“天才は状態である”――春アニメ『左ききのエレン』原作者・かっぴーが明かす、“夢と才能”の向き合い方
毎週火曜24時~テレ東系列にて放送中のTVアニメ『左ききのエレン』。“天才になれなかった全ての人へ”というコピーが表す通り、才能というものにフォーカスした青春群像劇だ。何かに対して、真剣に取り組んできた人、夢を追いかけたことがある人にとっては、時に心をえぐるようなシーンがあるかもしれないが、その先に何か見えてくるものもあるはずだ。今回は『左ききのエレン』の原作者であるかっぴーさんに、漫画を描いたきっかけから、夢についてまで、じっくり語ってもらった。
【写真】『左ききのエレン』原作者・かっぴーが明かす、“夢と才能”の向き合い方
本気を出して諦める
──『左ききのエレン』を描こうと思った経緯を教えてください。
かっぴーさん(以下、かっぴー):描いた当時、僕はまだ会社員で、それこそ物語の舞台になっている広告業界で働いていたんです。そこではトップのクリエイターでもなく、どちらかと言うとパッとしない、その他大勢のクリエイターとして働いていたのですが、趣味で漫画を描いていたんですよね。同僚に見せて内輪で楽しむくらいのものだったんですけど、ある日、その同僚の一人が、デザイナーを辞めると言い出したんです。
それを止めたいという気持ちはありつつ、本人が決めたことだし、僕と同じでちょうど30歳になる年齢だったので、毎日毎日本気で働いて、30歳を前にした決断は、それはそれでカッコいいと思ったんです。それで「本気を出して諦める」ことを肯定したいと思い描いた漫画が『左ききのエレン』の短編です。
それまでは、ギャグ漫画を描いて笑ってもらう感じだったけど、初めて描いたシリアスな漫画で、それを描いたときに、これは物語として長編でも描けると思ったんですね。で、たまたまそのとき「note」という媒体で作品を公募していたので読み切りを描いたら、そこで賞をいただき、そこから連載にしようと思いました。
──描いたときに、自分のこれまでの経験を漫画にできるという感覚があったから、長編でも描けると思ったのですね。
かっぴー:この業界のことや美大生やクリエイターのことだったら、誰よりも描けるなというのは、確かにありましたね。
──その業界での経験がないと、描けないような内容だと思いました。内部のことがすごくリアルに描かれていたので。
かっぴー:実際に「社会人描写がちゃんとしている」と言ってもらえることも多かったです。イメージで描かれている漫画もあると思いますけど、その点、僕はよく知っていることなので、「営業ってこういう感じだよね」というリアルさがあると思うし、そこには自信がありました。
──編集&デザイナーと営業の衝突とか、出版社ではよくあることですからね。また、キャラクターがとても魅力的で、描写もリアルなので、本当にこういう人がいそうだなと思いました。どのキャラクターも自分の一部が入っているという発言もされていたと思うのですが、キャラクターを生み出すときに大事にされていることはどんなことですか?
かっぴー:自分でキャラクターを作っている、生み出しているという感じでもないんですよね……。「そこにいるキャラクターを出す」という感じなのかな。登場する目黒広告社とかは頭の中にあるので、まだ出てきていないキャラクターも、そこで働いている感じなんです。
たとえば、岸あかり(カリスマ的人気を誇るファッションモデルで、桁違いの才能の持ち主)も、作ろうと思って出したキャラではなく、普通に出てきて、学生時代編にしか登場しないと思ったら、結局最後まで出てきたり。そういう事がよくあるんですよ。出てきたあとに、キャラクターとぶつかったり、あるいは仲が良くなったりして、カメラの前に残り続けることが。
──キャラクターの表を作って、設定を箇条書きにするとかではないんですね。
かっぴー:設定とかは考えたことがないです。出てきた順に、このキャラクターだったらどうするかなというのを考えていくと、キャラクターになっていくので、ちょっと独特なのかもしれません。それもあってか、僕のキャラクターは誕生日をほとんどわからないんですよ。誕生日って、設定で決めようと思わないと決められないので(笑)。
──では、営業の部署にはこういう人がいて……くらいのところから始まっていくのですね。
かっぴー:そうです。その部署の人を出そうと思ったり、岸あかりなら、モデルの子を出そうと思ったところから始まる感じです。神谷(目黒広告社のクリエイティブディレクターで、光一の先輩)も、第1話を書いている時点では、それ以降に出る予定もなかったんです。
──だいぶ主要キャラですよね(笑)。
かっぴー:そうなんです(笑)。
──きっかけがあって登場してからは、勝手にキャラクターたちが動いて、育っていくんですね。その中に自分の一部があるな、という感覚もあるのですね?
かっぴー:大抵のキャラクターには、自分の要素が入っていると思います。ただ、岸あかりとかは、まったく共感できないですけどね(笑)。理解はできるという感じです。
──エレン(左ききの天才画家)は、どうですか?
かっぴー:エレンも最初はわからなかったんですけど、途中からわかるようになってきました。自分は『左ききのエレン』を描き始めて、会社員でなく漫画家になったので、そこが大きかったと思います。
描いているときも、最初は光一(目黒広告社に務めるデザイナーで、エレンと高校時代に出会う)のことばかりで、光一のことしか見えていなかったんですけど、だんだん光一と距離が生まれてきて、今はどちらかというとエレンのほうに共感できるようになっていったんです。
──社会人とクリエイターだと、まったく視点が変わりますからね。
かっぴー:作家として食っていく大変さとかがわかるので、光一は、代理店に勤めながら贅沢なことを言ってるな、みたいな気持ちになるんですよ(笑)。そういう行ったり来たりはありますね。
だから描き始めたときは、光一という男がエレンに救われる話なんだろうなと思っていたんですけど、途中から、エレンも光一に救われているんだなと思うようになったんです。それがわかったのは、僕が専業で漫画を描き始めたからで、会社員の片手間で描いていたら、こういう結末にならなかったと思います。
──そうやって話まで変わっていくのは面白いですね。
かっぴー:光一が子育てに悩まされているとかも、結構自分の世界も入っているから、そういう意味では、そのときの自分を投影できる気持ちを描いているところはあるかもしれないですね(笑)。
チャレンジするのにもハードルがあると思うんです
──漫画を読んで、少し気になったことも聞いていきたいのですが、物語を漫画に落とし込むとき、漫画というより映像が浮かんでいるのではないか思ったのですが、実際はどうなのでしょうか?
かっぴー:仕事でCMの絵コンテなどを描いていたこともあって、もともと映像作品は好きなんです。漫画に関しての興味は人並みで、読んでいる漫画の量も人並みなのですが、映画は人より観ている気がするので、根本にあるのは映画なのかなと思います。
これは珍しいと思うんですけど、高校生くらいのとき、観た映画をメモしていて、撮り方とかを書いていたんです。あそこのシーンは、きっとこうやって撮っているとか。あと、こうやって撮ることによって、どんな効果になるのかについても考えていて、印象的になるとか、緊迫感が生まれるとか、映画の画作りに関してメモをしていたんですよね。そういうことをクセでやっていたので、その影響はあったのかもしれないですね。それを再現する画力がなかったけど、理想があって、それを描こうとはしていたと思います。
──それは読んでいてすごく伝わってきました。こういう画を描きたいんだろうなと。描けないから、そこから逃げて、画作りを変えるということをしていないことが素晴らしかったです。
かっぴー:自分が絵が下手だからわかるんですけど、やっぱり描ける絵を描こうとするんですよね。僕、サインで絵を描くとき、キャラは絶対に左を向いているんですよ(笑)。でも、漫画では理想の画があって、それを描こうと思っているから、苦手な構図だから絵的には事故っているけど、描こうとはしているんです。それが伝わったから今があるのかなと思っています。
──あとはカメラワークですよね。感情が伝わってくる持って行き方をしていると感じました。物語とセリフの面白さが前提ではあるのですが、カメラワークと、そこからのキャラクターの表情による感情の表現がすごく上手いなと思いました。
かっぴー:それも映像からなんでしょうね。
──画力もどんどん上がってきているじゃないですか。それは訓練をしたのですか?
かっぴー:見えないところではしていないですよ(笑)。全部見えるところでやっていて、全部作品にしているんです。だから世に出ているものがすべてです。落書きとかもしないですから、描いたものすべてが世に出ていると言っていいと思います。でも、それは珍しいかもしれないですね。正直、上手くなっているとはあまり思ってないですけど、キャラクターに慣れてきているなという感じはします。
──でも、明らかに変わってきているとは思います。
かっぴー:僕としてはちょっと戻したいんですけどね(笑)。背景をちゃんと描き始めたのですが、背景があると本当に大変で……。キメのところにしか背景がなかったんですけど、ここに背景があるのに、ここにないのはおかしいなと思い始めてしまったりして。だから、当時のあの絵で良かったのに、自分で絵のハードルを上げたことで、同じ内容なのに大変になってきているという(笑)。
──あと、これはどの世界でもあり得ることだと思いますが、たとえば自分の理想に届いていないものは出したくないとか、少し前の自分の絵が恥ずかしいと思う人もいると思うのですが、そのあたりはどうだったのでしょうか?
かっぴー:僕にも客観性はあるので、上手い絵ではないことはわかっているんですけど、自分の絵が嫌いではないんですよね。画力と言われたら拙いけど、自分はこの絵が好きなので、第1部の初期の絵なんか、さすがに酷いけど直視できるというか。このときはこれがいいと思ったんだよね、くらいで、あまり恥ずかしくないんです。
しかも、それが良かったのではないかなと思っているんです。漫画のメッセージにもなってくるんですけど、「本気を出して諦めろ」というのを、何で言いたかったのかと言うと、チャレンジするのにもハードルがあると思うんです。恥ずかしいとか、怖いとか、否定されたらどうしようとか。いろんな理由でやりもせずに諦めている人が本当に多いから、チャレンジしてほしいんですよね。もし、それができない人は、「俺の初期の頃の絵を見ろ! あの絵でチャレンジしている奴がいるんだから、チャレンジしてみたらいいよ」と思います。「まだ人に見せるにはなぁ……」ってみんな言うんです。これは漫画に限らずですけど。でもそうではなく、俺は全部見せてやってきたから、そのほうが面白いと思うんですよね。だから挑戦する人が増えればいいなと思って、この絵をずっと世に出し続けています(笑)。
──僕も、あの初期の絵がすごくいいと思っているんです。すごく伝わってくるので。
かっぴー:当時のあれが届いたということですからね。上手くて伝わらない絵より、下手でも伝わったほうが良いに決まっているので、伝えることが大事だと思います。
──せっかくなので、AIについても伺いたいのですが、AIで絵が描けるようになったことによる、クリエイターへの影響はあると思いますか?
かっぴー:クリエイターが道具として使う分には楽になると思うんです。それとトップ層には影響がないと思うんです。連載を持っていて、ファンも持っている人たちは、いくら模倣されたとしても、本人の絵に価値が生じているから、問題はあるけれど、ダメージにはならない。
でも、そうでないところだと、たとえばコミカライズとかはAIの仕事になってしまう可能性はなくはないと思っています。いろいろ細かい絵を描く仕事というのは減るかもしれないですけど、細かい仕事をしようと思って漫画家になる人はいないと思うし、夢があって、自分の作品をドカンとやりたいと思っている人たちからしたら、最初からAIは競合ではないのかなと思っています。
──それは漫画じゃなくてもそうですよね。
かっぴー:同じですね。本当にちょっとした仕事、替えのきく仕事、君じゃなくてもいいんだけどねと思われている人は危ないと思います。
夢と生きていくすべての人に観てほしい作品です
──『左ききのエレン』では、天才と凡人、もしくは秀才が大きなテーマにもなっていると思いました。才能がある人が、自分に合ったものを見つけたから、集中が持続すると思うんです。その才能を見つけるにはどうしたらいいんでしょうか? これは手当たり次第やってみるのがいいのでしょうか。
かっぴー:見つけ方ですけど、おっしゃる通り、やってみるしかないと思います。多分、やってみている人も少ない気がするんです。たとえば漫画家になりたいなと思っている人がいて、実際に原稿を描き上げて、出版社に持っていった人って、すごく少ないと思うんですよね。僕は、誰しもが何かしらの才能を持っていると思っているし、天才というのを、その人の性質というよりかは、その状態だと思っているんです。「今は良い仕事に恵まれて、天才と呼ばれている状態だよね」ということなんですけど、多くの天才は、自分とは違う存在ではなく、天才という状態になっているだけであると。だから、それを見つけるのがいいし、そうなるためには、やっぱり気になったものを全部チャレンジしてみるのがいいと思います。チャレンジするだけで、ダメだとわかったら可能性をひとつ潰せるわけだから、それでいいんです!
あと欲を言えば、それを若いうちからやっていく。僕は30歳から漫画を描き始めて、今40歳になりましたけど、才能が見つかれば遅くはないので、やってみることだと思います。
──そこで向いてないと思ったとき、どう諦めればいいと思いますか?
かっぴー:どうなんだろう。信じ続けるのも大事だけど、最後は自分で決めるしかないのかな。漫画であれば、たとえば、ひとつの出版社、1人の編集者に見せて「才能ないよ」と言われたとて、それがすべてではない。10人目で「君には何かがある」と拾ってくれることもあるかもしれない。そこで、どこまで頑張るかですよね。それが50人に聞いて、どこにも引っかからなかったら、さすがにどうかなと思うけど、やっぱりそこは自分で決めるしかないのかなぁ。
──「夢に賞味期限をつけろ」という言葉もありましたしね。
かっぴー:年齢は関係ないですけど、いつまでもやっていても……というのはありますからね。
──TVアニメ『左ききのエレン』についても少し伺います。アニメ化されると聞いたときの率直な感想を教えてください。
かっぴー:もちろん嬉しかったですけど。こういう話って、途中でなくなったりもするので、フルで喜んでいいんだろうかと思いながら、本当かな?本当かな?と思っていました。でもさっき、番宣みたいなものの収録をして、本当なんだなと思ったので、今日フルで嬉しかったです(笑)。
──アニメに期待することは、どんなことですか?
かっぴー:読者にとっては、好きで読み続けて良かったなと思ってもらえるというのがひとつと、名前は聞いたことがあるくらいの人や本当に初めての人に観てもらって、知ってもらえることが楽しみですね。メジャーな作品ではないので、自分が趣味で描き始めた本当に小規模な活動が、運が良いことに少しずついろんな展開があり、読む人が増え、10年かけて少しずつ大きくなってきた作品なので、それがもう一段階広がると思うと、すごく楽しみです。
──役者さんのお芝居を見ていかがでしたか?
かっぴー:千葉翔也さんも内山夕実さんも、ものすごいこだわりがある方で、自分の作品として向き合ってくれているんです。頼まれたからやりましたではなく、自分の代表作になるように、誰がいいと言っても、自分の基準で、自分がいいと思うまでこだわる人たちなんですよね。こちらが思う以上のハードルでやってくれているので、すごく楽しみですし、すごく良かったです。
──では最後に、夢を目指している人へメッセージをお願いします。
かっぴー:夢を目指している人も、夢に破れた人も、夢が見つからない人も、人間って夢と関わって生きていかないといけないんですよね。そこで折り合いをつけるのか、一緒に肩を組んでいくのかわからないけど、夢と生きていかなければいけないので、そういうすべての人に観てほしい作品です。ぜひ、怖がらずに観てください。