【小南敏也監督(袋井市出身)の「YOUNG&FINE」】第29回富川国際ファンタスティック映画祭でNETPAC賞。決定直後の舞台あいさつに小南監督、新原泰佑さん登壇
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡東宝会館で6月27日から上映中の小南敏也監督(袋井市出身)「YOUNG&FINE」と、7月12日に行われた小南監督、主演の新原泰佑さんの舞台あいさつを題材に。
夏の草いきれ、港町の潮の香りにまぶされた、高校2年男子の性欲と愛の葛藤。笑えるほど切実でとても甘美とは言えないけれど、誰もが過去の自分を重ね合わせてしまう心情と羞恥が見事に描かれている。この文章を書いている時点で鑑賞してから24時間たっているが、いまだにさまざまなシーンに対するいとおしさがこみ上げる。
白枠付きの、ちょっとだけ黄ばんだプリント写真のようだ。そこには高校時代の自分と仲間たちがちょっとピンぼけで写っている。何かがあったかもしれない、何もなかったかもしれない。自分でもよく覚えていない。だけど、見つめているとじんわりと脳みそが温かくなる。そんな映画だ。
ラグビー部の灰野(新原泰佑さん)は、「一線」を越えさせてくれない恋人玲子(新帆ゆきさん)にもんもんとさせられている。そこへ、風変わりな女性高校教師・伊沢(向里祐香さん)がやってきて、灰野の家に下宿することになる。伊沢は灰野の通う高校の卒業生で、産休中の教師の代わりに生物を教える。どうやら東京で就職した灰野の兄と同級生らしい。ひとつ屋根の下で暮らすことで、仲良くなっていく灰野と伊沢。そんな二人に嫉妬する玲子。自分の気持ちをよく分かっていない灰野は伊沢と玲子の間で揺れ動く。
山本直樹さんの原作漫画を、映画監督城定秀夫さんが脚本化。「ビリーバーズ」(2022年)と同じように男女の三角関係を描いている。外界から遮断された世界を舞台にした、性愛をダイレクトにテーマにした「ビリーバーズ」に対し、男女の人数を入れ替えた「YOUNG&FINE」は3人がその外側の世界と緩やかにつながっている。
「外部」との関係が、トライアングルの形に大なり小なり影響を与える。この点で、ひたすら3人の関係が煮詰まっていく「ビリーバーズ」の逆側に置かれた物語のように感じられる。
山本さんの作品は「あさってDANCE」の印象が強いからかもしれないが、演劇的なせりふのやりとりを感じることがよくある。城定監督の脚本はそのあたりの「呼吸」のようなものを、巧みにすくい上げている。小南監督の演出や画面作りも、どこか「舞台」を感じさせる場面が多い。固定した画面の中で展開される、どこまで続くんだと思える会話のキャッチボールが実に楽しい。
「YOUNG&FINE」は、7月13日まで開催された第29回富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭で、アジア映画の普及などを目的に設立された団体NETPACが選ぶNETPAC賞に選ばれた。12日の舞台あいさつは、決定の報が届いた直後。登壇した小南監督、新原さんの表情は喜びに満ちていた。いくつか発言を抜粋する。
小南:なかなかとがった作品だから、受賞についてはかなりうれしいですね。これがきっかけで上映が長く続けばいいなと。(出身地の)静岡県内での舞台あいさつは初めてなんです。僕は掛川工業出身ですが、浜松の映画館によく通っていた。その時のことを思い出します。
新原:(主人公の灰野は)見ていただいたとおり、ハキハキしゃべる感じではないんです。原作や脚本を読んだときには自分との差を感じました。僕より「陽キャ」ですよね。でも読み終わって「ぜひやりたい」と思い、オーディションでめちゃくちゃしゃべりまくりました。普通はせりふを言うだけなんですが。選んでいただいて、とてもうれしかった。
小南:オーディションの時、新原君はすごく目がキラキラしていてオーラが出ていた。もちろん芝居も申し分なくて。僕、(新原さんの)顔が好きなんですよね。編集していても、できるだけ(顔が写る場面を)長く使いたくなっちゃって。
新原:(原作について)山本直樹さんの漫画はそれ自体が映画っぽい。撮影時には、その一コマを表現したいという熱量、愛を感じました。初号試写で初めて山本さんにお会いしましたが、「この方がこれを描いているんだ」と分かるような気がしました。ただ者ではないオーラが出ていましたね。
(は)
<DATA>※県内の上映館。7月13日時点
静岡東宝会館(静岡市葵区、17日まで)