社会で成功するゲーマーに、ひろゆきが聞く「現実世界を攻略できないゲーマーに足りないものって何すか?」
ひろゆきが聞く!
ひろゆきさんが「今、話したい人」と対談する本連載。今回のゲストは、日本のAI研究の第一人者である東大・松尾豊教授の研究室出身で、今年のベストセラー書籍『生成AIで世界はこう変わる』(SBクリエイティブ)を上梓された今井翔太さんです。
実は今井さん、ポケモンのレーティングバトルで世界7位にランクインしたことがある上に、「ゲーム関連の解説がきっかけで松尾研にスカウトされた」ほど、ゲーマーとしても日本トップレベルの実力を持っている。
そんな今井さんと話したいテーマについて、ひろゆきさんは……
ひろゆき:社会で成功してるゲーマーと、うまくいかないゲーマーの違いが知りたいッスね
超がつくゲーマーでもあるお二人ならではの「ゲーマーの能力とは」「現実社会における成功と失敗の関係」など、ユニークな考察が聞けました。
目次
現実社会でも“デキる”ゲーマーが持っているもの“積み上げ”で成果が見込めるものに強い対人戦ゲーマーは、現実世界でも開花しやすい?ゲームには現実世界の事象の一部が反映されている
現実社会でも“デキる”ゲーマーが持っているもの
ひろゆきさん:社会で成功してるゲーマーはちょこちょこ居ますけど、うまくいかないゲーマーとの違いってどこにあるんですかね?
今井さん:面白い視点ですね。私なりに三つの仮説を持っています。
ひろゆきさん:おいらとしては、結局ゲーマーとしての能力を社会で成功するために使う気があるかどうか、な気がしてるんですよね。
ゲーマーに限らず、人付き合いが上手いけど接客業は好きじゃない人とか、体格良いのにデスクワークの職業に就いているとか、スキルを活かそうとしない人は大勢いるので。
今井さん:そこに行き着きますよね。
ひろゆきさん:でも、なんで使う気がある人とない人に分かれるんですかね?
それぞれ理由があってそのスキルを社会で成功するために使ってないんだと思うんですけど、ゲーマーとしてスキルの高い人は期待されやすいのに、もったいない気がするんですよね。
今井さん:そうですね。ゲーマーは基本的に能力はあるはずですし、ゲームの中での成功体験もあるはず。ただ、それを現実世界で活かせない、活かそうとしないのは、もちろん現実世界がゲーム世界と違うからとは思うんですが、共通点みたいなものがありそうです。
この点を考えるにあたっては、将棋の羽生善治さんの言葉もヒントになる気がしてきました。
ひろゆきさん:羽生さんですか?
今井さん:はい、というのも羽生さんの言葉にこんな一節があって。
何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続しているのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。
今井さん:シビれますよね。
何が言いたかったのかと言うと、ゲームは基本的には頑張れば頑張った分だけ、何らかの数値が積み上がって、努力が必ず報われる世界なんです。
今井さん:なのでゲーマーと呼ばれる人は、「成功が保障されている」環境でひたすら努力を積み上げることは得意なはず。ただ、これが現実世界になると、大体のことは頑張っても成功が保障されていないので、あんまりやる気が出ない。
“積み上げ”で成果が見込めるものに強い
今井さん:でも、たまに現実世界でもゲームのように積み上げでほぼ確実に大きい成果が見込めるものがあります。
ひろゆきさん:うひょ。例えば?
今井さん:Xのフォロワー数などは割とシステマティックに増やせて、多くのフォロワーを抱えていれば汎用的にいろんなことに利用できますよね。
社会的に成功しているゲーマーは「ゲームと同じ仕組みや構造」を探し出すことができ、ゲームの中で得たスキルを現実世界でも活かせる人なんだと思います。
ひろゆきさん:ゲームの好みによっても、その人が現実世界でも活躍するゲーマーか否かが、分かれそうですねー。
例えば、RPGみたいな時間をかければクリア出来るゲームが好きな人と、対戦ゲームみたいな必ずしも勝てるわけでは無いゲームが好きな人で分かれると思うんですが、RPG好きな人の方が、現実の難易度に尻込みするタイプな気がします。
格闘ゲーム好きだと、ハメ技やら流行りやらに乗ったり対策したりとか、周りに合わせて練習しないといけないですし。
今井さん:確かに分かれそうですね。格ゲーのほか、ボードゲーム、RTSとかは基本的に対人戦なので、自分でコントロールできない要素が多いですし。
この手の人は、社会で成功する時に前述の「ゲームの中での気付きを現実世界に持ち込もうとする」人が多いように思います。
まあ、そもそも、最も厳密な定義で言うところのゲーマーというのは大体このカテゴリだとは思いますが......
ひろゆきさん:そうそう。
今井さん:例えば、世界的ゲームプレイヤーでありながら、世界最高のAI研究組織Google DeepMindの創業者であるデミス・ハサビスも、格ゲーではないですが、格ゲー出身の人と考えが似ていると思っています。
今井さん:実際、ハサビスは、「チェスの実力を上げることは、自分の思考過程を考えるきっかけになり、知性が何かということに魅了された」とインタビューで答えています。
対人戦ゲーマーは、現実世界でも開花しやすい?
ひろゆきさん:今井さんはどっちのタイプなんですか?
今井さん:私は完全に後者の対人戦ゲーマーです。
今井さん:そもそも私がAI研究をはじめたきっかけは、ポケモンをプレイしているさまざまな場面で人間の思考の限界を感じたことにあるんです。
例えば、1ターンの思考時間の間で、考えられる限り全てのパターンを想像するのは難しいですし、何百匹のポケモンの組み合わせから、本当に最適なパーティを見つけるのは非常に難しい。
何より、当時は世界大会上位勢のパーティがほとんどワンパターンになっていて、「人間の知性が頑張って捻り出した戦略がこれなのか......もっとわれわれが賢ければ、別の戦略を思いついたりしないか」と強く思ったんです。
この頃ちょうど、囲碁の世界チャンピオンを倒した『AlphaGo』(囲碁のAIプログラム)が話題になり初めて、「このAIってやつなら人間の知性の限界を超えて、ゲームも最強になれるし、新しい科学的発見とかもできるかもしれない」と思い、AI研究に興味を持ちました。
今井さん:あと、有名なゲーマーとかは結構ビジネス書みたいなのを書いていますが、これらには著者がプレイしているゲームの思考がかなり反映されているように思います。多分彼らは本に綴られているように、普段の人生でもゲーム中に得た思考パターンとかを現実世界に応用しているんじゃないかと思います。
今井さん:例えば、ポーカープレイヤーの木原直哉さんは著書で「現実世界のいろんなことをもっと確率的な事象として考えて動けばよい(リスクマネジメントとか、確率が低いことは基本的に運ゲーで、試行回数を増やす努力をすべき)」と書いてます。これは運次第でかなり勝敗が決まってしまうポーカープレイヤーならではでしょう。
格ゲープレイヤーだと、東大卒プレイヤーのときどさんとかは、研究の世界で一定の成功も収めている人ですが、ゲームにしても研究にしても「成功には型がある」と主張しており、「偶然を見逃さない」、「知識入れと課題発見」あたりの格ゲーで重要視されるスキルが研究でも役立ったと書いてます。
ひろゆきさん:なるほど、それが【2】で示す「ゲームで成功するためにゲーム以外の分野も含めたあらゆる分野の知見を使ったことがある」という人の姿っすね。
今井さん:以前ひろゆきさんと対談されていた吉田Pも、たぶんこのタイプなんじゃないかなぁと思っています。
FF14が“愛され長寿”なのは「たまたまじゃない」【ひろゆきが吉田直樹に聞く】https://type.jp/et/feature/26308/
今井さん:吉田Pの場合、ゲームで勝つためというよりは、「良いゲームを作るため」な気もしますが、吉田Pの、FF14生放送の発言や取材記事、書籍を見ていると、いろんなことを学んでいらっしゃることがヒシヒシと伝わります。
ひろゆきさん:ああ確かに。
今井さん:昔の本(というか雑誌のコラム)では機械と脳の関係みたいな趣旨を書いてらっしゃることもありましたね。吉田Pのようなタイプは、自分の目的のために何でも貪欲に吸収しようとする傾向があるので、ゲームのために吸収したものが、現実世界の生き方にも影響を与えてるんじゃないかという気がします。
吉田直樹【モーニング40周年インタビュー】https://comic-days.com/blog/entry/40s_landscape/interview07
今井さん:僕に関して言えば、『メイプルストーリー』というネトゲーをやっていたときには、そのゲームで一儲けするために経済学を学びましたし、ポケモンで勝つためにゲーム理論やプログラミング(Java)を、海外のポケモンプレイヤーの情報を仕入れるために苦手な英語の勉強をがんばったりもしました(笑)。
これは全部ゲーム以外にも役立っており、知識と、他の分野から学ぼうとする姿勢は、社会でうまくやっていくためのファクターな気がします。
ゲームには現実世界の事象の一部が反映されている
今井さん:ちなみに、僕が専門にしているAI研究ではものすごーくゲームをよく使います。私も東大での論文第一号はゲーム『スタークラフト』を使っていますしね。
初期のAI研究ではチェスをするAIを作っていましたし、世間で話題になるAIの研究成果も「囲碁の世界チャンピオンに勝てるようになった」とか「Atariみたいなレトロゲームをうまくクリアできるようになった」といった話ばかりです。
今井さん:研究者がゲームができるAIばかり作るせいで、世間の人からは「なんでAIにゲームをやらせてんだよ!
楽しいゲームは人間がやることであって、AIにはもっとつまらない仕事をさせてくれ」と言われたりします。でも、われわれもゲームプレイがうまいAIを作りたいわけではないのです。ゲームには現実世界の事象の一部が反映されているので、AI研究に有用なんですよね。
例えば、スタークラフトの世界チャンピオンを倒したAlphaStarのDeepMind公式記事には以下のような文言が書かれています。
ゲームは、人工知能システムの性能をテストし評価する重要な方法として、何十年にもわたって使用されてきました。能力が向上するにつれ、研究コミュニティは、科学的な問題や現実世界の問題を解決するために必要な知性のさまざまな要素を捉えた、複雑さを増すゲームを求めてきました。近年、最も難易度の高いリアルタイムストラテジー(RTS)ゲームの1つであり、史上最も長くプレイされているesportsの1つであると考えられているStarCraftは、AI研究の「壮大な挑戦」としてコンセンサスを得て浮上しています。
今井さん:つまり、世界チャンピオンを倒したAIは、「現実世界の複雑さを備えたスタークラフトというゲームで最上位レベルの強さを持つAIは、現実世界のいろんな問題を解決してくれる」という仮説のもと、「じゃあグランドマスターを倒せるレベルのを作ってみよう」という意図で開発されたということですね。
AIがゲームを解けるようになれば、似たような構造の現実世界で活躍できるAIも開発できるだろう……というのがわれわれ研究者の考えです。
AI研究の事例をもとに考えると、ゲームがうまい人は、効率的に学習できるゲームという仮想空間で現実世界の生き方を学んでいるといえるかもしれません。そういう意味では、ゲーマーは現実世界で成功する確率が結構高いと思いますよ。
AI研究者,博士(工学,東京大学)
今井翔太さん(@ImAI_Eruel)
1994年、石川県金沢市生まれ。東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 松尾研究室にてAIの研究を行い、2024年同専攻博士課程を修了し博士(工学、東京大学)を取得。人工知能分野における強化学習の研究、特にマルチエージェント強化学習の研究に従事。ChatGPT登場以降は、大規模言語モデル等の生成AIにおける強化学習の活用に興味。生成AIのベストセラー書籍『生成AIで世界はこう変わる』(SBクリエイティブ)著者。その他書籍に『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』(翔泳社)、『AI白書 2022』(角川アスキー総合研究所)、訳書にR.Sutton著『強化学習(第2版)』(森北出版)など
ひろゆきさん(
@hirox246)
本名・西村博之。1976年生まれ。「2ちゃんねる」開設者。東京プラス株式会社代表取締役、有限会社未来検索ブラジル取締役など、多くの企業に携わり、プログラマーとしても活躍する。2005年に株式会社ニワンゴ取締役管理人に就任。06年、「ニコニコ動画」を開始。09年「2ちゃんねる」の譲渡を発表。15年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。著書に『働き方 完全無双』(大和書房)『プログラマーは世界をどう見ているのか』(SBクリエイティブ)『1%の努力』(ダイヤモンド社)など多数。ABEMAで配信中の『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』も好評
今井翔太さん写真/桑原美樹
ひろゆきさん写真/赤松洋太
編集/玉城智子(編集部)