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国立西洋美術館でパレスチナ人虐殺反対のパフォーマンス、公安による介入も

タイムアウト東京

国立西洋美術館でパレスチナ人虐殺反対のパフォーマンス、公安による介入も

2024年3月11日、「国立西洋美術館」で開催された「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」の内覧会で、パレスチナでのイスラエル政府による「ジェノサイド」に反対の意を示す抗議活動が実行された。公安が抗議活動を制止する場面もあり、緊迫する事態となった。

国立西洋美術館のオフィシャルパートナーである川崎重工株式会社が、イスラエルと武器貿易を行うことに対する抗議だが、同館は関知しておらず、展覧会主催者や参加アーティストにも知らされていない、全くの予想外の出来事であったという。

Photo: Ryuichiro Satoプレス内覧会でまかれたビラ裏
Photo: Ryuichiro Satoプレス内覧会でまかれたビラ裏

抗議に参加したのは、展覧会参加アーティストの飯山由貴、遠藤麻衣らと、その協同制作者などによる「展覧会出品作家有志を中心とする市民」。プレス内覧会では抗議の趣旨を書いたビラがまかれ、垂れ幕を垂らして武器輸出の即時停止を求めるデモンストレーションが行われた。一方、パフォーマンスに対し、参加アーティストの一部が「主張が長過ぎる」と抗議する場面もあった。

Photo: Ryuichiro Sato一般向け内覧会でまかれる前に阻止されたビラ

一般向け内覧会では、関係者挨拶が終わった後、展覧会場入り口で、ビラをまこうとした有志らが、公安によって館内での活動を控えるよう求められ、会場から連れ出される場面も。

Photo: Ryuichiro Sato公安聴取の脇で掲げられる垂れ幕

しかし、現場での公安による聴取が進められる一方で、垂れ幕が掲げられたり、展覧会会場入り口では遠藤らによるパフォーマンスが続行されたりした。参加アーティストの遠藤によれば、今回のパフォーマンス参加を呼びかけられたのは展覧会開始直前。「圧倒的な非対称の関係の下でのジェノサイドは容認できない」との思いから、今回の参加を決めたという。

ビラによれば、パフォーマンスの趣旨は「イスラエル政府のジェノサイドに強く、強く反対」すること、そして「私たちがいるこの国立西洋美術館のオフィシャルパートナーである川崎重工業株式会社が『防衛省にイスラエルの武器を輸入・販売しよう』としている」ことを踏まえ、「国立西洋美術館は、川崎重工業株式会社に対し、イスラエル武器輸入・販売を取りやめることを働きかけてください」と呼びかけるものであった。

国立西洋美術館のコレクションの基礎を築いた松方幸次郎が、川崎重工業の前身である川崎造船所の社長だったのは周知の事実。松方によるコレクションは「第一次世界大戦時の世界的な商船不足を補う商売」などによる「帝国主義下の戦争特需の利益で行われたコレクション」であり、慰安婦問題などを否定する歴史修正主義者が「勢力を伸ばし」ていることも鑑み「無批判に賞賛することは難しい」と前述のビラは訴える。

そのため、川崎重工業による武器輸入は松方や戦時下の日本の植民地支配などに正当性を与えることになるため、国立西洋美術館という文化芸術における重要な施設がその正当化のために利用されることを拒否する、というのが抗議者の主張だ。もちろん、それは日本の過去に対してだけでなく、今後さらに多くのパレスチナ人が虐殺される可能性を妨げるためでもある。だからこそ、美術館だけでなく、鑑賞者や作品なども含めた全ての人を利用しないでほしいという意図も込められているのだ。

この抗議の趣旨やその方法に関しては賛否の分かれるところだろう。しかし、これがコンテンポラリーアートや近代美術を常設展示する美術館ではなく、これまで現代美術の本格的な展示がなかった国立西洋美術館で起きたことだからこそ意味がある、という考え方もできよう。

公安が動いたことは、このパフォーマンスが主張している通り、戦時下の日本での検閲を再演しているかのようでさえある。今回の出来事は、芸術と政治が無縁ではなく、むしろ不可分な側面があることを強烈な形で教えてくれているのだ。

Sato Ryuichiro

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