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アリスとは違う谷村新司ソロの味わい方!多彩な音楽性とヒット曲が同居する「喝采」の魅力

Re:minder

1979年04月20日 谷村新司のアルバム「喝采」発売日

谷村新司の誕生日となる12月11日に復刻発売


アリスのオリジナルアルバム10作品が2024年6月に復刻発売され、9月にはライブアルバム7作品がやはり復刻発売された。そして谷村新司の誕生日となる12月11日には、谷村の初期ソロアルバム10作品が最新リマスター盤として復刻発売される。

今回発売されるのはかつて東芝EMI(現:ユニバーサル ミュージック)から発表されたファーストソロアルバム『蜩』(1974年)から『喝采』(1979年)までの5枚と、ポリスターに移籍後の第1弾『昴 -すばる- 』(1980年)から『EMBLEM』(1983年)までの5枚で、『昴 -すばる- 』と『海を渡る蝶』(1981年)には新たにボーナストラックもつく。また、それ以降のソロアルバムも2025年に入って順次リリースされるという。

バンドメンバーのソロアルバムというと、グループ活動のアクセントであったり、その活動の幅を広げるためのチャレンジといったプラスアルファ要素として制作されることが多いはず。しかし、谷村新司のソロアルバムは必ずしもアリスの余技として制作されたとは思えないのだ。

アリスとしての活動と並行してソロアルバムを発表


谷村新司が最初のソロアルバム『蜩』を発表したのは1974年だが、この時のアリスは結成2年目で、最初のヒット曲「今はもう誰も」(1975年)も出ておらず、これといった有名曲も無い、知る人ぞ知るライブバンドだった。にもかかわらず、谷村新司はアリスとしての活動と並行して『海猫』(1975年)、『引き潮』(1976年)、『黒い鷲』(1977年)と精力的にソロアルバムを発表していく。

今思えば、この時期の谷村新司のソロ活動はアリスというグループを成功させるためのキーを見出そうとする彼なりの試行錯誤のひとつだったのではないか。ファーストソロアルバムの『蜩』からは比較的初期アリスに近い音楽性を感じるが、その後のソロでは、谷村がプライベートで傾倒してきたであろうアメリカンスタンダード、ジャズ、シャンソンなど、多様な音楽のエッセンスが強く感じられる。

もちろん、アリスの楽曲でもアメリカンミュージックなどの影響は感じられるが、谷村新司のソロアルバムでは、アリスで垣間見せる以上に大胆に彼自身の音楽的嗜好を見せることで、彼のパーソナルな音楽性を大胆に打ち出している。この時期の谷村新司は、アリスの作品と自らのソロ作品にあえて異なる方向性を持たせることで、それぞれのテイストが共鳴するポイントを見つけ、そこに自分たちのオリジナリティを生み出そうとしていたのかもしれない。

トップグループとしての地位をゆるぎないものとしたアリス


ちなみに同じ頃、堀内孝雄もソロアルバムに力を入れていた。1975年にファーストソロアルバム『言葉にならない贈り物』、1977年にセカンドソロアルバム『忘れかけていたラブ・ソング』を発表し、やはりアリスと自分個人の音楽性との距離感を計る作業をおこなっている。こうした彼らのソロ活動がアリスのブレイクに無関係だったとは思えないのだ。

アリスが大ヒット曲「冬の稲妻」を生み出したのは1977年10月のこと。翌1978年に入ると「涙の誓い」「ジョニーの子守唄」「チャンピオン」とビッグヒットを連発し、トップグループとしての地位をゆるぎないものとした。そして、アリスが本格的にブレイクしたこの1978年に、谷村新司と堀内孝雄のソロ活動でも画期的な成果が表れる。

谷村新司の最大のエポックとなったのは山口百恵に提供した「いい日旅立ち」が大ヒットしたことだ。20世紀の名曲として今も聴き続けられているこの曲によって、谷村新司のソングライターとしての評価が定着することになった。また、同年8月に発表された堀内の最初のソロシングル「君のひとみは10000ボルト」は、資生堂キャンペーンのタイアップもあってチャート1位を記録する大ヒットとなる。

なお、谷村新司がソロシングル「陽はまた昇る」を出したのは堀内のソロから約1年後の1979年のこと。こちらは「君のひとみは10000ボルト」のような大ヒットにはならなかったが、心にしみる谷村新司の代表曲のひとつとして愛され続けている。

アリスのブレイク後に発表された谷村新司のソロアルバム


しかし、谷村新司と堀内孝雄のソロ活動が充実していくに連れて、それぞれのソロ活動の成果を還元してアリスをより進化させていくというプラス効果は次第に薄れていってしまったような気がする。

アリスのブレイク後に発表された谷村新司のソロアルバムは、そこから伝わってくる音楽性がアリスとより近いものになっていったように感じられるのだ。特に、大ヒットとなったソロ曲「昴 -すばる-」をタイトルにしたアルバム『昴 -すばる-』以降のソロアルバムからは、それまで聴き手にとってもひとつの座標となっていたアリスの音楽との距離感が次第に計りにくくなっていった。

実際に、アリスの活動は1981年で一度終止符が打たれることになり、それ以降の谷村新司と堀内孝雄はソロアーティストとして活動していく。その意味で谷村新司の『蜩』から『黒い鷲』までのソロアルバムと、『昴 -すばる-』以降のアルバムは異なるスタンスを持った作品として聴かれるべきなのかもしれない。

初のシングル曲「陽はまた昇る」も収録されている「喝采」


こうした谷村新司のソロアーティストとしてのスタンスの変化を追っていく時に、特に興味深いアルバムが『喝采』だ。

この作品が発表されたのは、トップグループとしてのアリスの評価が確立した1979年で、谷村新司として初のシングル曲「陽はまた昇る」も収録されている。つまり、ソロではあくまでアルバムアーティストとして勝負してきた谷村新司が、シングルヒットも射程に入れたという点で、その後の『昴 -すばる-』などに通じるコンセプトをもったアルバムといえる。

しかし、『喝采』を聴いてみると、アルバムのあちこちにドゥーワップ、ジャズ、ボサノバ、シャンソン、ラテンなど谷村新司にとってのルーツミュージックのテイストが色濃く感じられる。『昴 -すばる-』以降の、多彩な音楽性を取り入れてはいるけれど、その要素を昇華させてアルバム作品としての完成度を追求していこうとする姿勢と比べると、よりナチュラルに自分の素を見せていこうとする意志が感じられる。作品性の追求と彼の原点の両方のベクトルの軋みから生まれるカオスの気配。それがこのアルバムの独特の魅力になっているのではないか。

谷村新司のソロ活動のターニングポイントに生まれた作品である『喝采』。このアルバムを交差点として、それ以前の作品と以降の作品のテイストの違いを感じてみるのも谷村新司のソロアルバムの味わい方のひとつではないかと思う。

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