一時代を歌とダンスと笑いとエンタメいっぱいに描く! 劇団SET『ニッポン狂騒時代』稽古場レポート
劇団スーパー・エキセントリック・シアター 創立45周年記念・第62回本公演 ミュージカル・アクション・コメディー『ニッポン狂騒時代~令和JAPANはビックリギョーテン有頂天~』が2024年10月17日(木)から、東京・サンシャイン劇場で上演される。
本作は、安保闘争に揺れる1960年代の日本を舞台に、アメリカンポップスの魅力に取り憑かれた若者と学生運動に明け暮れる若者たちの、恋と挫折の青春ストーリー。アメリカで誕生したロックンロールを日本語化し、「カヴァーポップス」として若者の間に大きなブームを起こした訳詞家・山南寛治を長谷川慎也、安保反対を掲げ日本人の誇りを守るべく闘う学生運動家・新城拓真を栗原功平、寛治の父・征志郎を小倉久寛、征志郎の秘書・堂島を三宅裕司が演じる。
開幕を約1週間後に控え、稽古も大詰めとなった稽古場を取材。稽古場では、俳優陣がそれぞれセリフを確認したり、小道具をチェックしたりと忙しく動き回る。演出も担当する三宅が演出卓に座り、音楽の準備も整うと、通し稽古が始まった。
物語の時代は、1960年代。日本の音楽業界の栄枯盛衰と、学生運動に明け暮れる若者たちの姿が交互に綴られていく。
レコード会社社長の息子として生まれ、将来を期待されている寛治を演じる長谷川は、音楽好きで爽やかで真っ直ぐな“お坊ちゃん”を好演。人の心の機微に鈍感で、全て思い通りに進むと思っている様子もまさに“お坊ちゃん”然としていて良い。嫌味がないので、見通しの甘さに苦笑いをしながらも好感の持てる寛治像が作り上げられていた。
そんな寛治が新入りのメイドとして働く世良直美と出会う。直美を演じるのは、山城屋理紗だ。寛治と関わることで、新しい世界に触れていく直美をフレッシュに演じた。
一方、「安保反対」を掲げ、学生運動にのめり込む拓真は、熱い男。栗原が、終始、硬い表情を崩さず、リーダーとして仲間を引っ張っていく力強さと実直さを感じる男を熱演していた。
全体を通して描かれているのは、それぞれの狂乱と寛治と拓真と直美の恋。寛治を中心に描かれる音楽業界の場面では、随所に当時の名曲の数々が華やかなダンスとともに披露され、ステージを盛り上げる。当時の「カヴァーポップス」を知る人には懐かしくてたまらない楽曲が並ぶのでぜひ楽しみにしてもらいたい。さらに、誰もが分かる、当時のスターたちが登場するのも楽しく、観るものの気持ちを高めてくれる。
その煌びやかな世界観の中で、笑いを担当するのが征志郎役の小倉と堂島役の三宅だ。三宅が小倉にネタを振り、それに小倉が答えて笑いを誘う。熟練された二人のやりとりに稽古場でも何度も大きな笑いが起きた。また、メイドチーフの小野田を演じる久下恵もいい味を出している。大きなアクションと表情で笑わせにかかり、インパクトを残した。
対して、拓真のパートである学生運動の場面は、激しいアクションで魅せる。学生活動家と機動隊が衝突するシーンは迫力満点。木刀がぶつかり合う大きな音が稽古場に響き渡り、圧倒された。音楽業界の華やかな歌とダンスのシーンとはまさに対極。それは、寛治と拓真の思想が相容れないことを表してもいるように感じられた。そんな相対する二人の男と直美の恋の行方はどうなるのか。本公演で確認してもらいたい。
もちろん、学生運動サイドもコメディ要素たっぷり。まず、学生運動に身を投じている松井を野添義弘が演じているというのが面白い。さらに、竹田役の西海健二郎と梅原役のおおたけこういちの二人が作り出す笑いにも声を出して笑ってしまった。緊張感のある設定をコミカルに映し出し、笑いを作り出す二人に注目だ。
そして、二人の男の恋のお相手・直美の物語にも触れておきたい。この作品は、寛治と拓真という対照的な二人の男が夢や目的に向かってひたむきに歩む青春ストーリーでもあるが、同時に直美の自立を描いた作品でもある。物語の後半の直美の決意の言葉には何度もハッとさせられた。一時代を、歌とダンスと笑いとエンタメいっぱいに描きながら、ただの回顧録に終わらず、前を向く力を与えてくれる作品に昇華しているのは、そうした直美の姿があってこそ。大いに笑って楽しんで、“生きる意味”を感じて劇場を後にしてほしい。
取材・文=嶋田真己