WBCピッチクロック導入『国際大会独自のルールづくりが必要』五十嵐亮太がプロ野球選手の故障リスク、米球界への人材流出…日本球界の魅力向上は?
野球ファンの胸が高鳴る季節がやってきた。2月に入りプロ野球12球団が一斉キャンプイン。 海を越えて遠く離れたアメリカ・大リーグのスプリングキャンプが始動している。前年シーズンの栄光や悔恨・・・。球団によってファンの抱える思いは様々な一方で、新シーズンへの期待感、開幕が近づく高揚感はどのチームのファンも同じ思いだろう。 春季キャンプの取材の為、沖縄に滞在中のプロ野球解説者・五十嵐亮太さんに近年の野球界を巡るあらゆる論点について私見を伺った。 佐々木朗希投手や菅野智之投手など「渡米一年目の活躍のキーとは」という話題に始まり、巷で話題となっているWBCでのピッチクロック導入問題、そして若手有望株の米球界流出・NPBの魅力向上など。日米それぞれの野球を熟知した五十嵐さんは野球界の未来をどう見つめているのだろうか―――。
環境にマッチしたスタイルを見つける
―――五十嵐さん本日は宜しくお願いいたします。今オフ菅野智之投手や佐々木朗希投手、小笠原慎之介投手などNPBで活躍してきた日本人ピッチャーが数多く米球界に挑戦しています。日本人投手の渡米一年目に活躍するために必要な事は何でしょうか? 五十嵐 やっぱりボールへの対応が大事だと思います。特に乾燥している地域の球団に所属していると、より滑りやすさを感じるので。日本もこの春先特に春季キャンプの時期でも宮崎県はわりと乾燥しているので滑りやすくなっちゃうんですけど、アメリカのボールは若干大きくも感じるし滑りやすさも感じるからその辺りの対応は大事だと思います。 あまりにも滑りが強いと(ボールを)持たないといけない投げ方になるので、持たなきゃいけない意識になると自然に筋肉が反応しちゃうじゃないですか。その状態で投げ続けると肩肘の負担にもなり故障にもつながりやすくなってしまう。なるべく自然にボールを持てるような感覚を持つことがアメリカのボールへの対応する上でも大事になってくるんではないかと思います。もちろんアメリカならではの「マウンドの固さ」という部分も対応しないといけないです。ボールにせよマウンドにせよ新天地の環境にマッチしたスタイルを見つけるというのが一番だと思います。
日本の野球がより魅力的になる為に・・・
―――先述した日本球界を代表する名だたるピッチャーたちが米球界へ挑戦するだけでなく、もう一つ話題を集めたのが、日本のプロ野球を経ずに米球界挑戦を表明しオークランドアスレチックス傘下と契約した桐朋高校(東京都)の森井翔太郎の存在。さらに一昨年はドラフト上位指名が目された佐々木麟太郎選手もNPB入りはせずアメリカの大学球界に挑戦しました。米球界への挑戦はプロアマ問わず、このところ特に急加速してきた印象があります。今後はこうした流れが当たり前になってくると思いますか? 五十嵐 なるんじゃないですかね? 前例ができてしまえばそのステージでプレーしたいなと思う選手が増えてもおかしくないし「やってみたい。可能だ」と思う選手は増える。大谷翔平選手の二刀流が可能になった時に二刀流を目指す選手が増えた。これと同じ現象だとは思います。 ただそのステージに到達できる人って限られてくるんです。増えるといっても、それが「多い人数」になるかといったらそれはどうなのかなと思います。それと、この話をしたときに【日本のアマチュアの選手がアメリカに流出してしまうと日本の野球が衰退してしまう】という論調になることもありますが、現段階ではそこまでの事にはならないかなと思います。将来的にその危機が訪れるようなことになれば日本の野球も考えていかなければならない。日本の野球がより魅力的になる為に、現役選手や個々の球団も今までと違ったアプローチをして魅力を上げていくことが求められると思いますね。
ファンとの距離感も魅力度向上は?
―――ファンとの距離感も魅力度向上のキーになると思いますか? 距離感って難しいですよね。ファンという視点で言うと、観客動員数も年々上がっている中ではあるので、そこよりもやっぱり「すそ野を広げる」っていうことと、すそ野を広げるうえで日本のプロ野球でやりたいと思える人をどれだけ増やせるか。これだけ情報量があってアメリカでの日本人選手の活躍を見ているとそのステージでやりたいと思う人がいて当然なんだけど、でもそうなると「日本の野球は面白い」「アメリカの野球はどんなものなんだろう」といろんな見方で野球界全体が注目されることになる。そうすれば必然的に野球をやりたいと思う子どもが増えると思うんですよ。 トップで活躍した人とか世界で活躍した人に憧れて野球を始める人が多い。競技人口が増えれば野球界全体にとってプラスになる。だから日本からアメリカに行ってしまうことが決してマイナスではなくて、それを見てやりたいと思う子どもが増えることは間違いなくプラスに働く。そう考えると僕はそこまで悲観的には考えていないですね。 やり方によっては過去日本球界にあった『田沢ルール』(※ドラフト指名を拒否し国外プロ球団と契約をしたアマチュア選手に対し日本球界復帰後、高卒選手は3年、大卒・社会人出身選手は2年間NPB球団と契約できない事を設定したルール。現在は撤廃)を作った時にもなんか僕は寂しさを感じたので、そういった止め方をするのではなくて良い方法があるんじゃないかなというのは感じています。 でもそうじゃないですか、スポーツニュースをみて野球のプレーで凄いなと思う。この「凄いな」という思いを持ってもらいたいんです。そのきっかけはメジャーリーグでもNPBでもいいと思うんです。
2026WBCのピッチクロック導入について
2026年の第6回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で投手の投球間の時間制限を設ける「ピッチクロック」が導入されるというニュースが報道され、世間で物議を醸している。この話題についても五十嵐さんの視点で語っていただいた。 ―――例えば、ピッチコム(投手と捕手間でサインの伝達に使われる電子機器)やピッチクロック、マイナーリーグでは一部ロボット審判なども導入されているということもよく聞かれますが、今後NPBにも野球の競技ルールに関わる新常識が入ってくる流れになるのでしょうか。またこれらはNPBにマッチするルールだと思いますか? 五十嵐 そうなってくると、色々野球以外にも整備しないといけない部分が増えてくると思うんです。試合に関わるスポンサー関係であったり。そのような競技以外の部分も含めた決定事項になるので。 ただアメリカの良いところは、やろうって決めたときに動きが速い。日本の場合その動きがアメリカに比べて遅いし色々と整備しないといけない問題への対応が先になってルールづくりに時間がかかってしまう。それが選手のパフォーマンスに繋がってしてしまうのは寂しいですよね。 例えば来年WBCが始まるときに、個々の選手がピッチクロックへの対応ができていないとなると、それは選手にとっては不利なことだし、できなかった理由は何なのかっていうところを問われるのかなと思う。ただ実際ピッチクロックをやることによってピッチャーの負担っていうのは確実に大きくなっているはずなんですよ。 やっぱり故障や怪我人が多く見受けられるし無関係ではないはずなので。一概にアメリカの野球が正しくて、そこに常に対応していくのが適切かと問われると、最近ちょっと僕の考え方の中でも、微妙になってきているんですよ。 ただWBCやプレミア12など国際試合が定期的に開催されそこに日本代表として参加していくことを考えると、国際試合に合わせた独自の基準づくり・ルールづくりっていうのが求められてくるのではないかと思う。ただ難しいのが、国際試合もMLB・大リーグ機構が主催している事なので、現実的にはルールの変更は無いとは思うが、そこをありきで考えるとするならば日本もレギュラーシーズンからそこに準じたルールにならざるを得なくなると思いますね。 あるところではメジャーリーグに合わせなければならないけども、あるところでは日本の野球の良さを残しておきたいとかそのバランスをどうとるのかっていうのは、当然それを判断する立場の人がいるわけで、それがファンの声でもあるのかなとは思います。こうやって野球界もそうだし、見ている人たちが興味を持つとか議論が生まれる、意見を言えるという環境が一番大事だと思います。
〈五十嵐亮太〉 1979年北海道生まれ。プロ野球・東京ヤクルトスワローズや福岡ソフトバンクホークス、またアメリカ大リーグ・ニューヨークメッツなど3球団を渡り歩き、日米通算900試合以上に登板した元プロ野球選手。引退後は野球解説者としての活動の他、自身のYouTubeチャンネル「イガちゃんねる~五十嵐亮太の人生は旅だ~」を開設するなど多方面で活躍する ロケ地協力:スポーツカフェ・チップ(沖縄県那覇市安里101)