅だけでなく既存住宅や集合住宅にも導入できます。太陽光発電設備の導入が難しい集合住宅や中古住宅でも、HEMSを導入して使用エネルギーを管理すれば、かしこく省エネ・節電ができるでしょう。
家電や機器類を自動制御できる
HEMSに対応する家電や機器類をネットワーク化し、設定しておくことで、電気機器の自動制御が可能です。たとえば、帰宅時に下げたエアコンの温度を運転開始30分後には自動的に省エネ温度に戻すなど、快適さを保ちながら電気使用量を抑えられます。 また、あらかじめ設定した使用電力量を超えると、自動的に優先順位の低い家電をコントロールして使用量を抑えるなど、エネルギーの使用量を最適な状態に保てます。
家電や機器類を遠隔操作できる
家電や機器類のネットワーク化によって、スマホの操作画面から帰宅時間に合わせてエアコンを入れたり、給湯を開始したりするなど、家電の遠隔操作が可能です。HEMSによって、日々の暮らしや住環境の快適さをアップすることができます。 そのほか外出時のスイッチの切り忘れも遠隔操作で対処できる点が魅力。エアコンを切り忘れて電気使用量や料金がはねあがってしまうといった失敗を防げます。
HEMSを導入するデメリットは?
節電効果があるほか、家電の遠隔操作も可能なHEMSですが、導入にはデメリットも。HEMS導入のデメリットについて解説します。
認知度が低く、設置事例があまりない
HEMSそのものがあまり知られておらず、設置事例が少ないのが現状です。導入を検討するときに参考になる実証結果、口コミなどの情報が見つかりにくく、HEMSが自分に必要な設備かどうか判断に迷う人も多いでしょう。 同じ省エネ関連でも、ZEHなどと比べて認知度や普及率の低さが目立ちます。普及に向けて、政府や関連企業はわかりやすく興味を引く広報努力が、一方消費者は今後の動きに注目する努力が必要です。
導入時にコストがかかる
HEMSを導入するにあたり、設備や機器類の設置・工事が必要です。家の種類や導入する機器、工事内容によって変わりますが、初期費用は平均で10~30万円ほどかかるといわれています。 設置事例がまだ少ないため、コストバランスや導入費用回収までにどのくらいかかるかわかりにくいのもデメリットの一つです。気になる人は、工務店やハウスメーカーに導入費用や設置事例の有無を問い合わせてみましょう。
HEMSに対応する機器がまだ少ない
HEMSと連携できるのは、経済産業省が推奨するECHONETLite(エコーネットライト)という通信規格に対応している家電や機器類だけで、まだ少ないのが現状です。そのため、ECHONETLite対応機器や家電を持っていない場合は、HEMS導入時に買い替える必要があります。 政府は2030年までにHEMSの全戸導入という目標を掲げているため、今後、対応する機器の種類は増えていくとみられています。
HEMSの導入に使える補助金は?
HEMSは導入コストがかかるため、補助金の有無が気になる人もいるでしょう。HEMSを導入することで受けられる補助金制度や減税制度などはあるのでしょうか。
HEMS導入についての補助金の動きはない
HEMS単体の補助金は平成23年と平成25年に交付されましたが、それ以降は募集されていません。HEMSの今後の動きが注目される中で補助金の再開も期待されますが、2022年現在ではまだその動きは確認できていません。
ZEH住宅の補助金制度を活用するのも〇
HEMS単体での補助金はありませんが、ZEH住宅には補助金制度があり、HEMSを導入する費用も対象となります。 令和4年度も「戸建てネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業」が予定されているので、気になる人は工務店やハウスメーカーに問い合わせてみましょう。
HEMSの普及について今後の見通しは?
政府の掲げた目標に対してなかなか普及が進まなかったHEMSですが、住宅や省エネ事情の進展が追い風になり、普及が進む可能性もあります。今後のHEMS普及に関わる2つのポイントに注目してみましょう。
HEMSの基盤となるIoT環境の進展
近年、特にここ数年のインターネットと家庭内LAN、Wi-Fi対応機器の急速な普及はめざましいものがあります。HEMSを知らなくても、スマートホームに関心を持っている人や実際に導入している人は多いでしょう。 IoT環境の進展と充実によって、家庭へのHEMS導入の基盤や周辺環境も整ってきました。また、これまでわかりづらいといわれていたHEMSのネットワーク化や管理方法も、より身近になっていくでしょう。
ZEH住宅への導入
HEMSはZEH住宅(ゼッチ:ゼロ・エネルギー・ハウス)におけるエネルギー計測装置として標準装備が進められています。 ZEHとは、断熱性のほか住宅全体の省エネ性能を上げ、太陽光発電や蓄電などを組み合わせることで、年間でつくるエネルギーが使用エネルギーを上回ることを目指した省エネ住宅のこと。 政府は2030年までに新築住宅の平均でZEH住宅の実現を目指すという目標を掲げて、ZEHの普及推進に取り組んでいます。 ZEH住宅は認知度や注目度も高く、HEMSはZEH住宅とともに普及する可能性が高いでしょう。
まとめ:節電・省エネにつながるHEMSの仕組みや動向に注目していこう!
この記事では、住宅のエネルギーを見える化・最適化し、節電や省エネが進むHEMSについて解説しました。 HEMSは政府によって普及が進められてきましたが、現状では認知度や普及率は低いままです。 しかし、ここ数年のIoT環境の進展やZEHの普及推進などが追い風となり、近い将来、HEMSを使ったエネルギー管理や節電が当たり前になっているかもしれません。 快適で環境にやさしい家づくりを目指して、HEMSの仕組みや今後の動きに注目していきましょう。