興味駆動でも地に足つけて成長するための、増井雄一郎のしたたかな戦略とは?【聴くエンジニアtype】
聴くエンジニアtype
「数年後のキャリアよりも、目の前のものに対する興味の方が強い」
そう言い切ってしまえる潔さを持つ、風呂グラマーこと増井 雄一郎さん。増井さんがいかに「自分の興味」を大切にしてきたのかは、過去の話からも明らかだ。
好奇心の男・増井雄一郎(masuidrive)が続けてきた、興味の対象にBETする技術者人生【聴くエンジニアtype】https://type.jp/et/feature/27187/
「やりたいことだけ」を選択していては、いずれキャリアが立ち行かなくなってしまうのでは……と多くの人であれば懸念するだろう。しかし、増井さんは複数回の起業やサービスの立ち上げに携わるなど、エンジニアとして着実に前進してきた。
自身の興味に素直でいながらもキャリアを切り開くコツがあるのだろうか。増井流の成長の秘訣に迫った。
Product Founder & Engineer
増井 雄一郎さん(
)
「風呂グラマー」の愛称で呼ばれ、『トレタ』や『ミイル』をはじめとしたB2C、B2Bプロダクトの開発、業界著名人へのインタビューや年30回を超える講演、オープンソースへの関わりなど、外部へ向けた発信を積極的に行なっている。「ムダに動いて、面白い事を見つけて、自分で手を動かして、咀嚼して、他人を巻き込んで、新しい物を楽しんでつくる」を信条に日夜模索中。 日米で計4回の起業をした後、2018年10月に独立し'Product Founder'として広くプロダクトの開発に関わる。 19年7月より株式会社Bloom&Co.に所属。現在は、CTOを務める
【MC】
エムスリー株式会社 VPoE
河合俊典(ばんくし)さん(
)
Sansan株式会社、Yahoo! JAPAN、エムスリー株式会社の機械学習エンジニア、チームリーダーの経験を経てCADDiにジョイン。AI LabにてTech Leadとしてチーム立ち上げ、マネジメント、MLOpsやチームの環境整備、プロダクト開発を行う。2023年5月よりエムスリー株式会社3代目VPoEに就任。業務の傍ら、趣味開発チームBolder’sの企画、運営、開発者としての参加や、XGBoostやLightGBMなど機械学習関連OSSのRust wrapperメンテナ等の活動を行っている
#手を出したものは、成果を出すまで絶対に手放さない
ばんくしさん:興味駆動という考え方が増井さんの個性であることは間違いないとは思うのですが、この個性故に苦しんだ経験はないんですか?
増井さん:過去の経験からいうと、大きい組織のCTOや長期プロジェクトは不向きですね。自分の興味からかけ離れた課題が生じたとき、それを解決することに熱量を割くのが難しくて。
ただ、経験を積むうちに苦手なこととの距離の取り方も上手くなってきました。“自分をうまく活かす方法”が掴めてきたなと思います。
ばんくしさん:その感覚はどのように身に付けてきたんですか?
増井さん:実は僕、学生の頃からカウントすると会社を4回立ち上げているんです。その経験の中で、組織の中心での活動が向かないことや、0→1は得意だけど1→10や10→100が苦手なことに気付きました。
そうやって年齢や経験を重ねることで、徐々に自分の使い道が分かってきたんです。40代後半に差し掛かった今でも、まだまだ充分伸びしろがあると感じることも多いですね。
常に「やりたいこと」を優先する増井さんのキャリア観は、一見すると行き当たりばったりにも感じる。ところが詳細を紐解いていくと、成長のためのしたたかな戦略が見えてきた。
増井さん:興味駆動と聞くと、思いのままに手を出して、すぐに投げ出すようなイメージを持つかもしれませんが、僕は「成果が出るまではやり続ける」というルールを課しているんです。
ばんくしさん:それは自分に向いている・向いていないを判断するためですか?
増井さん:それもありますが、どちらかというとビジネスとしての側面が大きいですね。一定の成果を出していないと、ビジネスとしては認められないので。
それに「トライした」という事実は自分の血肉にはなるけれど、その実態を他者に説明することはできないじゃないですか。だから形になるところまでは続けるようにしています。
「成果を出す」と言うのは簡単だが、実現するのはなかなか難しい。事実、増井さんも「辛くなったときには一度離れることもある」という。
増井さん:楽器でも語学でも、誰もがすぐに手にできることって成長と呼ぶほどのものではない。その道で一定のレベルに達するには、どんな分野でも2~3年はかかると思うんですよね。
人を巻き込み退路を断て「学びは自分に返ってくる」
最後に、エンジニアとしての成長を目指す若手へのアドバイスとして、増井さんは次のように語った。
増井さん:自分の専門からかけ離れた分野にチャレンジするときや、苦手なことに挑むときは、人を巻き込むのがお勧めです。なぜなら、他人を巻き込んだ以上、言い出しっぺの自分がやらないわけにはいかないですから。他人を巻き込むことで、強制的にやらなければならない状態に追い込むといいですよ。
実際、前回話題に出た音声領域に関する機械学習について学ぶために、友人や医師、専門家を味方につけて輪を広げていったのだとか。さらに最近では、長年苦手だった統計の知識を身に付けるために会社のメンバーを巻き込んでいる最中とのこと。
音声認識も統計も、今の増井さんのキャリアに必ずしも必要なことではない。一方で、今の増井さんが形作られているのは、これまで数々の興味を追求し続けた結果であることもまた事実だ。
増井さん:学んだことは、必ず何かしらの形で返ってくると思うんです。それは今年かもしれないし、もしかしたら30年後かもしれないですけどね。
※本記事は聴くエンジニアtypeオリジナルPodcast『聴くエンジニアtype』#66、#67をもとに執筆・編集しております
文/赤池沙希 編集/秋元 祐香里(編集部)