【総社市】特定非営利活動法人 こもれびの里 ~ 特産品の竹を使って社会とのつながりを作る。人のぬくもりがあふれる支援団体
社会貢献を目的に活動する非営利法人は、日本全国の至るところで活動しています。
真備町と総社市の2拠点で活動している特定非営利活動法人 こもれびの里は、地元の特産品である竹を生かした社会貢献事業をおこなっている団体です。
活動のメインは、災害の復興支援と、引きこもりや障がい者の自立支援。二つの支援に、竹がどのように使われているのでしょうか。
特定非営利活動法人 こもれびの里の想いを取材しました。
特定非営利活動法人 こもれびの里について
特定非営利活動法人 こもれびの里(以下、「こもれびの里」と記載)は、倉敷市真備町と総社市を拠点に活動するNPO法人で、2020年に設立されました。
発足のきっかけとなったのは、平成30年7月豪雨災害。災害ボランティアで知り合ったメンバー10名で設立し、災害の復興支援と、引きこもりや障がい者向けの自立支援を目的に活動してきました。
2025年現在は、以下6つの社会貢献事業に取り組んでいます。
・→障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)に基づく就労継続支援事業
・まちづくりの推進を図る活動
・相談等支援事業
・農業を通じて地域に貢献する事業
・ボランティア・地域交流に関する事業
・法人の目的を達成するために必要な事業
復興支援と福祉の面で、さまざまな事業をおこなっているこもれびの里ですが、大きな特長は真備町の特産品である「竹」を生かした取り組みです。
こもれびの里が運営する就労継続支援B型事業所では、真備町の竹を使った商品開発や販売をおこなっています。そこで作られた竹炭は、令和2年7月豪雨災害や能登半島地震の被災地にも送られました。浸水してしまった家屋の床下などに竹炭を敷くことで、消臭と湿気の除去ができるそうです。
こもれびの里は災害ボランティアメンバーにより設立されたため、復興に対して非常に強い想いがあります。
平成30年7月豪雨災害後、こもれびの里は復興イベントである「がんばろう!真備!KIZUNAフェスタ」を主催し、数多くのボランティアの協力のもと、多くの子ども達を笑顔にしました。平成30年7月豪雨災害で自分たちが経験したこと、そしてその災害ボランティアでつながった人との縁を大事にしながら、現在も日本各地の復興支援に力を入れています。
こもれびの里の副代表である赤阪雅子(あかさか まさこ)さんは、「引きこもりや障がいのある人が、復興支援のような社会貢献に関わることで、やりがいや自信にもつながっていくと思います」と話します。
就労継続支援B型事業所こもれびの里
こもれびの里のおもな事業である、「就労継続支援B型事業所こもれびの里」を紹介します。
就労継続支援B型事業所とは、障がいなどで一般就労するのが難しい人たちに、社会とつながりながら働くスキルや知識などを得られる場を提供する福祉サービスです。
こもれびの里の作業所は、総社市と真備町の2か所にあり、月・水・金曜日が総社作業所。火・木曜日が真備作業所で営業しています。
総社作業所では、おもに農業や果樹園の管理活動をおこなっています。岡山県立大学の大学生と一緒に季節の野菜を収穫することもあるそうです。雨の日は、内職でお菓子の箱の組み立てやカードゲームの仕分けの作業などをおこないます。
真備作業所でも内職をやることはありますが、竹を使った商品作りは真備ならではの仕事です。
真備の特産品・竹を使用した商品の開発
真備作業所では、こもれびの里独自の方法で竹炭を生産しています。
その方法とは、ドラム缶ともみ殻を使用すること。完成には3~4日ほどかかりますが、じっくりと時間をかけて火を通すことで燃えやすく質の良い竹炭ができあがるそうです。
利用者さん(こもれびの里で働く人たち)は、長い立派な竹を電動のこぎりを使って適当なサイズに切り、さらにナタとトンカチを使って細かく割って節を叩くという作業をおこないます。
筆者が取材した際には、なんとなくそれぞれが役割分担をしながら、世間話も挟みつつ作業していました。竹を切る音、割る音がリズム良く敷地内に響きます。
完成した竹炭は、細かい竹炭チップにしてさまざまなアイテムに利用されるほか、そのままネットに詰めて被災地へ送ることもあります。梱包までの作業は一つ一つが手作業でした。
竹炭を被災地に送る際は、こもれびの里の立ち上げにも関わった災害ボランティアの団体「INOLIN JAPAN(いのりんジャパン)」が被災地まで運んでくれます。
竹炭は、「ニャンコロ脱臭ーズ炭(ダッシューズタン)」や「竹炭せっけん」など、オリジナル商品にも変身してイベントなどで販売されていました。
特にニャンコロ脱臭ーズ炭は人気で、生産が追い付かなくなる時もあったそうです。
取材時に竹串を作っていたので「これも販売するのですか?」と尋ねたところ、竹串はマルシェで販売するわたあめに使用するそうです。丈夫で長い竹串は、大きなわたあめを作れるそうで、イベントでは大変人気があったといいます。
社会とつながる、イベントへの出店
就労継続支援に欠かせないのが、社会とのつながり作り。
こもれびの里では、利用者さんも一緒にイベントに参加することで、外部の人との交流にも取り組んでいます。
こもれびの里が、毎年夏に開催しているのは「バンブーチャレンジ」という親子向けの自然体験プログラム。「地元の人たちにも竹に触れてもらおう」という目的で企画され、竹を使ったおもちゃ遊び、竹や竹炭を使った料理などをみんなで楽しむイベントです。利用者さんも一緒に参加して、イベントをサポートします。
他にも、総社市で開催されるマルシェやお祭りに出店することもあります。現在の利用者さんたちはイベントに慣れてきたのか、テントを張る・機械や道具を組み立てるなどの準備はお手の物だそうです。
月に一度開催されるレクリエーション
仕事だけではなく、季節を感じられるレクリエーションも定期的におこなわれます。
夏は、その場で伐採した竹で台を作り、流しそうめんをみんなで食べていました。
年末が近づくと、立派な石臼と杵(きね)が用意され、みんなでお餅つきをします。
レクリエーションする日は、普段のメンバーだけではなく、こもれびの里に縁のある外部の人たちも集まります。賑やかな雰囲気のなか、利用者さんも楽しそうに参加している姿が印象的でした。
食事には、利用者さんが作った竹炭や野菜などが使われていて、自分たちの生産したものを味わえる楽しさも感じられます。
さまざまな形で、利用者さんに社会とのつながりを提供しているこもれびの里。
どのような想いがあるのか、理事長の薬師寺 正志(やくしじ まさし)さんと、副理事長の赤阪雅子(あかさか まさこ)さんにインタビューしました。
こもれびの里にインタビュー
──こもれびの里を立ち上げた経緯について教えてください
赤阪──
こもれびの里は、平成30年7月豪雨災害で出会ったメンバーで立ち上げました。
災害を通じて知り合ったメンバーなので「なにかを支援・援助する活動をしたい」という想いがあり、災害援助、そして引きこもりのかたや障がいのあるかたの支援をおこなうことを目的にスタートしたんです。
一気に複数の事業をやるのは難しかったので、まず手を付けたのが引きこもりのかたの支援でした。理事長の藥師寺が農業をしていることもあり、倉敷市・総社市の引きこもりのかたに向けて、「うちで農業やりませんか?」と声を掛けるところから始めました。
──災害支援だけでなく、福祉の事業を始めたのには、なにかきっかけがあったのですか?
薬師寺──
昔とあるニュース番組で、バリバリ働いていた若者が、ある日突然会社に行くのが嫌になり、仕事を辞めて田舎の農家と一緒に野菜を育てている姿を見たことがあります。
野菜は、手をかければきれいに成長するし、手を抜けば育たない。自然と触れ合い、自然と対話しながら生きることが、自分の居場所作りにもつながるんじゃないかと思いました。
また、今は日本全国に耕作放棄地(※放棄された畑)や荒れた里山があります。私が持っている畑でも、手入れが追い付かないところがあるので、そのような部分を引きこもりのかたに手伝ってもらうことで、やりがいを少しでも感じて、社会復帰のきっかけにつなげていけたら良いなと思いました。
──こもれびの里の魅力は、どのような部分だと思いますか?
赤阪──
地元の特産品の竹を使って社会貢献をしていることです。数ある就労継続支援B型事業所のなかでも、珍しい取り組みだと思います。
こもれびの里は、餅つきやそうめん流しのような季節のレクリエーションも多いので、仕事とのメリハリをしっかりつけながら、みんなで楽しんでいます。
薬師寺──
ありがたいことに、こもれびの里を支えてくれるかたは非常に多いです。立ち上げの段階から、大勢のかたに協力していただいて、今もこうして活動ができています。
培ってきた人脈を生かして、利用者さんと社会のつながりを今後も作っていきたいと思います。
──日々、どのようなスケジュールで作業しているのですか?
赤阪──
作業自体は、午前10時頃から午後4時頃までです。作業所から利用者さんのご自宅まで、車での送迎をおこなっているので、利用者さんはみんな同じタイミングで帰ります。
50分作業したら10分休憩するサイクルで活動していますが、利用者さんが作業に集中しているようであれば少し長めに作業時間をとるなど、利用者さんのようすを見ながら調整することが多いです。
現場には、利用者さんをサポートするための指導員はもちろん、福祉の専門知識を持っているサービス管理責任者もいるので、利用者さんが安心して働ける環境を常に整えています。
薬師寺──
最近は、利用者さんが作業に慣れてきてくれたおかげで、内職では多くの量をスムーズに生産できるようになってきました。準備するのもお手の物です。
就労継続支援事業B型作業所では、生産活動の事業の売り上げから工賃を支払います。こもれびの里は、イベントや自社製品の売り上げがしっかりあるので、今後も安定した工賃を支払えるようにしていきたいですね。
──印象に残っている利用者さんとのエピソードはありますか?
赤阪──
利用者さんの成長を感じられる瞬間が、一番うれしく思います。
イベントに出店したとき、竹炭の使い方などを聞かれることが多いのですが、利用者さんが自ら商品を説明してくれるんです。「自分で作ったものが売れて楽しい」と言ってくれる利用者さんもいましたね。
最初はどの利用者さんも慣れていない作業に戸惑いますが、時間が経つにつれて手順が分かってくるのか、てきぱきと自分から動いてくれるようになるんです。笑顔も、最初のころと比べるとどんどん笑顔が増えてきます。「こもれびの里が楽しいんじゃ」と直接言われたときは、特にうれしかったです。
──今後の目標はありますか?
赤阪──
まずは、今後もこもれびの里が運営できるように、継続的な支援をしながら利用者さんを増やしていきたいと思います。そのためには、やはりどうしても資金が必要です。
利用者さんと楽しみながら商品開発して、できあがったものをより多くのかたに届けられるように、いろいろと工夫してやっていこうと思います。
また社会貢献として、地元・真備の竹を守り続けていきたいという想いもあります。竹を使ったおもちゃや伝統品を作って、地域の魅力を次世代につなげていく活動もしたいですね。県外の人にはもちろん、地元の人にも竹の魅力を伝えていきたいです。いつかは、真備町の竹をブランド化していけたらと思います。
このような社会貢献をおこなう事業所で、一緒に働いてくれる仲間(障がいのあるかた)も探しています。気になるかたは気軽に見学にいらしてください。
薬師寺──
こもれびの里は、多くの地域のかたがたに支えられて運営をしています。今後もいろいろなアイデア・知恵を持つかたと協力しながら、安定した取り組みをしていきたいと思います。
利用者さん一人ひとりの個性に合った活動を提供できる場所であり続けたいです。
おわりに
筆者は、こもれびの里に足を運んだ際、非常になごやかな雰囲気で作業をおこなう利用者さんの姿が印象に残りました。
作業がしやすい落ち着いた環境と、適度に交流ができる人との距離間は、こもれびの里の魅力のひとつかもしれません。
災害復興支援と人の自立支援は、それぞれまったく違うジャンルかと思いましたが、特産品の竹が共通点として生かされていることにおどろきました。特産品を使った社会貢献を今後も応援していきたいと思います。
仕事の体験や見学などは随時受け付けているので、気になるかたはぜひこもれびの里に直接足を運んでみてください。