1958年創業の新丸子『菓心 桔梗屋』で受け継がれる、菓子への情熱と探究心【この街に愛される老舗】
買い物客でにぎわう新丸子駅西口のイダイモール商店街。店先に「新丸子まんじゅう」の垂れ幕を吊り下げているのが、3代続く『菓心 桔梗屋』だ。
入り口横の焼き台では子供にも人気の「みかぼ焼き」を焼いている。香ばしい皮とふっくらしたつぶあんは唯一無二で「創業当初からあります。名前の由来は初代の故郷・群馬県の御苛鉾山(みかぼやま)から」。
現在、菓子製造の中心は2代目の須田義孝さんと3代目の洋義さん。「祖父の技術を僕が受け継ぎます」と語る、洋義さんが頼もしい。あんこはしっとりしたこしあんや、水気を切った固めのつぶあんなど、商品ごとに作り分けるのがこだわり。前日から仕込み、渋切り(アズキのアクや渋味を取り除く工程)を4、5回くり返すことで、雑味のないすっきりしたあんこになる。
春限定の草もちをほお張る。むちっとした餅は歯切れもよく、みずみずしいこしあんと口の中で一体化するのがたまらない。元々初代の信義さんが手掛けていた一品だが、洋義さんが引き継いだ。「僕自身、祖父から教わったお菓子をおいしいと思いながら作っています」と話すその表情からは、初代への尊敬がにじむ。
他に、岡本太郎にちなんだ「TAROの夢」や、名産品を使った「多摩川梨」など川崎銘菓も多い。義孝さんが考案した和洋折衷の焼き菓子は手みやげとしても好まれる。3人は研究熱心なところが似ていて、だからこそ毎日バラエティーに富んだ30〜40品を用意できるのだ。なかでも洋義さんは、こしあんとクリームチーズ、イチゴを組み合わせた餅菓子など、自由な発想でわくわくするような商品を次々と生み出し、その成果が一日限定で店頭に並ぶことも。
名物の「新丸子まんじゅう」は、洋義さんのこしあんで義孝さんがまんじゅうを作る親子コラボ。沖縄県波照間産の黒糖を使った薄皮は香りが良く、中にはほろっとしたこしあんが。
王道を突き進み、なおかつ古びることのない良店『菓心 桔梗屋』。店内には今日も笑顔があふれている。
菓心 桔梗屋(かしんききょうや)
住所:神奈川県川崎市中原区新丸子町754/営業時間:10:00~19:00/定休日:日/アクセス:東急電鉄東横線・目黒線新丸子駅から徒歩3分
取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年4月号より
信藤舞子
ライター
北海道弟子屈町生まれ、札幌市育ち。現在は東京在住。雑誌、WEBメディアを中心に、街歩きや旅、日本の文化について執筆する。なかでもおやつには目がなく、近著は『東京おやつ図鑑 和菓子編』(交通新聞社)。レコードや着物も好き。