歌舞伎の舞台で実際に使用した、竹本の太夫の語る詞章と三味線方の譜が書かれた床本をWebで公開 人間国宝・竹本葵太夫からのコメントも
公益財団法人松竹大谷図書館が、2024年10月18日(金)午前10時より、歌舞伎の舞台で実際に使用された、竹本の太夫の語る詞章(ししょう)と三味線方の譜が書かれた「床本(ゆかほん)」をWeb上で閲覧できるデジタルアーカイブを公開することを発表した。
竹本床本とは、江戸時代、人形浄瑠璃の太夫・竹本義太夫(慶安4[1651]年~正徳 4年9月10日[1714年10月18日])が創始した義太夫節は一世を風靡し、人形浄瑠璃の作品が歌舞伎にとり入れられ、義太夫狂言が生まれた。
義太夫狂言で義太夫節を演奏するのが「竹本(たけもと)」の太夫と三味線。太夫の語る詞章が書かれた本を「床本(ゆかほん)」といい、舞台上手にある床(ゆか)で太夫が見台に置き使用する。義太夫狂言の三大名作とされる『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』が令和7(2025)年、松竹創業130周年を記念して歌舞伎座で一挙上演されるが、竹本はその上演には欠かせない存在となっている。
松竹大谷図書館では、戦前から戦後にかけて活躍した歌舞伎の竹本の太夫である、初世竹本鏡太夫と初世豊竹寿太夫が実際の舞台で使用した「竹本床本」を所蔵している。これらの資料は、義太夫の詞章や節付けのほか、語り出しのきっかけとなる俳優の台詞や演技、竹本の三味線の譜、演出に関する書き込みがある貴重な資料で、現在も歌舞伎座などに出演している竹本の実演家に上演の参考資料として使用されている。しかし鏡太夫の床本は戦前のものも多く、資料の経年劣化が危惧されていた。そのため、デジタル化で原物資料の保存を図るとともに、Web公開することにより、竹本の太夫ら実演家のニーズに応えることはもちろん、歌舞伎研究や義太夫狂言の上演にも役立てていくため、一般社団法人伝統歌舞伎保存会の事業によりデジタル化を進め、立命館大学アート・リサーチセンターの協力のもと「竹本床本検索閲覧システム」を構築して、Web公開に向け準備を進めてきたそうだ。
そしてこの度、竹本義太夫の新暦での命日にあたる10月18日に、松竹大谷図書館HP内のデジタルアーカイブにおいて590件のデータを公開。Web上で全ページ見ることができる(うち、48件は著作権保護期間が終了していないため画像は非公開)。
また、松竹大谷図書館は現在13回目となるクラウドファンディングに挑戦している。今回は、歌舞伎作品などを数多く手掛けた劇作家・北條秀司が松竹大谷図書館へ託した唯一無二の資料、スクラップブックなどの保存費用と書架工事費用の支援を募集している(10月23日23時まで)。
リターンとして、波乃久里子(新派女優)のトークショー「劇作家・北條秀司、その作品の魅力を語る」への招待などを企画している。
竹本葵太夫 コメント
古来「師匠から弟子へその芸や資料が伝承される」というシステムをつくらなかった歌舞伎音楽「竹本」の世界…。後継者不足が窮まった1975年に国立劇場で養成事業が始動しました。「歌舞伎竹本」として重要無形文化財の指定も受け、後継者養成や資料の保存も注目され始めて、実演家のご遺族より松竹大谷図書館様に太夫床本や三味線譜本を寄贈されるようになりました。
このたび館蔵の竹本床本から、大正・昭和期に六世尾上菊五郎丈付きだった竹本鏡太夫師と、昭和期関西劇壇で活躍なさった豊竹寿太夫師のデジタル資料が公開されることになりました。いずれも伝統歌舞伎保存会の事業でデジタル化いたしました一級資料です。
実演家である私どもには、現行演出の根源をたどることができ、現在上演されない演目を復活するときの基礎資料となります。また歌舞伎を研究くださいますお方や愛好皆々様にも「昭和の演出」に思いを馳せて閲覧いただくことができると思います。
関係各位のご尽力に深く感謝いたしますとともに、私自身もさらに書誌情報をふくらますお手伝いをしたいと思っております。
(重要無形文化財「歌舞伎竹本」 太夫)