「妄想で終わらないのがヤユヨの日!」勢いが増すばかりのヤユヨ、hockrockbとの対バンでみせた気迫に満ちたライブ
なんだ? どうした!? ヤユヨ! いつからこんなに気迫に満ちたライブをするバンドになった!? 6週間前に『真面目にぶっ跳べファンキー!ツアー2024』のファイナルを見たばかりだぞ。
ライブ中、幾度となく「楽しい」と言ったリコ(Vo.Gt)は対バンの黒子首改めhockrockbとヤユヨのライブ・パフォーマンスを合わせて2時間を超えたイベントを、「ほんまに楽しかった! 来年も会いましょう!」と締めくくったが、それはこちらのセリフ。
体調不良のため、活動を休んでいるはな(Ba.Cho)の分もがんばらなければといつも以上に気合が入っていたからなのか。例年以上に特別な日にしたいと思ったからなのか。それともリコ曰く調子に乗ってMCで喋りすぎて、時間が押してしまった2日前の大阪公演の反省からなのか。いずれにせよ、ヤユヨが終始見せつづける圧倒的な姿に60分間ずっと快哉が止まらなかった。
2021年から毎年、「ヤユヨの日」である8月4日に開催している自主企画ライブ『やゆヨ!』。今回は東京に加え、地元大阪でも開催し、両公演ともに対バンを迎えるという結成5周年のアニバーサリー・イヤーにふさわしいものになったが、リコとぺっぺ(Gt.Cho)がこれまでの『やゆヨ!』を振り返るラジオ風のトークを開演前のBGM代わりに流したり、いわゆる物販に加え、メンバーが古着や手作りのアクセサリーを持ち寄ってフリマを開いたりといつも以上に普段のライブとは一味違う気分を楽しませつつ、筋を通すようにバンドの本分であるライブ・パフォーマンスで観客を驚かせたヤユヨ。この日、改めて惚れ直したというファンはきっと少なくなかったはずだ。
念願だったというhockrockbとの対バンも、お互いのバンドのキャラクターの違いが見どころになるという意味でベストな組み合わせだったと思う。そのhockrockbのライブは歌謡ロックナンバー「無問題」からスタート。「バンドにとって大事な日に一緒に音楽がやれてうれしいです。一生のつきあいにするつもりで、心を込めて演奏して、歌っていきます!」と堀胃あげは(Vo.Gt)が言いながら、サポートに江渡大悟(Gt)と西野恵未(Key)を迎えた5人編成で、hockrockbはさまざまな感情が去来する全12曲を披露。ブラック・ミュージックの影響が滲む巧みなアンサンブルがスタンディングのフロアを揺らしながら、憂いを含んだ堀胃の歌声が観客の気持ちを絡めとるように魅了していく。
「熱帯夜」と「Guu」では、みと(Ba)のグルービーな演奏が際立つファンキーな演奏に堀胃がエレキから持ち替えたアコースティック・ギターの歯切れのいいコード・カッティングがラテン風味を加える。かと思えば堀胃の歌声が凄みを帯びた「怒り」は、江渡と田中そい光(Dr)のフレーズの応酬も見どころだった。
そして、バラードの「クールに戦え」から、「歌う準備はできてますか!?」(堀胃)となだれこんだラストナンバーの「トビウオ愛記」。ダンサブルな演奏に手拍子とワイプで応える観客を、メンバー全員で導きながら、シンガロングの声を響きわたらせ、観客の気持ちを一気に解き放ったエンディングは、まさに見事の一言だった。
そんなhockrockbに対して、ヤユヨは石川ミナ子(Dr)の連打から演奏になだれこむと、頭にかぶっていたスカーフをいきなり取ってしまったリコの姿も印象的だったが、「YOUTH OF EDGE」から「futtou!!!!」「チョコミンツ」「うるさい!」「Yellow wave」とアップテンポのロックナンバーを、ほぼノンストップでたたみかけるように繋げ、前半戦を一気にぶっとばしていった。まるでガレージ・ロック・バンドのように!
ビートをラウドに鳴らす石川、ベースフレーズに大胆にグリッサンドを加えるAkane(Ba)――リコとぺっぺを支えるサポートの2人のダイナミックな演奏も頼もしい。その2人とぺっぺがマイク片手に、まるでロックスターが憑依したように奔放なパフォーマンスを繰り広げるリコの後ろで向かい合い、目で会話しながら演奏を楽しむ姿も見どころだったことを忘れずに記しておこう。
見どころと言えば、ファンキーな「チョコミンツ」で、リコがキーボード・ソロを弾く前に「行きまーす!」と声を上げたのは、それが新たなライブの見どころだと意識しているからだ。
「ヤユヨの日! 年に一度の特別なイベント。いろいろな夏のイベントがある中で、今日、ここを選んでくれたあなたは、とてもセンスいいです! ありがとうございます。今日はめちゃくちゃ羽目を外して、忘れられない夏の思い出を作りましょう!」(リコ)
リコがラップにぐっと感情を込めたR&B調のチルナンバー「POOL」の演奏のキメにいつも以上に迫力が感じられたのは、ストロボの効果なのか、それともバンドの演奏に気合が入っていたからなのか。
「hockrockbとの対バンを楽しみにしていました」と語ったリコは、続く「おとぎばなし」のイントロでhockrockbの推しポイントに堀胃の歌声を挙げ、「一緒に歌えないかなと妄想してたんだけど」と言葉を続けたのだが、その時点でそれが前フリであることに観客全員が気づいていたことは言うまでもない。
「妄想で終わらないのがヤユヨの日!」(リコ)
観客の期待通り堀胃が登場し、リコと歌声を重ね、フロアを沸かせながら、ヤユヨの日ならではの景色を観客の記憶に焼き付ける。そこからバラードの「あばよ、」に繋げると、三拍子のニュアンスを含む石川のドラムをはじめ、テンポを落としながら、リズムを際立たせた力強い演奏で観客を釘付けにする。アウトロではぺっぺがエモーショナルなギターソロを披露した。
ライブが終わりに近づいていることを惜しむように「まだまだそばにいてほしいよ!」(リコ)と繋げた「Stand By Me」。自分達の殻を破ることをテーマに作ったミニアルバム『BREAK』の中でタイトなアンサンブルに磨きを掛け、メロディの展開で曲を盛り上げることにトライしたこの曲がこの日、一際印象に残ったのは、歌をより魅力的に聴かせるリコとぺっぺのハーモニーワークもさることながら、歌も含め、4人の一体感がタイトなアンサンブルの中で浮き彫りになっていたからだ。そこに凄みを感じたりも。
「めちゃめちゃ楽しいです! 超しあわせ! 今年も特別な日になりました!」(リコ)
本編の最後を締めくくったのは、ヤユヨの日ならではの粋な計らいと言えそうな「前夜前夜」と「さよなら前夜」のメドレーだ。リコの歌にぺっぺがギターの音色を重ねた「前夜前夜」からバンドインしてなだれこんだ「さよなら前夜」では前半戦同様にガレージ・ロック・バンドを思わせるエネルギッシュな演奏を炸裂させ、フロアを揺らすと、観客の手拍子とシンガロングの中、ソロを回しながら、最後はリコのハーモニカソロでとどめを刺す!
『ON/OFFツアー2024』と題した全国ワンマンツアーの開催をはじめ、さらなる前進をアピールするようにアンコールで発表した今後の活動予定の数々(詳細はバンドのウェブサイトを参照されたし!)は、はなが活動を休んでいるだけにファンを歓ばせたことだろう。しかも、バンドはこの日の3日後に配信リリースする新曲「エス・オー・エス」を早速、初披露! そんなところにもヤユヨの日を特別なものにしたいというバンドの思いが窺えたが、その「エス・オー・エス」はギターのコードリフで聴かせる、これまでのヤユヨにありそうでなかったポップなロックンロール・ナンバー。ブギっぽくなるサビやバラード・パートを含む構成も耳にひっかかりを残す。
そして、エンディングを飾ったのは、前回のツアーでも一番のハイライトと言える景色を作り出していた「愛をつかまえて」。バラードとも言える曲がライブ・アンセムになるのは、演奏が絶妙に跳ねることに加え、シンガロング・パートがあるからだ。
「せっかくだからみんなで歌いましょう!」
この日もリコに促され、観客がリコと掛け合いながら、歌声を響き渡らせたのだった。最後列で見ていた筆者には観客の顔は見えなかったが、ステージの4人を含め、ここにいる全員が笑顔だったことは、まず間違いない。
「また来年も会いましょう!」とリコは最後に言ったが、とても来年まで待ってなんていられない。10月からの全国ワンマンツアーでさえ待ち遠しいくらいなのだが、この日のライブを見るかぎり、ライブバンドとして一皮剥けたのか、開眼したのか、ヤユヨの中で何かが変わった、いや、ハジけたことは明らかだ。ヤユヨのファンはもちろんだが、ヤユヨのことがちょっとでも気になっている人がいたら、すぐにでも彼女達のライブに足を運んでみてほしい。その勢いはここからさらに増していきそうな予感!
取材・文=山口智男 写真=オフィシャル提供(撮影:満田彩華)