自閉症息子、小6と中1のギャップに大苦戦!校則、部活、定期テスト…親はどこまでサポートする?
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
中学校のギャップについていけず、少し落ち込むハル
わが家の長男ハルは、小4の時にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)と診断されています。中学生になったハルが最初に戸惑ったのは「制服」でした。制服がダボダボで重いこと、暑い日でも衣替え前は校則上学ランを着ていかなければならないことへの不快感を、私に訴えていました。また、中学生になって初めて着けたベルトの感覚にも慣れないようでした。重い鞄をロープで荷台にくくりつけての自転車登校も「校則」だったのですが、慣れるのに時間がかかり、よく転んでいました。
さらに、「部活動」でも戸惑いがありました。スポーツが苦手だったハルですが、わが家が暮らす地域の中学は必ず運動部に入らねばならず、バスケットボール部に入部しました。バリバリ「体育会系」の顧問の先生と相性が良くなく、よく怒られていたようです。
・先輩よりも先に水を飲まない
・自分が受け持ったノルマや、部活後の掃除が終了してもそのまま終わりにせず、周囲を見渡してほかにやることがないか探す
など、『暗黙の了解』として特に言われなくともほかの部員たちがやっていることが、ハルには分からないことが多かったです。
これは「どうして良いか分からない」状態なのですが、周囲からは「やる気がない」と捉えられてしまい、本人は苦しんでいました。
さらに、「定期テスト」も大きなハードルでした。中学校では一度に全教科、広範囲の内容が出題されます。初めての定期テストで思いのほか点数が低かったことに、少しショックを受けていました。
小学校では範囲も単元ごとだし、記憶力だけでそれなりの点数がとれていたので、初めての定期テスト後は自分のできなさに驚きを隠せない様子でした。さらに中学では『順位』という、分かりやすい数字で自分の立ち位置が分かります。中学校生活が始まって早々、数々のギャップに落ち込んでいるようでした。
中学生、親はどこまでサポートすべき?迷いつつも私がとった行動は……
そんなハルの様子を見ていた親の私は、とりあえず、部活の先生にアポイントを取りつけ、本人の特性について話をすることにしました。すると、入学前にも教頭先生や養護教諭に面談をお願いして話をしておいたのですが、先生内で周知されていなかったことが分かりました(あとから周りの話を聞くと、そのようなケースは多かったようです)。
そのため、特に接触の多い部活の顧問や、担任の先生には、改めて入学後にも親から個別面談を申し込むなりしたほうが良かったのだな……と思い知りました。
学習面では、中学生になってまで……との考えも頭をかすめましたが、その気持ちは横に置いておいて、日頃の勉強やテスト対策に、最初から「中1の2学期までは」と決めて付き合いました。期限を決めることでこちらも心に余裕ができますし、ハル本人には「あとはなるべく自分で!」という気持ちが持てると思ったからです。
一問一答形式を繰り返すことで、記憶力が必要な歴史や地理、国語の漢字などは成績がアップすると、本人も分かってきたようでした。英語はまず親しむことから……と、ポップスで英語のみの歌詞を良く聞くようになりました(コレはそのとき英語に興味があった弟からの提案でした)。親しむ、楽しむという点において、それは大正解でした。数学は元々好きな教科だったので、ノータッチでも自分で勉強を進めていました。
そんなふうに、自分の特性や得意と苦手のバランスを見て、いろいろ親子で試行錯誤した結果、主要5教科の成績に関しては学年の中でも上位の成績になり、ハルのやる気もぐんとアップしました(不器用ボーイなので、美術や技術・家庭科など実技4教科の成績は、相変わらず底辺のあたりをさまよっていました……)。
中学生になる直前、分かった目の特性
ハルが中学校に入学する以前から、よく光を異様に眩しがることがあり、私は気になっていました。本人もつらいと訴えるようになったので病院を受診してみると、これは光過敏という症状で、目で光を感じやすい敏感な体質だということが分かりました。
受診結果を持って担任の先生や部活の顧問と相談した上で、帽子をかぶらせてもらう、座席を光の影響が受けづらい場所にしてもらう、屋外練習などで光に当たりすぎてつらくなったら、一時的に休憩をさせてもらう、などの配慮を学校で受けられるようになりました。高校受験の際にも、学校に願い出て校長から話をしてもらい、合理的配慮を受けるための書類を提出して、窓際ではない席で受験させてもらうなどができました。
本人に聞くと、「小さな頃は『眩しいのが当たり前』だと思ってずっと我慢していたけれど、周囲と比べてもどうしてもおかしいと思った。中学生になって、やっとどれだけツラいかを言葉で伝えられるようになった」とのことでした。障害というほどではないけれど、人より敏感な部分があり日常的に困っている……そんな言葉で伝えるのが難しかった自分の症状を、12、3歳になってやっと言語化できるようになったのでした。
高校に合格し進学した後も、校則上の服装にはない、帽子やサングラスなどを使うため『異装届』を学校側に提出して許可をもらうなど、特性からくる困りごとへの対策は今も続いています。
そんなハルですが、困りごとを自分の力で克服したこともあります。中1までは足がとても遅く、協調運動も苦手なことがコンプレックスでしたが、「そんな自分を変えたい!」と中1の秋からランニングを始めました。
それからは毎日4キロ走るようになり、中2から駅伝選手にも選ばれるようになりました。これは、「一度決めたら曲げられない、ルーティンにこだわる」というASD(自閉スペクトラム症)の特性が、良いほうへ作用したのかもしれない、と見ていて感じました。特性を理解して自ら強みに変えたり、どうしても困ったときは周囲に助けを求めたりできることも、人としての成長の一つなのかなと、私は感じています。
今現在、あくまで見た目ではふつうの高校生。身長は私よりもずっと高くなってとても大人っぽく見えるけれど、コミュニケーションスキルに関しては、やはり周囲の同年代よりもずっと苦手です。「好きなこと」や「趣味」も、まぁほかの子どもと同じような部分もありますが、特定のものにこだわりが強いのは相変わらずです。
親の私も忘れがちですが……どうしても譲りたくない自分のこだわりや、ルーティンを大事にするからこその「初めてのこと」への柔軟性のなさ、適応力の乏しさなど、まだハル自身の課題は多くあるのだなと感じます。
それをハルが自ら認めて受け入れたり、周囲に理解してもらうためにも、自分もまた周囲を理解しようと努力する……大人になるまでに少しずつでもそうなっていけるよう、今後も見守っていこうと思っています。
執筆/安田ふくこ
(監修:室伏先生より)
ふくこさん、ハルくんの中学生生活における困りごとと、それに対する工夫や支援、その結果について詳しく共有くださり、ありがとうございます。小学生、中学生、高校生と年齢が上がるにつれて、どの程度家族が関わっていくのが望ましいのか、お悩みの親御さんも多くいらっしゃることと思います。ふくこさんが書いてくださった、「特性を理解して自ら強みに変えたり、どうしても困ったときは周囲に助けを求めたりできることも、人としての成長の一つ」というお言葉、多くの親御さんに届いて欲しいと思いました。
「自立」という言葉には、「周りからの助けを受けずに自力で生きていくこと」の意味もありますが、福祉の分野では、「自己決定に基づいて主体的な生活を営むこと」「自分の能力を活用して社会活動に参加すること」と定義づけられています。自分の苦手なこと・不快なことを知ること、自分の得意なこと・好きなことを知ること、そしてそれを周りに向けて表現して必要な支援を求めたり、自分に合ったやり方を模索したりすることは、とても大切な自立への歩みです。全てをこっそりとやってあげてしまうのではなく、どんなことになぜ困っているのかについて話し合うことや、生活しやすくなる方法や支援の求め方を本人にも知ってもらうことは、自立に向けての手助けになるかもしれません。ハルくんは、ご自身の気づき、そして努力と、ご家族のサポートによって、自立への道を着実に歩かれていますね!これからのハルくんを、私も応援しております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。