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一十三十一がカバーしたシティポップのアルバムに “女王誕生” の瞬間を見た!

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2021年11月14日 一十三十一のアルバム「YOUR TIME Route #1」発売日

2002年にデビューした媚薬系シンガー、一十三十一


“現行シティポップの女王”ーー
いま、一十三十一はこのような形容詞で紹介されることが多い。それにしても《現行シティポップ》とはそもそもなんなのだろう? 主に1980年代のリアルタイム体験がまったくない平成生まれの若者たちによって作られている《ネオ・シティポップ》と差別化を図りたい気持ちはわかるが、かといって “現行” がつくと、一気に演歌や歌謡曲といった伝統芸能的な香りが漂ってしまい、常に最先端の現行音楽であり続けるべきシティポップの精神とまったくかけ離れてしまう。彼女を形容する言葉に関していえば “現行" を外した “シティポップの女王” でまったく問題がない。

では、2000年代の半ば、デビュー直後の彼女がどんなイメージだったかというと、彼女は “エレポップを歌うちょっと不思議なお姉さん” だった。今でも彼女のプロフィールには “媚薬系” というキャッチコピーが書かれているが、 “○○系” という言い方がすでに懐かしい。“草食系男子” なんて言葉がもてはやされた時代とも近い。当時のJ-POPのシーンでは若い女性シンガーを “歌姫”(ディーヴァ)として売り出していく風潮があり、1990年代の “ガールポップ” がR&B系やクラブ系といった形で、ジャンルを細分化しながら発展・展開されていた。2002年にデビューした一十三十一は、すでにピークを過ぎていたこのブームの系譜を引き継ぐように “媚薬系” と呼ばれたのかもしれない。

そんなミステリアスな彼女の素顔が垣間見えたような気がしたのが、2005年5月に放送されたNHK-BS2の音楽番組『音楽・夢くらぶ』。番組のフォーマットとしては現在も放送中の『SONGS』と同じ。番組のホストとして現在の大泉洋の位置に中村雅俊がいた。ここで彼女は大貫妙子と共演し、シュガー・ベイブの「いつも通り」をデュエット。歌い方は似せるまでもなくそっくりで、まるで双子のよう。“個性的であれ” という言葉が呪いのように伝播し始めていた当時の風潮などなんのそので、うれしそうに自身のルーツでありネタ元を全開にしてみせた彼女にかえって親近感を持った。

カバーアルバム「YOUR TIME Route #1」の意外な選曲


だから、2012年のアルバム『CITY DIVE』で見事にシティポップを現代的にアップデートさせたことについては意外でもなんでもなく、ただ“あの時の彼女がついにやった”という感慨だけがあった。同年のカバーアルバム『YOUR TIME Route #1』についてもまた然り。意外だったのはその選曲で、リリース当時は少々物議を醸すものであったことは記憶しておきたい。

なにせ1曲目が石井明美の「CHA-CHA-CHA」である。一応 “シティポップのカバー集” と銘打たれているだけに、渡辺真知子の「唇よ、熱く君を語れ」や一風堂の「すみれ September Love」ような明らかに流行歌寄りの楽曲が混入していることへの違和感があった。このアルバムのAmazonレビューにもそのような趣旨の低評価コメントがあったので、それは私だけの気持ちではない。“私が聞きたかったのはCITY POPであってダサい歌謡曲ではない” とはなんとも辛辣。“歌謡曲のような音楽とは違うのだよ” という上から目線がシティポップを聴く一部の人のメンタリティの根幹にあったことがよく表れている。

ところがだ。今にして思うとその選曲方針はその5〜6年後にじわじわと海外からやってきたシティポップ・リバイバルを予見した実に見事なものであった。まさに “一本取られた" と言っていい。2012年当時に松原みきの「真夜中のドア」や泰葉の「フライディ・チャイナタウン」、そして寺尾聰の「ルビーの指環」が “シティポップの名曲” としてもてはやされる未来を誰が予想できただろう? 

いまやTikTokでもYouTubeでもジャパニーズ・シティポップの文脈は解体され、流行歌だから、歌謡曲だからという先入観を抜きに再評価されている。石井明美も渡辺真知子も、立派にプレイリストの中核に組み込まれてもおかしくない時代。つまり一十三十一は、この潮目の変化をいち早く察知していたことになる。

それ以外の選曲についても申し分ない。大貫妙子や竹内まりやに混じって宮本典子の「SILVER RAIN」が選ばれているところに、レコード屋でまだ見ぬ名曲を求めて彷徨う感覚が落とし込まれている。さらにRAJIEの「ブラック・ムーン」を収録したアルバム『アコースティック・ムーン』はこの時点ではまだCD化されておらず、“シティポップの隠れた名曲発掘” という要素ももちろん忘れてはいなかった。

シティポップをつないだ中興の祖


そんなアルバム『YOUR TIME Route #1』がシティポップに特化したイベント “CITY POP on VINYL 2025” で、アナログ盤として再発される。その意味を考えてみると、リリースからの10年でシティポップを取り巻く状況がどう変わったかを思わずにはいられない。“現行” と付けずとも彼女を “シティポップの女王” と呼びたい理由がそこにある。

当時、選曲に違和感を持った人ほど本作を聴き直してほしい。シティポップというキーワードにおいて、“1980年代と2000年代以降をつないだ中興の祖” としての彼女の存在が『CITY DIVE』とこの『YOUR TIME Route #1』で確立されたことが改めてわかるだろう。

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