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「解散コンサートにようこそ」辻仁成、プチ引退ツアー『終わりよければすべてよし』に凝縮した故郷とパリへの想い

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辻仁成

辻仁成 JAPAN ファイナル ツアー“終わりよければすべてよし” 2024.07.30(TUE) ヒューリックホール東京

辻仁成が、2024年7月30日(火)ヒューリックホール東京にて『辻仁成 JAPAN ファイナル ツアー“終わりよければすべてよし”』の初日公演を開催した。

今年4月、WEBマガジンにて「引退について。一ミュージシャンの決意」とのタイトルで「某月某日、プチ引退を決めた。この夏の、東京と大阪のライブを最後に、しばらくぼくは日本での公式な音楽活動をやめようと思った」と、ミュージシャンとして区切りのライブを行うことを表明した辻。ライブ初日となるこの日の朝には、「おー、いよいよ引退か、という気持ちはまるでない。ただひたすら、いいライブをやりたい、と思うこと以外に感想が特にないのが、不思議でならない」と、ツアー初日を迎えた心境を綴っていた。

バンドブーム渦中の1985年にECHOESのボーカル・ギターとしてデビュー以降、作家、映画監督、演出家としても活動してきた彼の原点である音楽がどんなライブでいったんの終点を迎えるのか、月末の平日にも関わらず会場のヒューリックホール東京には大勢のファンが集結した。入場すると、階段の踊り場に掲げられたツアーのボードがフォトスポットになっており、記念撮影に列ができていた。同じ時代を生きてきたであろう人々が、大切そうにスマホの画面で写真をチェックしている姿が、このツアーが特別なものであることをより一層感じさせる。また、開演前の客席にはBGMとして辻自身の楽曲が流れており、ライブで披露することが予想される代表曲も耳に入ってきたのが印象的だった。

辻仁成(Vo.AGt)を支えるバンドのメンバーは、Dr.kyOn(Pf)、山下あすか(Per.Dr)、ユン ファソン(F.Hr.Tr)、竹内理恵(BSax)、太田惠資(Vn)の5人。メンバーに続いて歓声に迎えられて登場した辻は、キャスケットをかぶり袖なしのマント、パンツルックの、黒で統一したシックなファッション。第一声から迫力の歌声を広いホール会場に響かせて、ライブがスタートした。逞しい声量と豊かな表現力で、序盤から舞台に惹きつけられる。自らガットギターを弾きながら先導するバンドサウンドは、アコースティックな質感ながら張り詰めた緊張感があった。山下のドラム&パーカッション、Dr.kyOnの鍵盤が叩き出すビート、太田が弾くバイオリン、竹内のバリトンサックス、ユンのトランペットが、曲ごとに辻の情念を駆り立てる。

辻仁成

MCでは、「こんばんは、僕は元気です! 今日は「辻仁成解散コンサート」にようこそいらっしゃいました。これを機にそれぞれが新たな道に進むので、みんなを応援してください」と、バンドのメンバーを見回しながらユーモラスに語り掛けた。そんなMCに続き歌われたのは「故郷」。東日本大震災直後に日本のことを想いながら作ったというこの曲は、土着的なリズムに乗せて、《明日へ 明日へ 歌え 明日へ 明日へ とどけ》と繰り返すサビ、バイオリンの流麗な演奏がノスタルジックに会場を包み込む。辻の日本への想いが凝縮されているように思えた。

辻仁成

一方で、現在拠点としているフランス・パリで行われているオリンピックの話題に触れ、「阿部詩さんが号泣していたことが胸に響きました。元柔道部だからね」と明かす場面も。「遠いパリを思い浮かべて」と呟いてから、フランスの歌手エディット・ピアフの代表曲「La Vie en rose(ラ・ヴィ・アン・ローズ)」を軽快に歌い上げると、客席も手拍子を送り賑やかな雰囲気に。ステージ上は、照明でトリコロールカラーに染められていた。途中、ECHOESのライブアンセムを連発すると、躍動するロックチューンに、待ってましたとばかり立ち上がって拳を突き上げるオーディエンス。会場一体となる盛り上がりとなり、ライブ終盤ではアバンギャルドな歌と演奏でさらに興奮を煽った。

辻仁成

じつに見応え聴き応えのあるライブとなったこの日、思わぬサプライズもあった。「サボテンの心」を歌っていると、途中で客席が妙にざわめきはじめ、見ると演奏中にも関わらず客席からステージ前に出てきた女性がいた。

加藤登紀子が飛び入り参加

歌を中断した辻が、「予定外の人が! 加藤登紀子さんです。「サボテンの心」をカバーしているんです」と紹介。なんと、客席でライブを観ていた加藤登紀子が飛び入りしたのだった。完全に予定外のことだったらしく、辻も「ああ~ビックリした!」と驚いた様子だったが、急遽ステージでデュエットした辻と加藤の歌声に、客席も大合唱となった。歌い終わると2人は互いに「ありがとう!」と感謝を伝え合う。強い絆を感じさせる一幕だった。

加藤登紀子、辻仁成

「今日は始まりで、また路上とかパリのセーヌ川とかで歌ったり、まだ戦いは続けるから。また会いましょう、いつか」と語った辻。終始ウェットなムードはまったくない、ただただ素晴らしい歌と演奏によるライブだった。ツアーは、7月31日(水)、8月5日(月)ヒューリックホール東京(8月5日公演は完売)、千秋楽8月7日(水)大阪フェスティバルホールまで行われる。

『辻仁成 JAPAN ファイナル ツアー“終わりよければすべてよし”』

取材・文=岡本貴之 撮影=オフィシャル提供(岡田裕介)

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