今こそ観たい! スピルバーグ”無冠の名作”をミュージカルリメイク『カラーパープル』の楽曲やキャストの魅力を解説
オスカー“最多ノミネート”の1985年スピルバーグ作『カラーパープル』とは
1985年に公開された『カラーパープル』は、作品自体の評価とは別に、スティーヴン・スピルバーグの監督のキャリアの中で、特別な一作として記憶に残る。
『JAWS/ジョーズ』(1975年)、『未知との遭遇』(1977年)、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)、『E.T.』(1982年)、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年)と、エンターテインメントとしての映画を革新する作品を撮り続け、しかも記録を塗り替える大ヒットを達成。誰もがスピルバーグを、ハリウッドを代表する監督と認めた。演出の非凡な才能も高く評価され、『未知との遭遇』(1977年)、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)、『E.T.』(1982年)でアカデミー賞監督賞にノミネート。『E.T.』は作品賞にもノミネートされた。ただ、どちらかといえば「エンタメを撮る監督」というイメージも定着し、彼がアカデミー賞を“受賞”するのは難しいという空気も漂っていた。
ウーピー・ゴールドバーグほか“次世代に受け継ぐ”キャスティング
キャストでは、セリー役のファンテイジア・バリーノ、セリーの義理の娘で自立した生き方を貫くソフィア役のダニエル・ブルックス(※第96回アカデミー賞で助演女優賞にノミネート)は、ブロードウェイ版でも同役を演じていただけあって、余裕の演技・歌唱でこちらを酔わせる。とくにソフィアは物語のキーパーソンで、1985年の映画では、あのオプラ・ウィンフリーが演じてアカデミー賞助演女優賞にノミネート。人気トーク番組『オプラ・ウィンフリー・ショー』は翌1986年にスタートし、彼女はアメリカのエンタメ界で最高の地位を確立した。ウィンフリーは今回、プロデューサーに名を連ねている。ブルックスの存在感は、そのウィンフィリーに引けを取らない。
そして出演シーンは短いながら、『リトル・マーメイド』(2023年)でアリエルを演じたハリー・ベイリーが、ネティの少女時代でまたも美しい歌声を聴かせる。彼女の単独ナンバー「Keep It Movin’」はベイリー自身が作曲を担当。他のナンバーとは明らかに違うノリで耳に残るはず。
もう一人、注目のキャストはセリーの夫、ミスターを演じたコールマン・ドミンゴで、こちらでは支配的で横暴な役柄ながら、『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』(2023年:Netflixで独占配信中)では、1960年代のゲイの政治活動家役で、まったく別人の演技をみせている。
ドミンゴは『ラスティン~』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされており、その豹変ぶりを『カラーパープル』とぜひ比較してほしい。
ミスターの父親(オールド・ミスター)での、現在87歳のオスカー俳優、ルイス・ゴセット・ジュニアの“いぶし銀”の名演。1985年版で主演を務めたウーピー・ゴールドバーグの参加など、映画の歴史を実感する見どころも各所にある。とくにウーピー・ゴールドバーグの役どころは、「作品を次世代に受け継ぐ」意図が感じられ、胸が熱くなった。
「#MeToo」が起こり、さまざまなハラスメント問題が明るみになっている現在、この新しい『カラーパープル』を観れば、時代が要求した作品であることを実感するだろう。セリーが一大決心を表明する重要なシーンに、人間としての誇りが凝縮され、否が応でも激しい感動に襲われるのは、今の時代ならではかと。そしてこうしたテーマ性だけでなく、ミュージカル映画として、つまりエンタメとして純粋に興奮させるところが、『カラーパープル』の魅力であり、そこに“スピルバーグらしさ”を感じられるかもしれない。
文:斉藤博昭
『カラーパープル』は2024年2月9日(金)より全国公開