その魅力は歌詞にあり!次世代シャンソン歌手発掘コンテスト10回記念コンサート開催!
世界を旅するシャンソン歌手、琴音
日本が20個もの金メダルを獲得して閉幕したパリオリンピックの興奮もまだ覚めやらぬ2024年の夏。奇しくも今年は昭和の大スター、越路吹雪が生誕100年を迎え、関連CDの活発なリリースや書籍の企画も進行中である。フランスやシャンソンへの関心が俄然高まる中、日本シャンソン協会が主宰する『次世代シャンソン歌手発掘コンテスト』の受賞者が一堂に会したライブが8月20日に開催される。今回は、第1回の優勝者としてステージに立つ、世界を旅するシャンソン歌手の琴音さんに話を伺った。
ーー シャンソンを歌われるようになったきっかけを教えてください
琴音:もともとはR&Bとかを歌っていたんですが、深掘りしていくと、ジャズやブルースになっていきました。生演奏のライブハウスに出演するようになって、それまでは普通に英語でスタンダードを歌っていたんですけど、日本で歌うのであれば、やっぱり日本語の方が歌詞の内容が伝わるんじゃないかなと思ったんです。
でも、10年くらい前のジャズのお店はまだ日本語で歌うのがNGっていうところが多くて…。そこでお客様から “シャンソンのお店だったら、結構いろんな曲に日本語をのせて歌ってたりするよ” と聞いてお店を紹介していただきました。それが銀座の『蛙たち』っていうシャンソニエだったんです。シャンソンのライブハウスですね。
母は「シェルブールの雨傘」で主役を演じたミュージカル女優
ーー シャンソンの世界はそれまでと違っていましたか?
琴音:私の母がもともとミュージカル女優で、日本で『シェルブールの雨傘』が初演された時に主役をやってるんですよ。シャンソン界はミュージカルから来る人が多いんですけど、母もそれでシャンソンを歌うようになったそうで。先輩のミュージカル女優でシャンソン歌手でもある方から “舞台だけじゃ大変だから、シャンソンの店で歌ってみたら?” みたいな感じで。それで私も子供の頃からシャンソンのライブにはいつも連れて行かれてたんです。母が家で練習もしているのも聴きながら育ちました。それでも私が子供の頃はシャンソンが特別流行ってるわけではないし、テレビから聴こえてくるR&Bとかポップスのほうに行ってたんですけど。
ーー 歌手になりたいというお気持ちはそのころからあったんでしょうか
琴音:そうですね、子供の頃から歌うことは大好きだったので歌手になりたいとはずっと思っていました。それで気がついたら自分もシャンソンのお店に出てて、でも『蛙たち』に出演し始めた頃はシャンソンのレパートリーなんか全然なかったんですけど。
シャンソニエのいいところって、必ず歌手は3、4人ブッキングされるんですね。前座、中堅、ベテランみたいな感じの順番で。それで先輩方の歌を聴いていると、本当に皆さん個性豊かだし、レパートリーもいい意味で偏りがあったりしてキャラが立っている。そんな中で、自分もシャンソンの良さに気づかされてレパートリーも増えていきました。
「次世代 シャンソン歌手発掘コンテスト」でグランプリを受賞
ーー それからコンテストに出演されたんですね
琴音:日本シャンソン協会が主催する『次世代 シャンソン歌手発掘コンテスト』というのがあることを聞きまして。第1回目だし、30歳以下っていう規定にもあてはまるので応募してみようということで出場したら、思いがけずグランプリをいただいたという感じでした。審査員がシャンソン界の方ばかりではなかったんですよ。それはたぶん、協会の羽鳥功二(シャンソン歌手・芦野宏の次男)さんの意向もあったと思うんですが、純粋に歌を聴いて、そのステージを見てどう思うかっていうのを審査して欲しいというコンテストだったんじゃないかなという気がしました。
ーー シャンソンを歌うに際して、お母様から何かアドバイスとかレッスンみたいなことはあったりしたんですか?
琴音:全然ないですね。レッスンっていうのも親子だとなかなか難しくて、結構喧嘩になっちゃうっていうか(笑)。でも、母は母なりに考えてくれて譜面を譲ってくれたりですとか。譜面はピアニストさんやアレンジャーの方にお願いして、もちろん有償で作っていますから簡単に人に譲るものではないんですけど、 母は歌いたいのがあったら何でも言ってくれていいよって。それはやっぱり応援してくれていたからっていう感じはしますね。でも何よりも、幼い頃からライブハウスやミュージカルの劇場にいつも連れていかれてたことが自分には財産になってるなと思いますね。普通だと聴けないような先輩方のステージや舞台裏まで見せてもらったりとかっていうのがありましたから。
子供心にかっこいいなと思ったシャンソンの先輩たち
ーー 越路吹雪さんをはじめ、日本のシャンソンの名歌や名録音は聴かれたりしていましたか?
琴音:はい。でも昔の録音はどちらかというと、自分がシャンソンを歌うようになってから聴くようになりました。何より覚えるために。それまでは母が出演するライブハウスで実演を聴いていました。さすがに越路さん世代の方はもういらっしゃいませんでしたが、今も活躍されているシャンソンの先輩で『銀巴里』に出演されていた方の歌を聴いて、子供心にかっこいいなと思っていましたので。
ーー 老舗のシャンソニエは雰囲気も独特ですし、お客様も年齢層が高めだったりするわけですよね?
琴音:スタイルとしてはジャズのお店と結構似ているところもあるかなと思うんですけど。やっぱり若手、中堅、ベテランみたいな感じで組むのが一番の特徴なんですね。私はここ5年ぐらいソロライブを中心にして、シャンソニエにはあまり出ていなかったんですが。そういう序列みたいなものがあるのは、 個人的にはいいと思うんですけど、そうなると自分のアーティスト性みたいなものがなくなっていっちゃうんじゃないかなという思いがありまして。それで一度シャンソニエを飛び出してソロライブをずっとやってたんですけど、今となってはシャンソニエならではのポジショニングでひとつのステージを作る良さといいますか、ベテランの方の歌も聴けて勉強になるというのを改めて実感しています。
今はあまり歌われていないような曲も私たちの世代が継承していかないと
ーー シャンソンを絶やさない、歌い継いでゆくという使命感もありますか?
琴音:ベテランの方のレパートリーをいいな、歌いたいなと思ったら、それを実践していかないと、次第に歌われていかなくなってしまう曲もたくさんあるなと思います。越路さんにしても今はあまり歌われていないような曲が結構あるので。そういうものを私たちの世代が継承していかないとみたいな思いはたしかにありますよね。
ーー 最初のコンテストで優勝出来るるような予感といいますか、自信はあったんでしょうか
琴音:どうなんでしょう。グランプリを獲れるとは思ってなかったんですけど。私が歌ったのが「恋のロシアンカフェ」っていう曲だったんですが、せっかく国際フォーラムの大きなステージで歌えるんだったらいいパフォーマンスをしたいなと思って(公演の前に)ロシアに行ったんですよ。ロシアンカフェっていうのは、実際はパリにあったロシア風のカフェが舞台なんですけど、今の時代はパリにそういうロシアンカフェってのはないわけで。昔のロシアの王侯貴族がフランスに亡命して、自分たちの故郷を懐かしんでロシア風のインテリアのカフェを作って流行らせたみたいな背景があってできた曲みたいなんですけどね。だからグランプリを獲れたのは何のおかげかっていったら、実際にそうやって現地まで行っていろんな景色を見ながら歌のイメージを作ってきたこともあるんじゃないかなっていう。
ーー すごい行動力ですね。1曲のためにそこまではなかなか出来ないと思います
琴音:シャンソンとかカンツォーネとか、ヨーロッパのそういう音楽には、景色、風景を歌っていたり、例えばアムステルダムのように町の名前が曲名になっているケースも多いです。そうなると実際にその場所へ行ってみて、イメージを掴みたいという思いがありまして。アムステルダムにも行きましたし。でもそういう実際に行ってみた場所の曲をライブで歌った時は、お客様からの評判がすごくいいんですよね。前と全然変わったねっていう風に言われるので、それからは曲のイメージを掴むために海外にいろいろと出かけて行くようになりました。ちゃんと数えたはことないんですけど、ヨーロッパを中心にいろんな国へ行ってます。
ーー 実際に現地の音楽にも触れられたり。それはいつもおひとりで行かれるんでしょうか?
琴音:そうですね。いつも私はひとりで行くんですよ。誰かと一緒に行っちゃうと、ライブハウスとかへ行っても、観光で来たのねって感じで終わっちゃうんですけど、ひとりで行くと、この子は本当に勉強しに来たのかなって感じで受け入れてもらえる。なんかひとりでかわいそうみたいな感じでミュージシャンの人もすごく話しかけてくれたりするんです(笑)。それで友達になって “こういうとこでセッションやってるから面白いよ” とか情報教えてもらったりして、その人たちのライブで一緒にやらせてもらったりとか、そういう風にどんどん繋がっていくのも楽しいんですよね。
ーー ひとつの国には長い期間滞在されるんですか?
琴音:シャンソンがきっかけで、ヨーロッパの音楽もいろいろと歌うようになるんですけど、そこから、 アストル・ピアソラというアルゼンチンの作曲家にすごくはまってしまいまして。ピアソラの曲はブエノスアイレスが舞台になってるものがすごく多いので、それで現地へ行ってみたら、すごく良いところでお友達もたくさん出来まして。その時は初めてで2週間滞在したのかな。その後、1ヶ月滞在、2ヶ月滞在とかで計4回。結構長い間行ってます。
やしきたかじんが歌うシャンソンがかっこいいって思う
ーー 音楽のジャンルにとらわれることなく、その中のひとつがシャンソンみたいな感じでしょうか
琴音:そうですね、20代の頃はとにかく音楽だけで生計を立てようって思いながら、依頼があればなんでも歌いますみたいな感じでやっていた時期があって。それで歌謡曲のお仕事も結構やらせていただいたりしました。シャンソンと共通点もないわけじゃないというか、歌謡曲の歌手の方もシャンソン歌われることはありますよね。ちあきなおみさんですとか。もともとシャンソンの訳詞をされていた作詞家のなかにし礼さんも歌謡曲のヒットソングもたくさん書かれていますし。日本の歌謡曲だと思われがちでも、実はフランスの曲とかもあるんですよね。私はやしきたかじんさんが歌うシャンソンがかっこいいって思うんですよ。「サンジャンの私の恋人」とかを歌われていて。
ーー 琴音さんが思われるシャンソンの魅力はずばりなんでしょうか
琴音:断然言えるのは、やはり歌詞が面白いっていうところですね。途中でちょっとお芝居っぽい長台詞が入ったものだったりとか、日本語の訳詞もそうですけど、もうフランス語の原詞からして面白いんですよ。ものすごく文学的な表現があったり、皮肉っぽい歌詞があったりですとか。いかにもフランス人らしいなっていう。私も歌わせていただいている「恋のロシアンカフェ」は、原曲はわりと地味な歌詞なんですが、日本で美輪明宏さんがお歌いになる際につけた歌詞がすごくドラマチックで。そういったケースもあるんですけど。
岩谷時子やなかにし礼のような、作詞家の天才たち
ーー シャンソンの訳詞をされた岩谷時子さんやなかにし礼さんといったレジェンドに対してはどんな思いを抱かれていますか?
琴音:いや、もう、それはすごいなとしか言いようがないといいますか。世界的に見ても、自分の国の言葉に訳して歌うっていう文化はあまりないんじゃないかなという気がします。それがここまで、ひとつのシーンになるまでに至ったっていうのは。やはり岩谷時子さんやなかにし礼さんのような、作詞家の天才たちがいたからこそじゃないかという思いはありますね。
ーー 岩谷さんとパートナーを組んだ越路さんの存在は本当に大きかったと思います。歌われる際に意識されたりはしますか
琴音:個人的には他の歌手の方のことは全く気にしないです。それは根本に人の曲を歌ってるからかもしれませんね。シャンソンでは自分のオリジナル曲をやってるわけじゃないので。例えば越路吹雪さんがお歌いになっていてもアダモの曲であったり、いろんな人が歌ってるわけですから、その中でどれだけ自分にしかできない表現をするかみたいなことが重要かなっていう感じがしますね。
シャンソンの明るい未来をお見せできるんじゃないか
ーー 今回、『次世代シャンソン歌手発掘コンテスト』の10回目を記念するコンサートで、後輩の皆さんと一緒にステージに立たれるわけですが。
琴音:はい、私が一番の年寄りになります(笑)。すごく楽しみですね、いろんな意味で。私もこの世界ではまだまだ若輩ですから、先輩という気持ちはないです。芸の世界ってあまり年齢は関係ないと私は思っているんですよ。もちろん先輩の歌手には敬語を使いますが、ミュージシャン同士は一緒にこう演奏する仲間みたいなところがあるんですよね。今回のブルースアレイのライブに参加するメンバーもみんなそれぞれに個性があって。これまでのコンテストの入賞者だったりとか、グランプリを獲った人だけのコンサートなので、濃すぎるライブにならないかが心配というか、お客さんが倒れたりしないか、鼻血とか出さないかが心配です。みんなとにかくキャラ濃い人ばかりですから。だけど、本当にみんな素晴らしい歌い手さんなので、シャンソンの明るい未来をお見せできるんじゃないかという気がします。ぜひ観にいらしてください(8月8日、原宿にて)。
Information
次世代シャンソン歌手発掘コンテスト10回記念コンサート 〜次世代へ繋ぐ才能の共演〜
【開催日時】
・2024年8月20日(火)
・1部:OPEN 14:30 / START 15:30
・2部:OPEN 18:00 / START 19:00
【出演】*五十音順
・あるまゐら
・Wen Shu
・大塚茉莉子
・琴音
・白川さくら
・高橋絵実
・内藤加菜
・陽菜
・矢向亜弓
・八田朋子
・レジョン・ルイ
【演奏】
・森若三栄子(Piano)
・和田弘志(Bass)
・桑山哲也(Acc)
・仲本雄平(陽菜Piano)
【会場】
・BLUES ALLEY JAPAN
【予約 / お問合せ】
・Blues Alley Japan
・03-5740-6041(平日12:00〜19:00)
・コンサートチケットは『Blues Alley Japan』のみの販売となります。電話にてお問合せください。
【企画 / 制作】
・一般社団法人 日本シャンソン協会