2025年の遺族年金の改正、終身給付が5年だけに減る?
現在、世界では女性の社会進出が進んでいます。イギリスやイタリアといった国では女性の指導者が誕生し、2024年11月には世界最大の経済国であるアメリカにおいても女性大統領が誕生するかもしれません。日本においても政界・経済界において、女性のリーダーが増えてきました。
反面、相変わらず「男(性)は社会で、女(性)は家庭で」という前時代的な考え方に基づいて整備された仕組みがあります。その代表格が公的年金です。特に年金加入者の夫婦において、片方にもしものことがあった場合に支給される遺族年金制度は、「遺されたのが夫か妻か」という男女差によって年金支給額が変わる仕組みを未だ採用しています。この遺族年金の男女差を是正するという年金制度改革案のニュースが入ってきました。どのような内容で私たちの生活にどう影響するのか解説していきます。
公的年金加入者が受け取れる「遺族年金」とは
まず現行の遺族年金制度を把握しましょう。
遺族年金は、国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなった時、その方に生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。亡くなった方の年金加入状況において、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」に分かれます。
遺族基礎年金
国民年金の被保険者であった方が受給要件を満たしている場合、亡くなった方によって生計を維持されていた「子のある配偶者または子」が年金を受け取ることができます。
(遺族基礎年金の受給要件)
(1)子のある配偶者
(2)子(※)
※子とは18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級か2級の状態にある方
遺族基礎年金の年金額(令和6年4月分から)は81万6000円+子の加算額となります。
子の加算額
・1人目および2人目の子の加算額 各23万4800円
・3人目以降の子の加算額 各7万8300円
遺族厚生年金
厚生年金の被保険者であった方が受給要件を満たしている場合、亡くなった方に生計を維持されていた遺族が、遺族厚生年金を受け取ることができます。
(遺族厚生年金の受給要件)
(1)子のある配偶者
(2)子(18歳になった年度の3月31日まで。もしくは20歳未満で障害年金の障害等級1級か2級)
(3)子のない配偶者(子のない30歳未満の妻は5年間、夫は55歳以上に限り受給可能。受給開始は60歳から)
(4)父母(55歳以上に限り受給可能。受給開始は60歳から)
(5)孫(18歳になった年度の3月31日まで。もしくは20歳未満で障害年金の障害等級1級か2級)
(6)祖父母(55歳以上に限り受給可能。受給開始は60歳から)
引用:遺族基礎年金・遺族厚生年金ともに日本年金機構
なんとも分かりにくい仕組みです。遺族年金に限らず、公的年金の最大の問題点がこの「分かりにくさ」です。遺族厚生年金の受給要件は(1)を最優先にし、少ない数の条件が満たされなければ次点が適用されます。
つまり、子のある配偶者がいなければ(2)の子どもに受給権が移り、子どもがいなければ(3)の配偶者に移るといった仕組みです。そして(3)は上記の要件内にある通り、子のない30歳未満の妻は5年間、夫は55歳以上に限り受給可能で、受給開始は60歳からというのが現行の仕組みです。この部分が年金制度の改正にて変わります。
2025年の年金制度改正で遺族年金はどう変わる?
厚生労働省は2025年の年金制度改正で(3)の男女差を是正します。「夫だから」「妻だから」という条件が撤廃され、子どものいない現役世代は5年間の有期給付となります。今や社会で「男だから・女だから」を口にすれば怪訝な眼で見られますが、ようやく年金制度が追い付いたといえるでしょう。
とはいえ条件によっては一生涯の保障だった遺族年金が、基本的に5年間の有期になることに「改悪だ!」と反対立場を取る声も数多くあります。
年金制度の特徴ですが、現在受給している人が不利益を被らないように、充分な経過措置を置きます。具体的には「〇年後の〇〇年〇〇月以降亡くなった場合の遺族年金は新制度を適用」という具合です。
新制度は2024年の通常国会に提出される、公的年金制度の改正法案に盛り込まれます。成立・施行までの過程で与野党による協議段階があったり、一般の方々に意見を求めるパブリックコメントが設けられたりします。つまり現在報じられている形で成立するとは限りません。
多くの人の生活に影響がある年金制度などは、本格的な議論に入る段階で特定のメディア(多くは大手新聞社かNHK)が観測気球を上げ、社会の反応を観測します。現在、遺族年金の改正はこの観測気球の段階です。
公的年金制度改革は「財政検証」をもとに進む
公的年金制度における制度改革は、5年に1度行われる「財政検証」が土台となります。この検証結果に基づいて、年金制度改革が進められます。2024年8月現在(記事執筆時)、財政検証は既に終了しています。財政検証が終わった直後に今回の遺族年金のニュースが飛び込んできたというタイミングです。
まずはねんきん定期便で現状をチェック
公的年金の支給想定額は、毎年誕生日前後に手元に届く「ねんきん定期便」で確認することができます。精緻なライフプランを作るのが理想ですが、そこまで手間をかけなくても「今の制度だったら自分の老後は大丈夫かな?」を折に触れて確認するようにしましょう。
国は「貯蓄から投資へ」を推奨しています。ただ2024年8月2日のように、日経平均が2000円近く下落する日があったり、そもそも物価高で貯蓄ができなかったりという日々の不安をたくさんの方が持っているでしょう。
ライフプランにおいて、不安は「全容が見えないこと」と類似性があります。見えない不安は、さまざまな情報を調べて可視化することによって和らげることができます。もしもの時に備えた遺族年金がこの先どう変わっていくのか。それにより自分のライフプランはどう変わるのか。本メディアのような有益な情報を適宜アップデートしながら、自分なりに備えていきましょう。