佐々木蔵之介が破天荒な皇帝を魅力たっぷりに演じる 『破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~』レポート
PARCO PRODUCE 2024『破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~』は、2021年8月に佐々木蔵之介主演で上演された『君子無朋(くんしにともなし)』以来3年ぶりとなる、佐々木蔵之介×作・阿部修英×演出・東憲司のコラボレーション作品。
キリスト教に支配されていた中世ヨーロッパで、当時の最高権力者のローマ教皇から最大の罪である「破門」を三度言い渡されながらたった一人で時代の門を破り、次の時代をこじ開けた皇帝フェデリコの真実に迫る。
実の息子をも敵に回し、敵である異教の君主と友情を育むなど誰も思いもよらない方法で前人未到の道に進もうとした男を演じるのは、ドラマ・映画・舞台とジャンル問わず活躍する佐々木蔵之介。フェデリコと対峙する息子ハインリヒは、アーティストとしてはもちろん、俳優としても活動する上田竜也。さらに六角精児、那須凜、栗原英雄、田中穂先、石原由宇と実力派キャストが集結している。
初日を前に、会見とプレスコールが行われた。
ーー初日を前にした心境や意気込みを教えてください。
佐々木:7月1日からずっと熱い稽古を続けてきました。いよいよ明日でドキドキもしますし、舞台に立てることに対する安心もあります。
上田:早く明日にならないかとワクワクしています。1ヶ月みっちり稽古してきたので、とにかくお客様の前で感情を爆発させ、素晴らしいものをお届けしたいと思っています。
那須:怒涛のスピードで稽古が進み、明日いよいよ本番ということが信じられませんが、みんなのマンパワーで頑張っていきたいです。
栗原:この時代にこの作品がどう受け止めてもらえるのか楽しみにしております。
六角:9月の終わりまで公演があるわけですが、みなさんと仲良くやっていきたいなと思います(笑)。
ーー脚本を手がけた阿部さんがこの時代に皇帝フェデリコを描こうと思ったきっかけ、作品に関する思いをお聞かせください。
阿部:歴史上の奇跡の出来事を紹介したいわけではなく、人はここまでできるんだという可能性と希望を届ける物語にしたいと思っていました。フェデリコ2世について、最初は100年続いた戦争を止めた英雄だと思っていましたが、調べると不完全な部分も出てくる。上田さんが演じる皇子との関係は不器用ですし、六角さん演じる教皇との関係も、そこまで意固地にならなくていいんじゃないかと思うくらい。ちょっと変わった不完全な人が平和を目指した。神様じゃなく人が叶えるものが平和なんだというメッセージを届けつつ、面白がってもらえたら嬉しいです。
ーー東さんが演出において意識したこと、こだわった部分を教えてください。
東:阿部さんの戯曲は非常にスケールが大きくテンポも良い。それをシンプルな舞台とこれだけの役者さんでどう作っていくかすごく考えました。キャストとスタッフのマンパワーに頼りましたし、それをお客様にも見ていただきたいと思っています。
ーー今回が初共演の佐々木さんと上田さんですが、お互いの印象はいかがですか?
佐々木:KAT-TUN上田、ちょっとやんちゃなイメージがあったんですけど、稽古場ですごく真面目に人の言うことを聞くんですよね。
一同:(笑)。
上田:そりゃ聞きますよ(笑)。
佐々木:そうだけど、もうちょっときかん坊かと思ってたら全部聞くから、真面目だなぁという印象です。劇場に入ってからは、多くのお客さんの前に立っている人間ですから、爆発のさせ方や楽しみ方をすごくわかってくれている。ついていきます。
上田:最初にびっくりしたのが、圧倒的な芝居力。自分のシーンの稽古に入る前に見せていただいたんですが、改めて迫力や存在感に圧倒されました。何より気遣いのすごい方で、良かったシーンは「すごくいいよ」と褒めてくれるし、「もっとこうしてもいいんじゃない?」というアドバイスも遠慮なくしてくれる。信頼してついていっています。
ーー確執のある親子という役柄ですが、役作りのために稽古場で少し距離を取るなどはされましたか?
上田:僕は最初、そうなるのかと思っていました。でも蔵之介さんが差し入れをいっぱいくれるので餌付けされました(笑)。
一同:(笑)。
佐々木:僕は役をあまり引きずらないので。でも確かに、差し入れは大事だなと常に思っています(笑)。
上田:こんなに差し入れをくださる方いないですよ。
六角:差し入れが多いから仲良くなるんですよ。みんなで食べてますからね。
ーー最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
那須:アンサンブルのみなさんも含めたマンパワーでシンプルな舞台を動かし、エネルギーが強くスケールの大きな舞台をアナログで立ち上げています。楽しみにしていてください!
栗原:暑い日が続きますが、冷房の効いた劇場で熱い芝居を見にきてください。
六角:ぼんやり見ていれば何かがわかる芝居ではないと思います。劇場にきて、「何かを見よう」という意志を持って見た時に、自分で勝ち得た面白さが出てくると思う。そう言うものを表現したいと思いますので、ぜひきてください。
上田:みなさんがどういう感情になってくださるかも楽しみ。劇場を出た時にどんなものを持ち帰ってくれるか期待しながら、僕らは全力で頑張ります。みなさんもぜひ楽しみにしていてください。
佐々木:先ほどから「マンパワー」という言葉が出ていますが、その通りの作品です。800年前の中世ヨーロッパを渋谷に再現し、人海戦術で届けます。その時代に生き、命を賭して使命を果たそうとした人、正義を貫こうとした人、夢を実現させようとした人。その人の感情が渦巻いています。大きな広い希望の翼に乗ってご自宅に帰っていただけるよう、素敵な芝居をお送りしますのでぜひお越しください。
※以下、プレスコールの写真と多少のネタバレあり。
幕が開いて数分としないうちにフェデリコの人となりや破天荒な性格がわかり、これから描かれる物語に対する期待がぐっと高まった。佐々木は国王らしい凄みと知性、子供のような奔放さと残酷とも思える一面を兼ね備えた人物を好演。彼の頭の中でどんな計算がなされているのか、どんな意外性のある活躍を見せてくれるのか、目が離せなくなる存在感と魅力を放っている。
そんな父が理解できずに悩む息子・ハインリヒの困惑や苦悩を、上田は等身大の芝居で描き出した。フェデリコのダジャレや下品な冗談にハインリヒが呆れたり怒ったりする様子は、親子というより兄弟のようにも見える。どこまでが本気でどこまでが悪ふざけかわからない父に振り回される姿、父と教会の板挟みになる様子に、思わず応援したくなってしまう。
六角演じるグレゴリウスと田中穂先演じる司教ベナリーボは、荘厳な教会の印象とは裏腹にコミカルな芝居で人間くさい聖職者を見せる。ハインリヒに向かって教会の力を誇示したり、金に対する執着を見せたりする悪辣さを愛嬌たっぷりに表現する六角に、この後描かれるだろうフェデリコとの衝突が楽しみになった。
イザベル役の那須は、フェデリコを支えつつハインリヒのことも気遣う彼女の複雑な立場や聡明さを丁寧に表現。控えめながら愛らしい笑顔で舞台に華を添えている。
そして、栗原が演じるのはイスラムの君主・カーミル。プレスコールにおいては短いシーンのみだったが、戦争の悲惨さや苦しさを語るセリフで強い印象を残す。穏やかで知的な雰囲気のカーミルと、そんな彼に誠実に仕えるファラディン(石原由宇)が物語にどう絡んでくるのか気になるところでプレスコールが終了。
30分程度の公開だったが、各キャラクターの個性や立ち位置がすんなりと理解できるとともに、正義や戦争について考えさせられ、全編通して見たいと思わされた。
本作は8月6日(火)、東京・PARCO劇場で開幕。9月1日(日)まで公演を行った後、9月7日(土)・8日(日)に愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール、9月11日(水)~16日(月・祝)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、9月21日(土)・22日(日)に福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホールで上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈