「脚本を仕上げずに撮った映画は駄作になる」ジェームズ・ガンが批判 ─ 「この話を何度しても、まだそういうことが行われる」「腹が立つ」
新DCユニバースの舵取り人となるジェームズ・ガンは長年の経験を踏まえ、シリーズ展開や映画制作に堅実な姿勢だ。「脚本が完成していない映画を作らない」という持論を米にて展開している。
マーベル・スタジオで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを手がけたガンは現在、対岸DCに渡って綿密な計画を立案。近年、スーパーヒーロー映画は人気のかげりが指摘されており、「マーベル疲れ」や「スーパーヒーロー疲れ」といった言葉も叫ばれるようになった。
もっともガンは、スーパーヒーロー疲れが「本当にあったとは思わない」と持論。「ヒーローものなら何でも儲かる」と思われ、視覚効果の発達もともなって数多くの作品が登場したが、やがて観客に飽きられ、駄作が増えたのだとガンは分析している。
スペクタクル大作が氾濫し、「映画業界は今、まさに混沌の極みにあります」とガンは語る。この大きな潮流の他に存在し得ているのは「ホラー映画ぐらい」と続け、「みんなに観てもらえるような中規模の映画を作るのが本当に難しくなっている」と私見。「そういう映画もあるにはあるけれど、例外的な存在です。そういう映画は、自宅で観られている。でも、流行っている大作映画を観に行くのは好まれている」とのジレンマを話す。
続けてガンが指摘するのは、「現在の業界はIP(知的財産)が牽引し、公開予定日が創作プロセスを支配している」という状況だ。「つまり、まず公開日を決める。それで脚本はない。そこから、公開日に間に合うように脚本を書こうとするわけです」。
ガンはかねてより、「脚本なき映画製作」の問題を。シリーズの見栄えを良くするために、まだ満足のいく脚本が仕上がっていないのに、スタジオが先に公開日を決めてしまう見切り発車型の制作プロセスこそが、映画業界が衰退する真の理由であると見ているわけだ。
「大作映画の撮影期間のうち、8割は脚本が仕上がっていない状態で撮っているんです」と、ガンは驚きの裏側を暴露。「酷いですよ。そういう映画は駄作になりますから。脚本に基づいてやるべきです」と批判するが、現実には課題もある。「脚本執筆というのは難しいもの。適切なタイミングで、適切な脚本家と協力しなければいけないが、十分な数の優秀な脚本家がいないのです」。
脚本家が不足しているとは、どういうことか。「テレビ業界が優秀な脚本家のほとんどを奪ってしまったのです。優秀な脚本家のほとんどはテレビに行って、そこで責任を任されます。やりたいことができるからですね。今や、テレビが芸術の舞台となっている」。
ガンが具体例として挙げたのが、今最も絶賛を受けるシリーズの一つであるApple TV+配信のSFスリラードラマ「セヴェランス」と、自身が手がけるDCのドラマシリーズ「ピースメイカー」。「完全に常識を覆すドラマで、大ヒットしています」と評しながら、ガンは映画業界にとって具合が悪い実情を明かす。「テレビではやりたいこともやれるし、お金も稼げるし、ボスにもなれる。なので、映画の脚本を書く人は一体どこにいるんですかという話です」。
<!--nextpage--><!--pagetitle: 「僕は何度もそういう光景を目にしてきましたし、めちゃくちゃ腹が立ちます」 -->
「脚本なき映画製作」の話題に戻ると、ガンは「未完成の脚本を書いている間に第一幕の撮影を始めてしまっている」との問題を指摘。「よくあるのは、第一幕が素晴らしいのに、それが最終幕と繋がっていないこと。最後に繋がる流れが書けていないと、映画はうまくいかない。プロットとはそういうものではありません。時計のようなもので、全てがピタリとハマって一緒に動かなきゃいけない」。至極当たり前のようにも聞こえつつ、大手スタジオではこれが意外と守られていないようだ。
ガンは苛立ちを隠さない。「僕は何度も何度もそういう光景を目にしてきましたし、めちゃくちゃ腹が立ちます。この話を僕が何度も何度も繰り返しても、彼らはまだそういうことをやっている。おかしいですよ、これ。僕は絶対にやらない。絶対にやりたくない」。
実際にガンは新たに就任したDCスタジオで、タイトル不明の未発表企画をバッサリと中止したことがある。「脚本もできていて、映画のゴーサインも出ていた。進めているところでした」というが、最後まで納得ができなかったようだ。「第二稿、第三稿が上がってきたが、変化がなかった。良くなっていなかったんです。ずっと同じ状態に留まっていた。だから言いました。この映画は作れない。できません。よくないと。出来が悪いことはみんなわかっていました」。
良い監督と良い脚本家が入っているからと言って、その脚本がうまくいくとは限らないと、ガンは断言している。「こういうのは、最終的にみんなが慌てることになる。もう映画が公開されるというのに、その映画が良くなりそうにない。監督も悪評を浴びるし、脚本家も悪評を浴びるし、我々全員が悪評を浴びることになる。だから、僕はそんなことは望まない。そういう映画は作らない。だから中止したんです」。
なぜ、見切り発車と言える形で巨額を費やす大作が動き出してしまうのか?それは、「みんなゴーサインをもらうことに大興奮して、とにかく作ってしまうから」とガンは言う。「彼らは、全員に“イエス”と言わなくちゃいけないから、全員を失望させたくないからです。映画業界はお金や利益のことばかりと言われますが、実際には“私を、私を、私を、私を、私を”という感じ。酷いもんですよ。みんな嫌われたくないし、誰かを失望させたくない。それは良くない。誰にとっても良くないことです」。
での強みや課題も学んだガンは、新DCユニバースでの計画発表にはやや慎重だ。現在公開中であるシリーズ映画第1弾『スーパーマン』は、全体におけるチャプター1である『Gods and Monsters』に属しているが、このことはあまり強調されていない。2023年2月にこのチャプターの作品予定がいくつか発表されたが、現在までにきちんとリリース計画が固まっているのは、2026年US公開予定の映画『スーパーガール』と『クレイフェイス(原題)』、同年HBOマックス配信予定の「ランタンズ」。その他にも複数の企画が存在するが、語られたように、きちんと納得のできる脚本が完成してから製作を進める意向だ。
「彼のDCワールドに対する深い愛情が、作品のフレームすべてに輝いています」とガンをするのは、親会社ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのデヴィッド・ザスラフCEOだ。「我々はジェームズ・ガンの情熱とビジョンが大スクリーンで具現化した『スーパーマン』の飛翔を目にしました。『スーパーマン』はまだファースト・ステップ(第一歩)に過ぎません」。
このほか情報によると、ワーナー・ブラザースは『スーパーマン』ヒットを受けて新たな『ワンダーウーマン』映画の準備をさせているという。こちらもジェームズ・ガンが承認する脚本が仕上がってから、初めて最終的なゴーサインを経て製作開始となることだろう。
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