雑談が苦手なら「聞く」に徹する。取引先、後輩、上司など“親しくない人”と会話するコツ
親しい友人であれば平気なのに、上司や部下、取引先など“あまり親しくない人”との雑談やアイスブレイクに「何を話せばいいんだっけ……?」と、戸惑った経験はありませんか。
ライター・インタビュアーのいしかわゆきさんも、かつては「親しくない人との雑談」に強い苦手意識を抱いていたそう。しかし、「聞くスキル」を磨いたことで、どんな相手とでも会話をすることが苦痛ではなくなったといいます。
今回はそんないしかわさんに「聞くスキル」を中心とした、明日から使える具体的な会話のコツを教えてもらいました。
雑談が苦手でも「話を聞く」ことはできる
いしかわさんは現在インタビューライターとして、さまざまな人に話を聞くお仕事をされています。ですがもともとは「他人に興味が持てず、人と関わるのが苦手」という悩みがあったそうですね。
いしかわゆきさん(以下、いしかわ):はい。私は昔から「人と話したい」という気持ちが薄く、雑談をするのも好きではないし、美容室などでもスマホを見て無言で過ごすタイプでした。ところが、新卒で入った会社で営業担当になってしまって、仕事でさまざまな人と話す必要が出てきてしまったんです……。
私の場合、商談など仕事上必要な会話のやりとりはかろうじてできるのですが、クライアントと「他愛のない雑談」をするのが本当に苦手で。場を和ませるような“ちょっとした雑談”を上手にこなす先輩たちと自分を比べて、常に劣等感を抱えていました。「私は『つまらないやつ』だと思われてるんだろうな……」などと考えてしまって、取引先に行くのが毎回憂鬱で......。
「営業は向いていない」と思い、人と話さずに済む仕事を求めてライター職に就いたんです。
ライターになったのは「人と関わらない仕事」を求めてのことだったのですね。
いしかわ:しかし、タイミングが悪く、担当するメディアのコンテンツがコラム中心から、インタビュー中心に変わってしまったんです。
今度こそ人と関わらなくて済むと思ってライターになったのに、結果的にはインタビュアーとして取材に行かなくてはならなくなった。最初の頃はとにかく嫌だったんですが、人の話を聞く仕事を続けるうちに、あれ、「聞く」って実はすごくお得なスキルなのでは?と感じるようになって。
《画像:撮影:岩下周平》
「聞く」がお得なスキル、というと?
いしかわ:まず、聞き手って無理に話す必要がないんですよね。自己開示したりおもしろいことを言ったりしなくても、相手の話が広がるよう、常に相手を起点にしてコミュニケーションをとればいいので、実はすごく楽な立場なんだと気づきました。
「話す」は苦手でも、「聞く」は楽にできると気づいたんですね。
いしかわ:そうなんです。あとは、じっくりと相手の話を聞いているだけで、自ずと人に好かれやすくなることにも気づきました。人は自分の話をちゃんと聞いてくれる相手には、好感を抱きやすいものなんだなあと。
いしかわさんは「聞くスキル」をどのように身に付けていったのですか?
いしかわ:もちろん仕事での実践もありましたが、インタビューライターになりたての頃は練習をかねて、プライベートでも徹底して聞き手に回ることを意識していました。
すると、話すのはあまり好きではないと思っていたはずなのに、意外と友達よりも話していることに気づいて。よくあるのが、相手の話を「分かる、私もそう。この前ね……」と、無意識に奪ってしまっていたケース。それをやめてきちんと「聞く」ことを心がけるようになったら、プライベートでも「聞き上手だね」と言われることが増えました。
仕事のために身に付けた「聞くスキル」が日常生活でも生きるようになったのですね。
いしかわ:プライベートでも「仮にこれが取材だったとして、相手からどんな情報を引き出せたら読者が喜ぶだろう?」と考える癖がついて、比較的どんな相手とも会話を続けられるようになりました。
ただ、最初は興味が持てないと思っていた相手でさえも、インタビューのつもりで話を聞いてみると、自分と重なるポイントを見つけられたり、書籍やインターネットにはない面白い情報を得られたり、いろんなメリットがあるんだなと。
基本的には、人と話すよりパソコンに向かう方が好きな性格は変わらないんですけどね(笑)。
外出、会食、チームランチ……同僚や取引先と何を話せばいい?ケース別に提案
ここからは「実践編」として、ビジネスの場面で悩みがちなケースごとに、「そこまで親しくない相手との会話のコツ」をお聞きしたいです。
ケース1:ひと回りほど年が違う新入社員と二人で外出。移動時間や訪問先での待ち時間、共通の話題が見つからない……!
いしかわ:年が離れている相手に対して一番避けたいのは、聞かれてもいないアドバイスをすること。ただでさえこちらが先輩だと相手は気を使うのに、アドバイスをすることによってお互いの上下関係が自然と強化されてしまいます。
なので私は逆に、軽い相談事を振ってこちらが相手から教えてもらう姿勢でいます。最近読んだ漫画など、ちょっとしたことでOK。話し好きな人であればいろいろ教えてくれるんじゃないかな。私だったら「最近ピラティス始めようと思ってるんだけど、おすすめのスタジオとか知ってる?」くらいのことを聞きますね。
聞き方に何かポイントはありますか?
いしかわ:「〇〇世代の間だと何がはやってるの?」と「世代」にフォーカスを当てるのではなく、「〇〇さんの中だといま何がブームなの?」と、あくまで相手に焦点を当てると良いと思います。世代で区切られても「そんなの人によってバラバラだし……」と困る人が多いと思うので。
年齢差があると、知らない答えが返ってきてしまい、結局話がつづかない.....なんてことになりませんか?
いしかわ:そうならないよう、その場で調べたり、おもしろそうなものがあったらネットショッピングで買ってみたり、なんらかの具体的なアクションをとれるといいですよね。
「最近の子の好きなものは分からないなあ」と拒絶したり、興味のない態度をそのまま出してしまうと、「じゃあ、なんで聞いてきたの.......?」と相手を困らせることにもなりますから。
ケース2:取引先の新しい担当者を含んだ複数人での会食。今後の取引のためにも、失礼なく当たり障りのない会話をしたい
いしかわ:普段の商談や打ち合わせでは仕事の話をしていると思うので、会食ではもうすこし肩の力を抜いた話ができるといいですよね。最近のニュースや業界の動向など、仕事に直接的には関係ないものの、少しだけ堅めの話題を選ぶのが無難かもしれません。
プライベートの話題は出さない方がよいでしょうか。
いしかわ:むしろ、した方がいいと思いますよ。
その場合、相手の趣味や好きなものをFacebookやXなどで事前にリサーチしておいたり、日頃から議事録ついでに相手の周辺情報をメモしたりしておいて、ここぞという時にその話題を振るのも良いと思います。例えば「釣りが趣味だとSNSに書かれていましたが、初心者でも楽しめる釣り堀ってご存じですか?」とか。
相手が取引先の場合、「失礼のないように」と緊張してしまうこともあると思います。そんな時は、どんなふうに乗り切りますか?
いしかわ:本当に緊張するような会食の場合、私だったら事前にスマホのメモに質問リストを用意しておいて、トイレに行くたびにチェックします。事前準備をしておけば、緊張も多少は和らぐのでおすすめです。
ケース3:会社の懇親会で立食パーティー。誰と何を話せばいい……?
いしかわ:正直、立食パーティーが得意な人ってあんまりいないと思うんです。自分と同じような心境の人を探すつもりで、「緊張しません?」とか、「こういう場が苦手で」とか、本音で話しかけてもいいんじゃないかと。
あとは、大勢と話すことは一旦考えずに、少人数の人と話すことを目標にした方が気楽かもしれません。せっかくの会社全体の懇親会なので、いつもメールやチャットだけでやりとりしている他部署の人や、同じ部署だけれどあまり話したことがない人を見つけて、普段の業務のお礼を伝えにいくだけでも十分じゃないかと思います。
お礼を伝えることであれば、気を楽にして話しかけられそうですね!お礼を伝えたあとは、どんな話題を振ると良いでしょうか?
いしかわ:基本的に、会社の人とは仕事の話をするのが一番楽だと思います。私だったら「最近お忙しいですか?」「最近はどんなことをされてるんですか?」と近況を聞きますね。
いきなりプライベートに踏み込むのは避けた方がいいと思いますが、「どのあたりのエリアから通われてるんですか?」「ご出身どちらですか?」とか、ちょっとした情報を尋ねてみて様子を見てもいいと思います。そこからお互いの共通点を探っていくこともできますし。
ケース4:アルバイト・パートの方も含めチームランチ。既婚/未婚や子あり/子なしなど属性がバラバラで、どんな話題を投げかければ場が盛り上がるのかわからない……!
いしかわ:このケースでも、一番無難なのは最近の仕事の話をすることだと思います。「他のチームのプロジェクトの中でいいと思ったものってありますか?」とか、「ぶっちゃけ、いまの仕事の進め方で気になっていることはありますか?」といったことを聞いてみるのはどうでしょうか。
チームランチは仕事とプライベートの中間にあたるような場だと思うので、普段の業務やミーティングではなかなか吸い上げられない意見や気持ちを聞けるチャンスにもなりえます。
その際のポイントは、相手にだけ本音を求めるのではなく、「私もざっくばらんに話すから、よかったらみなさんも話してくださいね」という姿勢でいること。心理的安全性が担保されている場でなければそういった会話はできないと思うので、威圧的な態度で聞かないことが重要です。
関係性によっては、仕事の話だと場の空気が硬くなってしまう場合もあるかと思います。もう少しカジュアルな話題を振りたい時のアドバイスはありますか?
いしかわ:私だったらケース1と同じく、軽めの相談ごとを自分から持ちかけてみますね。「いま引っ越しを検討してるんですけど、みなさんのおすすめのエリアってありますか?」とか。
その場にいるメンバーの属性とはあまり関係のない、どんな人でも自分の知見を出せる話題の場合、みなさん喜んで答えてくれる印象があります。次のランチ会があったときにも「結局あの話どうなったの?」と聞いてもらえるきっかけにもなるので。
「聞くスキル」がうまくいかない時の対処法
いざ、聞き手に回ることを意識してみてもみても、自分の話をあまりしてくれず、聞き手に回りがちな人もいますよね。もちろん強引に話を聞き出すのはよくないと思いますが、仕事相手や同僚の人柄をもう少し知りたいと感じた場合、どんな聞き方を心がければよいのでしょうか?
いしかわ:相手が聞き上手な人の場合、結局自分ばかり話してしまう、というのはあるあるですよね。そんな時は、「いつも〇〇さんに話を聞いてもらってばかりだから、今日は〇〇さんの話を聞きたいです」と素直に伝えるのがいいと思います。
素直に伝えてしまっていいんですね。
いしかわ:信頼関係がまだ構築できていない場合は、話し方のペースや声色を相手にすこし寄せてみる「ペーシング」を意識してみるのも良いかもしれません。「この人、なんだかテンポが合って心地いいな」と感じることで、安心して話しやすくなる場合もあるので。
もし、相手のテンションが上がって、目がぱっと輝いたり、話すスピードが速くなったりした様子があれば、それはその人が話したい話題を掴めた可能性が高いと思います。あとは相手の話を遮らず「聞くスキル」を存分に発揮してみてください。
話を盛り上げることだけがコミュニケーションではない
苦手な会社の飲み会や取引先との会食に出席しなければならず、「気が重いなあ……」と感じている人がいたら、いしかわさんはどんなメッセージを送りたいですか?
いしかわ:「自分にとって何かひとつでもプラスになる情報を取りに行こう」というマインドで参加してみると、すこしだけ気分が上向きになるんじゃないかと思います。
《画像:撮影:岩下周平》
あとは、「聞くスキル」を磨く練習の場だと捉えてみてもいい。
私も昔は、職場の飲み会で自分のいるテーブルだけ話が盛り上がらなかったりすると「私のせいだ……」と落ち込んでいたんです。でも、別に話を盛り上げて人を笑わせることだけがコミュニケーションではないですよね。それは「話す」のが得意な人に任せて、自分は一旦「聞く」に徹してみると気持ちも楽になると思います。
確かに、仕事上の付き合いであればなおさら、場を盛り上げたり相手と親しくなったりすることにそこまで重きを置かなくてもいいですよね。
いしかわ:そう思います。相手と仲良くなって話が盛り上がるかどうかって、聞き方の問題というよりも相性の問題であることが多いですよね。仕事上の付き合いであれば、「当たり障りなく話が聞けて、自分の欲しかった情報が得られればOK」くらいのマインドで相手と関わる方が、変に落ち込まずに済むと思います。
私の著書『聞く習慣』もそうですが、話の聞き方にまつわる本がたびたび話題になるのは、みなさんコミュニケーションに苦手意識を抱いているからだと思うんです。「立食パーティーなんて無理……」「雑談が苦手」と感じている人は、職場にもたくさんいるはずです。ですから、「上手に話さなきゃ!」とそこまで気を張らなくてもいいと思いますよ。
取材・文:生湯葉シホイラスト:二本松マナカ編集:はてな編集部