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特集 知っておきたい「切迫流産と切迫早産」(前編)プレママにぜひ知ってほしい専門医が教える「切迫流産」と「流産」のこと

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特集 知っておきたい「切迫流産と切迫早産」(前編)プレママにぜひ知ってほしい専門医が教える「切迫流産」と「流産」のこと

最近、「切迫流産」「切迫早産」と診断されるプレママが増えているようです。「切迫」とは「差しせまった状態」を指し、妊娠22週未満で流産のおそれがある場合を「切迫流産」、妊娠22週~37週未満で分娩する可能性があると「切迫早産」と呼ばれます。

2019年に厚生労働省の『妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会』で発表された資料(※1)によると、約15%の妊婦が「切迫早産」や「切迫流産」を経験しています。教職員や看護師のプレママでは、その割合が約25%に上るという結果もあります(※2)(※3)。

元気な赤ちゃんを待ち望んでいるママ・パパにとっては、「切迫流産」「切迫早産」の診断はとても不安なことですよね。

そこで、「切迫流産」と「切迫早産」について正しい知識を身につけ、そのリスクを避けるためにできることを、慶應義塾大学医学部名誉教授の吉村泰典医師に伺いました。前編は「流産」と「切迫流産」の原因と症状についてまとめます。

まずは「流産」について学んでいきましょう

「切迫流産」を取りあげる前に、まず知っておきたいのは、「流産」について。医学的には「流産とは、妊娠22週未満で妊娠が終了してしまう妊娠経過中に最も多い妊娠合併症」と定義されています。

妊娠12週未満で起きるものを初期流産と言い、妊娠12週以降22週未満は後期流産と呼ばれます。

「流産のほとんどが妊娠12週未満の初期流産で、これはプレママの8人に1人が経験するという統計もあります。流産の原因の6〜7割は染色体異常。染色体異常は受精の過程で起きる偶発的な事故のようなもので、自然の営みのひとつと考えることもできます。新しい命のつぼみを失ってしまうのはママ・パパにとってとても悲しいことですが、どうか『何がいけなかったのか』と自身を責めないでほしいと思います」(吉村先生)

初期流産の割合が8人に1人。この数字は少ないとは言えず、そういう意味では流産というものは「特別なことではない」と吉村先生。

ちなみに昨今、切迫流産だと診断されるケースが増えているのは、経腟の超音波による微細な検査ができることになったことで、今まで見えない部分がわかるようになったことがあるといいます。

さらに、晩婚化ならびに高齢妊娠とも無関係ではないようです。厚労省の「人口動態統計」(※4)によると、1975年に25.7歳だった第1子の出産平均年齢は、2023年には31.0歳に。さらに母の年齢層別の出生率をみると、2005年に30~34歳が最も高くなり、20~29歳が低下している一方、30歳以上で上昇傾向が見られます。(※5)

母の年齢別出生率の推移

医学的には、女性が自然に妊娠する力は30歳ごろから低下すると言われていて、35歳前後からは流産率の上昇も見られます。

「女性は生まれたとき、すでに卵子を持っていて、それは年齢とともに老化していきますから、受精卵の染色体異常が起こりやすい。そのため高齢妊娠は流産率が高いと言われています」(吉村先生)

30代後半になると体外受精などによって受精したとしても妊娠率は低下し、流産率が上昇することが明らかになっており(※6)、吉村先生は、「これだけ進歩した医療技術をもってしても、自然の力を超えるのは難しいということではないか」と感じているそうです。

ART(生殖補助医療技術)による年齢別の妊娠率・出産率・流産率

「ここでは流産だけが取りあげられていますが、早産も高齢妊娠でリスクが高くなるようです。でも一度流産したカップルが次も流産する確率は20~25組に1組ぐらい。不育症の方もいますが、基本は流産が続く方の方が圧倒的に少なくて、2回目、3回目で元気な赤ちゃんを出産する可能性の方がずっと高いということはぜひ知っていただきたいですね」(吉村先生)

切迫流産の治療は“安静”にすること

妊娠22週未満で、胎児は生存しているけれど、腹痛や出血が見られるという場合、「切迫流産」と診断されます。

「腹痛はほとんどが子宮の収縮によるものです。出血の原因はいろいろありますが、比較的多いのは、胎盤の下に血腫(血のかたまり)ができて出血するケース。これは入院して安静にしていると自然に吸収されていって治癒することも多いんです。最近はエコー検査で詳しく見ることができますから、妊娠9週〜10週であれば軽い血腫による出血か、妊娠を維持することが難しい染色体異常かを診断することはそれほど難しくないでしょう。どちらにしろ、異常を感じたらすぐに診察を受けることをおすすめします」(吉村先生)

吉村先生によると「切迫流産の治療は安静しかない」とのこと。

「医師であれば、血腫の大きさでだいたいわかります。血腫がなくて出血してくるような場合は心配がありますが、血腫があって出血してくるような場合は安静にしていれば治ることが予想できるわけです。なお『安静』ってどこまでのことを言うのって疑問に思われるかもしれませんが、これもここまでがボーダーラインです、とも言えないわけです。ある程度動いても問題ない場合もあるでしょうし、入院する必要がない人もいるかもしれない。ただ、医師としてはプレママによって『安静』の程度が違うのがこわいので、より安全策をとって入院などを勧めることも多いわけです」(吉村先生)

切迫流産との診断が下されても、染色体異常が原因でなければ治るケースが多いというお話は、少し安心できますね。「流産はママ・パパには原因がない場合がほとんど」という事実も覚えておきたいものです。

続く「知っておきたい『切迫流産と切迫早産』(後編)」では、吉村先生に「早産」と「切迫早産」について伺います。

〈参考資料〉
(※1)妊産婦の診療の現状と課題 日本産科婦人科学会 日本医科大学 中井章人(厚生労働省 2019年)
(※2)「妊娠・出産した教職員(50歳未満)の体調不良について」(日本教職員組合 2017年)
(※3)「2022年看護職員の労働実態調査」
(※4)「2023年人口動態統計月報年計の概況」(厚生労働省)
(※5)「厚生労働白書2020年版」
(※6)「2020年体外受精・胚移植等の臨床実施成績」(日本産婦人科学会)

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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