その教え方は逆効果? わが子を算数嫌いにしない! 親の「教え方」の鉄則を〔元小学校教諭の教育評論家〕が伝授
子どもがよくわかる算数の解き方と親の教え方のテクニックを、元小学校教諭の教育評論家・親野智可等先生が解説。子どもの算数嫌いを加速させる、算数を教えるときに親がやってはいけないことも紹介します。
【▶画像】<幼児とYouTube>安心な動画選びのポイントをプロが解説子どもが算数の勉強でつまずいていたなら、ほとんどの親御さんが手を差し伸べるでしょう。とはいえ、教えたにもかかわらず、子どもの理解がイマイチだと親のほうもお手上げです。子どもの算数力を上げる教え方にはコツがあると話す、元小学校教諭で教育評論家の親野智可等(おやのちから)先生が、親御さんに知ってほしい子どもの視点や、子どもがわかる教え方を解説します(全3回の第1回)。
単に解き方を教えるだけでは子どもは大混乱!
小学生、特に3年生ぐらいまでの子どもの算数は、大人から見たら簡単です。しかし、簡単だからといって、親御さんが子どもの視点を無視して解き方を教えると、我が子はさらに算数が苦手になります。
「親御さんが子どもに算数を教えるときは、子どもが取り組んでいる手元の問題を見る前に、どの学年でも算数の教科書やノートなどをまずは確認してください。
教科書がどのような教え方をしているか、先生がどのような方法や言葉を使って教えているか、我が子の理解度はどうかなどをまずは把握しましょう。
基本的に、学校とは違う教え方をしていいのは、算数が得意な子に対してです。苦手な子の場合は、学校と違う教え方をすると混乱する可能性があります」(親野先生)
親が教科書やノートなどを見るポイントは、たとえば12+9の筆算の場合、繰り上がりの数をどこに書いているのかなどです。算数が苦手な子なら、繰り上がりの数を書く場所も教科書やノートと同じにしてあげたほうが理解しやすいでしょう。
実際の算数のプリント。繰り上がりの数字は例にならい、子どもも十の位の一番上(赤丸の部分)に書いています。算数の苦手な子は、親があちこちに繰り上がりの数字を書いてしまうと、数字を見失う可能性があります。 写真提供:コクリコ読者
教科書に2つの解き方が書いてある場合の対処法
「子どもに算数を教えようと教科書を確認すると、問題に対して解き方が複数書いてある場合があります。
たとえば、繰り下がりのひき算には、『減加法』と『減減法』の2つのやり方があり、教科書によっては2つ解説されているものがあります。
■減加法の13-8=5の計算プロセス
1. 13を10と3に分ける
2. 10から8をひく(10-8=2)
3. 3と2をたす(3+2=5)
■減減法の13-8=5の計算プロセス
1. 8を3と5に分ける
2. 13から3をひく(13-3=10)
3. 10から5をひく(10-5=5)
もし、子どもが学校で『減加法』と『減減法』の両方を習っている場合で、ひき算が苦手なら、まずは1つのやり方で習熟させましょう。
『減加法』のほうがわかりやすいので、こちらを覚えることをおすすめしますが、子どもが『減減法』のほうがわかりやすいなら、そちらを優先させても大丈夫です。
いずれにしても、子どもが一番覚えやすい方法で徹底的に習熟させることが大切です」(親野先生)
算数の基本は生活の中で教えられます。 写真:アフロ
お風呂で育む算数力
基本的な算数の力、つまり計算力をつける上で土台になるのが「数える経験」だと親野先生はいいます。そしてその次にはたし算、ひき算、九九が大切であり、これらを反復練習して、瞬時に答えを出せることが重要だと続けます。
「数える経験は、お風呂の中で楽しみながら取り組める『お風呂算数』がおすすめです。低学年で算数が苦手なら、ぜひやってみてください。
親御さんが湯船のお湯の中から指を1本ずつ出して、子どもに1、2、3、4、5……10と数える経験をさせたら、『右手の指が3本。左手の指が2本。全部で何本でしょうか?』なんて簡単な問題を出すのです。たし算だけでなく、ひき算の問題もつくって試すといいですね。
タオルで隠した両手から指を8本出して「何本、隠れてるでしょうか?」と聞き、子どもに「2本」と答えさせます。この場合の「2」は、「たして10になる相棒の数(補数)」といわれるものです。慣れてきたら指を使わずに、「6の相棒の数は?」と答えを聞くことをやってみましょう。これが瞬時にいえるようになると、繰り上がりのたし算や繰り下がりのひき算が楽にできるようになります。
また、1から100まで数唱してみるほかに、100から1に逆唱するのも子どもとぜひやってみてほしいことですし、100から100、95、90といった具合に、5を引いた数をいってみるのもいいでしょう。
あるいは、2飛び(2の倍数)や5飛び(5の倍数)を唱えることも数に対する地頭を鍛える方法です」(親野先生)
遊びの中で数に触れて、簡単な計算に対して瞬時に答えがいえるようになると、徐々に難しくなる繰り上がりのたし算や繰り下がりのひき算も、抵抗なく取り組んでいくことができます。
2飛びや5飛びの本質は九九です。遊びながら九九を覚えることができるだけでなく、しっかりと身につけた九九は、それを応用していく中学年以降の算数、中学や高校の数学にも役立ちます。
子どもに算数を教えるときにやってはいけないこと
親が一生懸命に算数を教えても、なかなか理解してくれない子を目の当たりにするとイライラが募り、𠮟ってしまうことがあります。
「親御さんの思ったように我が子が勉強ができないからといって、絶対に勉強を𠮟る材料にしないでください。
子どもたちの中には『勉強をしなければ𠮟られるけれど、勉強しても𠮟られる』と感じている子が意外と多くいます。それがそもそも算数を勉強したくない原因にもなるので、まずは勉強への意欲を高めてあげることが大切です。
間違っているところは『惜しかったね。難しかったね』といって、問題に向き合ったことをほめてあげてください。計算で試行錯誤した部分があればそれもほめるポイントですし、計算は間違っていても式が合っていたなら『式はわかったんだね』とほめてあげましょう。
誤りを正したいときはほめたあとに、子どもの視点を大切にしながら解き方を教えます。
算数に限らず、誰にでも間違いや苦手はあるものです。どうか、楽しみながら勉強に取り組める方法を意識してください」(親野先生)
親が子どもに算数を教えるときは、子どもの教科書やノートなどを確認・分析することから始まりますが、子どもが勉強に向かう気持ちも高めてあげることが大切です。勉強する土台を築きつつ、子どもの視点に立ったサポートを心がけましょう。
次回は1・2・3年生がつまずきがちな算数の単元について解説。数の分解と合成、九九、時間と時刻などの教え方のコツを紹介します。
取材・文/梶原知恵
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◆親野 智可等(おやの ちから)
教育評論家
長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。子育て世代に寄り添ったSNS投稿も話題で、「ハッとした」「泣けた」という声が多数寄せられている。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも講師を務め、オンライン講演も経験豊富。著書に『親の言葉100 ちょっとしたひと言が、子どもを伸ばす・傷つける』(グラフィック社)など。人気マンガ『ドラゴン桜』(講談社刊)の指南役としても知られている。