戦後すぐ開業の老舗、上野御徒町『珈琲処ボナール』で香り高いコーヒーをワインのように楽しむ
老舗コーヒー店『珈琲処ボナール』が2024年5月から全面禁煙に。これまで2階を喫煙スペースとしていたが、よりコーヒーの香りと味を楽しんでほしいとの思いから禁煙に舵をきった。香り高くまろやかな昔ながらのコーヒーを堪能できる。
戦後間もない1949年に日本橋で創業
『珈琲処ボナール』が開業したのは、戦後間もない1949年。日本橋高島屋の隣に店を開いた。
店名の「ボナール」は、フランスの画家ピエール・ボナールから付けたという。店長の栁沼正己(やぎぬままさみ)さんによると、開業当初はごく普通の喫茶店だったが、後に改装して高級志向のコーヒー専門店になったそう。
その後、2014年に日本橋高島屋が新館を増設するタイミングでこの場所に移転。天井の梁は、移転の際に旧店舗から移築したものだ。元々古民家で使用されていたもので、移転前を知る常連客にとっては懐かしい眺めになっている。店内にはクラシック音楽が流れ、ゆったりとした雰囲気を作っている。
流行を追わない昔ながらの苦味とコク
コーヒー豆は備長炭で焙煎し、注文が入るごとに1杯分ずつ挽いて新鮮な香りを引きだしている。挽き方にもこだわりがあり、それは超粗挽きにすること。絶妙な大きさの顆粒状にすることによってまろやかな味になる。
まずはブラックで、コーヒーそのものの味と香りを感じてほしいとの思いから、クリームは極力出していない。味の違いや香りなどコーヒーのあらゆる特徴を楽しめるという。
豆は最上のものを使用している。生産国において適正な環境で栽培され、品質管理も徹底されたスペシャルティコーヒーを仕入れているという。そんなコーヒー豆を顆粒状にし、通常より多めに使っている。
中でも濃厚ブレンド珈琲は、ノーマルブレンドの豆使用量に対し15g足してハンドドリップ。一口飲むと濃厚なコクと香りが口の中に広がる。流行しているフルーティーで酸味があるコーヒーとは一線を画す苦味とコクのある味だ。この界隈の客層が好む、昔ながらの懐かしいコーヒーの味を追求した結果だ。
アイスコーヒー「琥珀の女王」は酸味のある豆を濃く抽出し、砂糖で甘みをつけている。表面に生クリームを浮かせた2層仕立て。カクテルグラスで提供される見た目も涼やかな一品だ。まろやかなクリームの下から濃厚かつ甘いコーヒーが顔を出す、これ1杯で贅沢なデザートのようなコーヒー。夏のとびきり暑い日にもおすすめしたい。
コーヒーと楽しむスイーツ2選
濃厚なコーヒーは濃厚なチーズケーキとよく合う。『ボナール』のチーズケーキはクリームとサワークリームを合わせたコクのあるレアチーズケーキ。ブルーベリーソースと店頭のプランターに咲くマリーゴールドの花を添えて提供される。
セットのドリンクは900円の飲み物の中から選べる。モンブランのクリームもコーヒーの重厚感に合うようにしっかりと甘い。ケーキは、このほかにもミルクレープやリンゴと桃のケーキなどコーヒーに合うラインアップ。軽食はホットドックのみ。あくまでコーヒーが主役の店なのだ。
カップは全てウェッジウッド製
カップは全て英国のウェッジウッド社製で統一されている。店頭とカウンター奥には美しいカップがずらりと並ぶ。定番の柄から、アンティーク品、技巧を凝らした逸品まで色鮮やかなカップが揃い、見ているだけでも楽しい。この中から客に合わせた1つを選んで淹れてくれる。
ワインのようにコーヒーを味わってほしい
2階は今年(2024年)4月まで喫煙席だったが、5月からはここも禁煙席になった。タバコの匂いに邪魔されずにコーヒーの香りをより楽しんでほしいとの思いからだ。
店長の栁沼さんは「ワインのようにコーヒーを楽しんでほしいですね」と話す。ぶどうの産地や品種、収穫年によってさまざまな銘柄が作られているワイン。コーヒーも豆の種類や産地、栽培環境によって個性が出てくるので、その違いを味わってほしいとのこと。
栁沼さんのおすすめはエチオピアコーヒー。キリマンジャロやコロンビアなど産地別のコーヒーも味わってみたい。
珈琲処ボナール(こーひーどころ ボナール)
住所:東京都台東区上野1-18-11/営業時間:11:00〜22:00(日・祝は~20:00)/定休日:無/アクセス:地下鉄銀座線上野広小路駅から徒歩3分
取材・⽂・撮影=新井鏡子 構成=アド・グリーン
アド・グリーン
編集プロダクション
1982年創業の編集プロダクション。旅行関係の雑誌・書籍、インタビューやルポルタージュを得意とし、会社案内や社内報の経験も多数。企画立案から、取材・執筆、デザイン、撮影までをワンストップで行えるのがウリ。