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高校の野球部が学童野球チーム招待 親善試合開催に込めた保護者向けの“裏テーマ”

Shizuoka

富士山をバックに記念撮影
富士高校野球部が学童野球の試合を運営

■富士高校で学童野球3チームが試合 野球部員が試合運営

静岡県富士市にある富士高校野球部は4日、学童野球3チームを招いて親善試合を開催した。試合の運営を野球部員が担当する珍しい取り組み。学童野球の子どもたちに競技を長く続けてほしい思いの他に、子どもたちをサポートする保護者へのメッセージも込められていた。

【写真】静岡市では県内初の女子野球チームが活動

富士高校野球部は野球振興活動や野球を通じた地域貢献に力を入れている。これまで地元の園児や野球未経験の小学生を対象にした野球教室を開催してきたが、今回は初めてチームに所属している小学生と交流する内容を企画した。

富士高校のグラウンドに集まったのは、富士市や三島市で活動する3つの学童野球チーム。3チームによる親善試合が開催された。野球教室も組み合わせ、試合のない1チームは順番に野球部員から守備や走塁のポイントを学んだ。

親善試合は運営の全てを野球部員が担当した。主審や塁審をはじめ、ボールボーイやバットボーイ、選手名のアナウンスなどに大人は一切かかわらない。同時に複数の選手の交代や守備位置の変更を告げられた主審の球児は内容を覚えられずに戸惑うシーンがあったものの、滞りなく試合を進行した。

ボールボーイも富士高校野球部が担当

■野球振興活動の先駆者 稲木恵介監督は2校で計47回目の活動

富士高校野球部の稲木恵介監督は前任の三島南を指揮していた頃から、野球振興活動に取り組んでいる。深刻な競技人口減少に危機感を抱き、野球未経験の園児や小学生と高校球児が交流することで野球を始める子どもを増やそうとしている。野球教室の開催は三島南で36回、富士高校では11回に上る。今回初めて、学童野球チームと交流した理由を説明する。

「野球の楽しさを知ってもらう競技普及の活動は軌道に乗ってきました。その活動を継続しながら、今まであまり接点を持てていなかった学童野球との交流も深めていこうと考えました。高校野球の競技人口を増やすには、野球をしている子どもたちに長く競技を続けてもらうことが一番の方法ですから」

高校球児が直接話をしたり、見本を見せたりすることで、学童野球の子どもたちは高校野球を具体的にイメージし、より身近に感じることができる。静岡県東部有数の進学校でもある富士高校の選手たちが野球の楽しさや上達するおもしろさを伝える意義は、甲子園を目指すだけではない高校野球の目的を示すことにもつながる。

試合を待つチームは野球部員が講師を務める野球教室

■保護者向けの“裏テーマ” グラウンドに“立ち入り禁止”

そして、稲木監督は今回の親善試合に“裏テーマ”も設けていた。学童野球の保護者を意識した狙いだった。

「保護者にはグラウンドに入らず、ゆっくりと子どもたちの活動を見守ってほしいと伝えました。日頃の仕事で疲れている保護者は日陰でうたたねしても構いません。学童野球の保護者は普段、色んな役割を担って大変ですから」

学童野球を語る時、保護者の役割は賛否が分かれる。近年は変化しつつあるが、長時間練習や保護者の当番を理由に野球が敬遠されるケースは少なくない。週末は朝から夕方まで丸一日練習や試合をして、保護者は付きっ切り。審判やグラウンド整備、試合のスコア付けや選手のアナウンスなど、練習や試合の補助を負担に感じる保護者は、子どもが野球に興味を持っていてもチームに入れることをためらってしまう。

こうした役割を子どもと一緒に過ごせる時間として捉え、積極的にチームに参加する保護者もいる。一方、負担に感じる保護者もいる。長年、学童野球にも関心を持っている稲木監督は「チームの選択肢が必要」と考えてきた。

「週末に目いっぱい野球をしたい家庭もあれば、練習は半日または土日のどちらかにして野球以外の時間も確保したい家庭もあります。練習をサポートしたい保護者も、練習中に別の用事を済ませたい保護者もいます。チームの特徴が違い、それぞれの家族の希望に合ったチーム選びができるようになれば、学童野球のイメージが変わって、競技人口を増やすことにつながると思っています」

前任の三島南から野球振興活動を続けている稲木監督(中央)

■賛否分かれる保護者の役割 「チームの選択肢必要」

稲木監督は学童野球が高校野球と決して無縁ではなく、課題を共有したり、発信したりすることで改善する部分があると考えている。例えば今回の取り組みでは、試合の準備や運営を全て担った野球部の姿を見て、学童野球の子どもたちは普段保護者が当たり前のように担当している役割の大変さに気付く。それにより、自分たちでできることは保護者に頼らない意識が芽生える。

学童野球における保護者の役割が競技人口減少の一因になっているという指摘は、現場の指導者たちも感じている。親善試合に参加した富士市の「大淵少年野球スポーツ団」を率いる鈴木克洋監督は、こう話す。

「野球をやりたいという子どもたちは多いです。ただ、土日が全て野球の時間になるイメージが強く、子どもをチームに入れるのをやめてしまう保護者は少なくありません。実際に子どもがチームに入ると、野球に興味を持ったり、グラウンドに来るのが楽しくなったりする保護者はたくさんいますが、学童野球に対する昔ながらのイメージが残っているのだと思います」

静岡県内では、活動時間を短くしたり、オフをつくったりしているチームが増えてきたという。鈴木監督も稲木監督と同じように「どん欲に勝利を追求するチーム、野球を楽しむことに重点を置くチームなど色んな選択肢ができれば、子どもに野球をやらせてみようと思う保護者が増えると感じています」と話す。

小学生の選択には保護者が大きく関わる。子どもが野球に興味があっても、保護者にマイナスイメージが強ければ、他のスポーツを選びかねない。野球少年・少女を増やす機会を失わないためには、学童野球チームが保護者に届けるメッセージも大切になる。

(間 淳/Jun Aida)

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