「永遠」への想いを込めて進化したコスパ抜群の和魂洋才な料理【福岡市・高砂】
以前、西鉄高宮駅の高架下に「TO YOU」という店があったのを、ご存じでしょうか? 和食をベースにした創作料理の店として人気を博していましたが、店舗の老朽化のため2017年に惜しまれつつ閉店。店主の常冨智成さんはもともと大阪の和食店で修業した料理人でしたが、閉店を機に再び関西に戻り、今度は奈良の洋食レストランで経験を積みます。そしてこの2月、7年ぶりに福岡でオープンした新しい店が「Towa」です。
「前の店を閉めたのは設備が古くなったこともありましたが、改めて自分の料理を見つめ直したいという思いがありました」と、当時の心境を語ります。しかし、40歳を過ぎてまったく新しいジャンルにチャレンジするのは、並々ならぬ決意があったに違いありません。再起をかけた新しい店名には、「永遠」に通じる思いが込められているようです。
高砂に新築されたばかりのビルの奥にある店を訪れると、予約したカウンター席にはミモザが添えられて迎えてくれました。提供する料理は季節の食材を使った「おまかせコース」(5,900円)のみで、今回は料理に合わせたドリンクのペアリング(4,000円)と注文。しばし食前酒のスパークリングワインを飲みながら、料理を待つことにします。
まずスターターとして出てきたのは「アサリと春野菜の春巻き」です。旬のアサリと新ゴボウ、芹、菜の花、新玉ネギなどの春野菜を刻んだ餡を皮に包んでカラリと揚げ、塩と八朔、蕗味噌でいただきます。春野菜や山菜には独特のほろ苦さがあり、まさに春を巻いて食べる趣きがありました。
続いてはお造り2種で、一皿目は蕾菜を糸島産のマダイで巻いた上に桜花の塩漬けがのせられたもの。この時期のマダイは「桜鯛」とも呼ばれ、ほんのりピンクに染まった身は淡泊で蕾菜のほろ苦さと桜花の塩気が絶妙にマッチします。二皿目はコウイカとホタルイカに分葱を合わせ、ヒジキのソースと爽やかな辛味の青レモン胡椒を添えて。ペアリングで出された大吟醸酒との相性もバツグンでした。
低温で火入れして皮目を炙ったサワラは、旬のアスパラガスとグリーンピースのソースで。盛り付けもさることながら、「和食は基本的に引き算の料理なんですが、洋食を学んだことで視点が広角的になりました」と、常冨さん。グリーンピースのソースには魚の骨でとったスープを煮詰めて加え、味に深みと広がりを与えています。
そして、今回のコースの中でもスペシャリテといえるのが「海老と春野菜の生春巻」です。ベトナム風にバンチャン(ライスペーパー)で海老とたっぷりの春野菜を巻き、甘酸っぱいイチゴの酢味噌につけて食べれば、口中が春爛漫に包まれるような華やかさ。ここでもツクシのほろ苦さがアクセントになり、いい仕事をしています。
常冨さんが前菜ならぬ楽菜(らくさい)と呼ぶのは懐石料理の「強肴(しいざかな)」にあたる位置付けで、いわば酒を楽しむための盛り合わせです。写真は筍と蕨のスパイス和え、空豆と魚のリエット、人参と黒オリーブ、ヒラマサの生ハムと野蒜、つくね芋のすり流し。どれも素材の組み合わせがよく考えられていて、まさに酒が進んで仕方ありません。
メインの肉料理(写真は国産牛のサーロイン)の後は季節の土鍋ご飯にデザート2品が付き、全10品で5,900円(支払は現金のみ)はかなりのお値打ち価格! ドリンク6種類のペアリングを入れても1万円からお釣りがくるのは、物価高のご時世になんともありがたい話ですね。
和魂洋才ともいえる料理で「季節感を表現したい」というように、コースの内容は仕入れによってその都度変わるので、次はどんな料理に出会えるか再訪が楽しみです。
Towa
福岡市中央区高砂2-14-3 TOMIKE TAKASAGO-1F
092-600-0768